第14話

 朝食を終えて暫くすると、諸福さんが、やって来た。


客人まろうど様は、馬に乗れぬかと存じまして………」


 諸福さんは、申し訳ない様子で言う。

 本当に腰の低い人だ。


「時を費やすが、やはり牛車で参りますか?昨今では我らの様な者でも、牛車の使用は免じられておりますし、客人様ともならば………」


「ふむふむ……さほどに慌てずとも、大事なかろう………書状は送ってあるし………」


 ………とか日本では、考えられない会話をしている。


「………あのぉ………馬に乗ってみようかと思いまして」


 佐藤は二人の会話の腰を折って、何だかんだ申し訳ないが、馬に乗れる様な気がしている。


「乗られた事は、ないのですよね?」


「はい。ポニーすら、乗った事がありません」


「ポニーでございますか?」


 異口同音で二人が言った。


「あっ!こんな小さくて、触れ合い広場では、大変人気なヤツです」


「………触れ合い広場で、ございますか?」


 二人は又々、怪訝そうな顔を作った。

 動物園や移動動物園でポニーは人気だし、運が良ければ乗せてもらえる。

 そんなポニーすら無縁だったが、案外異世界に行ったら、スキルアップしていたり、身体能力が抜群になってたりする………感じが定番な気がしたから、案外軽くヒョイと乗れて颯爽と走らせられて


「うおー!凄い」


 とか、言われる感じかもしれない。

 などと、酒の勢いも手伝ったのか、そんな事を昨日思い当たってしまったのだ。………ただの佐藤個人の、異世界転生イメージなんだけど。


「ではでは………」


 根入さんの広い庭に出ると、使用人が馬を連れてやって来た。


 ……………ん?ちょっとドラマや映画で見る、〝馬〟が違う様な?

 足は細く長くないし、なんかちょっと小さくてずんぐりむっくりしてる。

 佐藤はちょっと首を傾げながら、使用人に手伝ってもらって馬の背に………


「えっ?」


 どうにか乗ったものの、馬は全く動く気配を見せず………いや、これってダメってヤツじゃん………

 使用人に引っ張ってもらって、パカパカと歩く………。


「これは何日か練習致せば、乗れるやもしれませぬな?」


 人の良い二人は、手を叩いて嬉しそうに言ってくれる。


「………っと言っても、長旅は自身がありません」


 佐藤は恥じ入る様に、やっぱり使用人に手伝ってもらって、馬から降りながら言った。

 ………やっぱ、異世界転生ではないのかもしれない………とは言っても、微妙に今迄居た世界と違うのは、微妙な異世界転生ってヤツ?だからスキルも身体能力もアップしてないのか?

 ちょっと小さくて、ずんぐりむっくりした馬を見ながら考えていると、馬は鼻を広げてヒヒーンと笑った。


 ………絶対バカにして笑った………

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