第6話

 諸福さんが門前の、使用人みたいな人と話しをすると、牛と離した車を塀に立て掛けて、牛の側に寄っている世話係を見ている佐藤を促して、門の中に入って行った。


「牛は放すんですね………どっか行っちゃわないんすか?」


「………牛飼童うしかいわらわがおりますから……アレ等は、牛に慕われております」


「牛でも懐くんだ………」


 佐藤が感心したりで言うと、諸福さんはクスリと笑った。


「我が国には八百万の神々様が在わしまし、その神々様に選ばれたモノが役目を得るのです」


「へっ?」


「牛は田畑も耕し車も引く、それは有能なるモノゆえ、そのモノ達に選ばれるは、選ばれる者の栄誉であるのです。ゆえに代々大事に牛を育て、大事にするのです」


「へぇ………そんなに大事に育ててたら、食う気にならないっすよね?」


「食う?牛をですか?」


 諸福さんは、吃驚した様に言った。


「ええ。牛丼とか焼肉とか……」


「………ああ……異国ではその様な食が、存在致すとか聞き及びますが……我が国では、牛や馬や豚?ですか?その様なモノを、食用として育てたりは致しません。しかしながら、猟をして食す事はあります」


「猟ですか?」


「………ただそれは、神々からの賜り物でしか食せません」


「………じゃ、肉とか食えないんすね?」


 佐藤が、ちょっと残念そうに言う。


「いやいや、多種多様な肉を食します。ただそれ等は、全て神々からの賜り物であるという事です」


 言っている意味はかなり不明だが、肉を食う文化はあるらしい。

 ………よかった。鮑と粥だけでは無い様だ………

 ………いやいや待て。多種多様な肉って……嫌な響きだ………


 とか佐藤が考えながら、大きく広い木造の平屋の廊下を歩いていると、障子に仕切られたフローリングの広い部屋にたどり着いた。


「おお、これはこれは………」


 諸福さんと同じ様だが、ちょっと高級感のある生地の服装の男が、奥の平べったい畳から降りてやって来た。


「やはり、日本ひのもとの方であられたか?」


 男は嬉しそうに、諸福さんを見て聞いた。


「さようで……日出ずる国日本ひのもとより、お越しにございます」


「………そうかそうか?諸福、でかしたぞ。帝がお呼びとなられた御仁である、恙無く都にお送り致さねば………よくぞ見つけて、私の所に連れて来てくれた」


「………はっ。お役目を果たせまして、恐悦至極にございます」


 諸福さんは、粛々と頭を下げて言った。

 こういう姿を見ると、豪族って感じだ。よく豪族を知らないが………。


遠国とおのくに国司くにのつかさであります、根入でございます」


「あーーー日本から来ました、佐藤です」

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