第12話

 つまり日本の家屋には、二階建てなら一階と二階に、上手くすればトイレも風呂場も設置されているものだが、ここでは、廊下を繋げた個別の建物を、わざわざトイレと風呂場の為に建てるのだそうだ。

 特にお金持ちなら、その別棟に作ったトイレとか風呂場の数が多く、主人と使用人と分けられていて、また男使用人と女使用人とも、お金があれば分けてあるのだそうだ。

 ………なるほど、どこの国でも金持ちは、大きな建物に住んでいるという事だ。

 トイレを済ませて来ると、昨日の様に脚付きの盆が用意されていて、根入さんは座って食べていた。


「諸福が迎えに来たら、出立いたしますゆえ、それまでゆるりと食され」


「ありがとうございます……」


 見ると脚付き盆が二つ置かれて、てんこ盛りの色付きご飯に、小皿に入ったおかずが並んでいる。


「鮑がお好きと聞きまして、鮑汁に致させました」


「それは……本当にありがとうございます」


 佐藤が嬉しそうに座って箸を取ったので、根入さんは優しい笑顔を向けて来る。


「ここら辺は、鮑やら色々と獲れますからな、遠慮なさらずお食べください」


「鮑が穫れるんすか?」


「ええ。この先の先の先が、海辺ですから」


「ああ……そこに、倒れていたんでしたっけ?」


「さようで………佐藤様のお国では、鮑とかは穫れないのですか?」


 根入さんが、興味深気に聞いた。


「いえ。鮑はあります………が、高級食材です」


「高級食材?宮中でのみ、召し上がる物でございますか?」


「宮中?あーーー確かに宮中では、良い物を食べていると思いますが、天皇家でもそんなに庶民とは、大差ない様にしていると思います。庶民的な暮らしを心掛けている様だし………」


「それは!」


 根入さんは、そう言い掛けて佐藤を見つめた。


「日本の天子様は、現人神であられましたな?」


「あらひとがみ………」


「人間の姿で現れた、神の事でございます」


「えっ?やっ!天皇陛下は人間ですよ?」


「………はて?あちらの天子様も、現人神であられるはず………」


 根入さんは、モゴモゴと呟いている。


「永き時を経て、人間とお成りになられたのか?」


 根入さんは、佐藤を直視した。


「日本の天子様も、帝同様に天の大神様の子孫であられます」


「………はぁ?」


「しかしながら、我が国は稀有なる国ゆえに、帝は神獣をお抱きとなられるのです」


「………その〝お抱き〟とは、どんなものなんでしょう?」


「はぁ?」


「あーーーつまり、神通力を使える?とか」


「神通力?」


「奇跡をおこせるみたいな?」

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