第20話

 木造建ての建物の中に入ると、床はさっきの店の様な土間では無くて、大理石の様なツルツルの床張りだった。そんな中の一部に土間があって、そこに小ぶりの馬がいっぱい柵に繋がれている。と言っても、一面に草が生えていて、その草をむしゃむしゃと食べている。そして食べながら糞をするから、馬の係の様な人が、慌てて桶に入っている土を持って来て、牛車の牛の係がしていた様に、馬の糞にその土をかけている。気に止める訳ではないが、何となく見ていると、土がもぞもぞと動いている。


「あれは微生物が、糞を処理しているのです」


 諸福さんが、凝視している佐藤に教えてくれた。


「微生物が?って早過ぎません?」


「さようで?………変わりないと存じますが?直に土となり、それが肥やしとなるのでございます」


「肥やし………肥料っすか?」


「作物の栄養となるのです」


 佐藤の馬を引いてくれる事になっている使用人が、佐藤に言った。


「あーーー肥料だ………」


 佐藤は、チョピリ小さな声で言って納得した。


 根入さんと諸福さんも、連れて来ていた馬を帰してしまったので、良さそうな馬を選んで颯爽と乗って見せた。佐藤は、使用人の手伝いを借りて、どうにか乗って轡を引いてもらい、ツルツルの床の上を歩いて行く。

 ピカピカでツルツルな感じの床だったから、滑ってしまうのじゃないかと心配したけど、案外馬は慣れていて蹄の音を立てて上手に歩いた。

 ゲートの様な所に、門番みたいな人が立っていて、根入さんの使用人が何やら見せると、佐藤を直視して頷いた。


「お気をつけて、行っておいでなさいませ」


 そう言うとゲートが開いて、真っ直ぐに馬が通れる程の道が現れた。そこに馬が足を運ぶと、ただ何も無い道だけが在る世界が広がった。


「駅路でございます」


「何にも無いんですね?」


「さようで。ただ此処を歩くだけで、山も谷も川も飛ばして行けるのです」


 チリーンチリーン………。


 誰かが鈴を鳴らしている。


「鈴の音がする」


「ああ……時神様に、駅路を使っている事を、お知らせしているのです」


「時神様?」


「時と所を、飛ばして下さっているのです」


「………とは申せ、これは使者が早く着く為の物でして、それを我ら官人も使うを許されているのです」


「官人が地方に下る折や、都に上る折に使う事が許されているのです」


 ………時空を超えているって事か………


 佐藤はちょっと考える。

 ある時期の文化を日本から取り入れ模して、それから固有の文化を作ったとか言っていたが、もしかしてパラレルワールド的な日本の異世界?

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