第10話

 小分けした料理はいっぱいだし、白酒も気に入ったから、三人で白酒を飲み交わしていると、広い部屋は開けっ放したままで、大きな月がポカリと見えて綺麗だ。


「うわっ、月も星も綺麗っすねー」


 日本の一般家庭である佐藤には、想像もつかない広さの庭だし、二階建ての建物が無いから、平屋の家の軒から輝く星と空が広がっている。その中央に今まで見た事も無い程に、眩しい月がポカリと浮かんでいる。


「月も星も、変わりはないでしょう?」


 根入さんは感動する佐藤に、苦笑する様に言った。


「全然!全然違いますって………日本の都会じゃ、この半分……もっとか?星なんて見えないんですって………」


「ははは。佐藤様は、童の様ですなぁ」


「本当なんですって。こんなに綺麗じゃ無い。建物もこう………グワーって高くて、夜も明るくて………」


「夜が明るいとは……」


「夜は暗い物ですぞ……」


 酒を呑みながら、根入さんと諸福さんは笑う。


「………そうですよね……ここは本当に暗い………」


 佐藤は根入家の使用人達が、広い庭に火を付けていて、それが煌々と燃えているのを見ながら言った。

 ………初詣に出かけると、神社仏閣の鳥居とか本堂とか参道とかに、置かれている松明の様な火が燃えている。

 その明かりは、佐藤の知らない明るさだ。

 都会や住宅街の明るさと違って、ここだけが煌々と明るい感じで、その先が暗く闇が広がっている感じ。

 凄く暗くて怖い感じがするが、それとは別に惹かれる感じもする。


「いやいや、暗いと申されましても……月も星も出ておりますからな」


 余りに真剣に佐藤が言うから、二人は苦笑を浮かべて言った。


「さようさよう。今宵程に月が輝いておりましたら、ソコまでではございません………ああ。さほどに佐藤様のお国は、輝いたお国なのですなぁ」


「輝いた?う〜ん、ちょっと違うけど、確かに街全体が明るいんです」


 なんて説明すればいいんだろう?その明るさに慣れてしまったら、星の明るさも月の輝きも、こんな風に明るく感じないし、それが当然になってしまって行く………。

 佐藤は何とも言えない感情が、湧き上がって来るのを戸惑いを持っているのに、二人は楽しく酒を飲んでいて、佐藤の気持ちを理解しようとはしてくれなかった。


 ………あの暗闇から、何かが出て来そうだ………


 そうは思うものの、篝火の先にある暗闇はちょっと魅惑的だ。

 だけど佐藤はそんな事を感じたものの、二人に促されて案外口に合う白い酒を、有り難く頂いてすっかりそんな事を忘れて酔い潰れてしまった。

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