第9話

「はい……遠路遥々お越しくださり、暫く昏睡であったとか?滋養のつく物をと思いまして………」


 ちょっと悪意的な微笑みを浮かべて、根入さんは言った。


「えっ?昏睡状態だったンスか?」


 佐藤自身が、吃驚して聞いた。

 だって気がついたら、諸福さんの家の、薄い布団に寝ていたんだから。


「はい。この先の先の先の……海辺に打ち上げられておったのを、漁師が見つけて、私の所に運んで参ったのでございます」


 諸福さんは


「ご相伴にあずかります」


 とか言って、黒炙りイモリを口に入れて言った。


 ………ゲロ。まじかー………


 佐藤の渋面を見て根入さんが、ちょっとほくそ笑んだような、いない様な。


「今上帝になられましてから、客人様が度々お越しになられる様になりまして………」


「………って、意識して来るんじゃなくて、意識不明的な感じで来るって事っすか?」


 そこはちょっと、しっかり聞いておく佐藤だ。馬鹿じゃない。無知だけど。


「………そこの所は……?ただその様にお越し頂く事が多く、未知なる服装で行き倒れておる者がおれば、近くの役人とか郡司とかに連れて行く様、触書きが廻る様になりまして………此処では、佐藤様が初の客人でございますが………」


 根入さんが言った。


 ………やっぱ召喚ってヤツなのか?龍を抱ける天子だから、そういう技を持っているor神だからそういう事をする……そういう設定か……というか、二人の言い方だと、佐藤が意識して来てるって感じに取れるけど、決して来たくて来ている訳じゃないし………


 硬いイモリの炙りの、残りの尻尾を噛み締めて佐藤は思った。

 イモリを喰うのは嫌だが、臭みとか触感とか全くなくなっていて、ただ硬い炭を食ってる感じだが、ちょっと苦いが効き目はありそうだ。

 そう言えば、神から賜った物は、何でも食べると言っていたけど、こういう事なのか………。

 芳ばしいとは言いようが無いが、苦味の残る口に、白酒を流し込むと美味かった。


「これって白酒っすよね?甘いかと思ったら、ちょい酸っぱ目で美味いっすね」


「口当たりが宜しかろう?我が家秘伝の、酒でございます」


 根入さんが、ちょっと自慢気に言った。


「えっ?家で酒を作ってるんスカ?」


「ここでは、何処でもその様にしております。無論我が家でも作っておりますが、国司様の酒には及びませぬ」


 諸福さんが、盃を口に持って行きながら言って、ク〜という感じに、表情を作った。


 ………ああ、イモリ喰ってるから、美味いんだな………


 イモリの黒炙りと白酒、癖になりそうだ。

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