第21話

 暫く何も無い所を、チリーンチリーンの鈴の音を聞きながら、馬に揺られていると


「佐藤様、佐藤様」


 諸福さんの呼び声に、視線を向ける。


「隣街に着きましたよ」


 真っ直ぐ先の方に、さっき入ったゲートみたいな物が見えた。

 ゲートが近づくと、鈴の音は聞こえなくなっていた。


「ようこそ」


 ゲートの所に、隣の駅と同じ服装の人が立って言った。


「ゆっくり温泉に浸かって、体をお休めください」


 ゲートが開くと隣駅同様に、大理石の床が敷き詰められていて、そしてそこには思ったより多くの人が集まっている。


「此処は、人気の場所ですからね」


「官人達が御用のついでに、温泉に浸かりにくるんですよ」


 根入さんと諸福さんは、佐藤を見ながら言った。


「大地の大神様は大地を揺るがして、お山を噴火させる事もございまして、地方には温泉街が在るのでございますが、都には残念ながら無いのでございます」


 根入さんが、とても残念そうに言った。


「さようで。地方の者は皆温泉にあやかり、所によっては温泉を引いて、家で浸かる事もできるのですがねぇ………」


「都人は、それをできぬのでございます。ですから都に住む者達は、旅をして近くの温泉街に迄行かねばならず………官人はお役のついでに、一泊して疲れを取って行くのです」


「………それって、日本でもそんな感じっす。温泉旅行とか行きますもん。温泉街では家に温泉引いて、内風呂入っているとか?」


「内風呂でございますか?」


「ああ。日本の家には風呂場があるんす。その風呂場には、バスタブがあって、そこにお湯を入れて浸かるんす」


「バスタブ?」


「浴槽………!風呂桶っす」


「風呂の桶?」


「人が一人入って、肩まで湯に浸かれる様になってるんす」


 根入さんと諸福さんは、物凄〜く想像している様だが、きっと伝わっていないだろう。後で下手だけど、絵を描いてあげよう。

 駅の出口には門番みたいな人がいて、その横から馬の世話係が急ぐ様にやって来て、馬を土間の在る所迄連れて行っている。すると馬は、土間でドバーッと尿を吐き出していた。その後世話係が桶を持って来て、例の最強微生物の入った土を汚れた所に掛けている。

 最初は吃驚仰天の光景だったが、段々と慣れて来ている自分に吃驚だ。

 どうやら馬は、駅路では粗相をしない訓練を受けているらしい。

 それとも馬が、そういった気を起こさない時間を、一駅としているのか?

 明治時代には、まだ馬が走っている事があったらしくて、馬の糞尿問題があったと、何かで聞いた事があったが、此処はそういった問題を解決する何かがあるのだろう。

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