第4話

 ………鮑粥実に美味かった………


 佐藤はガタゴトと、乗り慣れない馬車………ではなくて、牛に引かせている牛車っていうのか?それに諸福さんと乗って、食った事などなかった、鮑粥を思い起こして思っている。

 何とも美味すぎて、諸福さんも老女も、脚のあるお盆を持って来た女子すらも、唖然とした表情を隠せない程に、お代わりをしてしまった。

 〝アワビ〟なんて高級品だが、それを粥にするなんて、案外諸福さんは偉い人なのかもしれない。

 家は何というのか……木造の平屋のフローリングだったけど、家を出たら案外敷地は広くて家も大きかったし、使用人達もいた様だ。

 それにこの馬車じゃない、牛に引かせている牛車だが、ガタゴトガタゴトと落ち着かないし、そんなに早く走ってるもんでもないのに、一応この国の乗り物なんだろうが、異世界転生物の乗り物って、確かに意表をつく奇怪な生き物に乗ったり、車を引いてたりするけど、まさか牛とは………これはこれで意外性を突いてくる感じ?


「諸福さんって、偉い人なんスカ?」


 人の好さそうな諸福さんなので、佐藤はちょっと聞きやすくて聞いた。

 もはや佐藤の中では、異世界転生の主人公と化している。


「えっ?とんでもございません」


 案の定諸福さんは、佐藤の期待通りのリアクションを取ってくれる。


「私は、地方の郡司でございますから……」


「地方のぐんじスカ?」


「あーーー。都から遥かに遠い国の……豪族というところでして……」


「えっ?やっぱ偉い人じゃないッスカ」


「とんでもない。私など……中央の人間と比べれば……こんなこんな、ちっぽけな存在ですよ……」


「そうなんだ………」


 テレテレと牛車に乗って、延々と続く田畑の中を歩いて行く………。

 やっぱり、諸福さんの様な格好をした人々が、農作物を作っているが、驚く程に作物は立派に育っている。


「ああ。日本ではこの様な光景は、余り見当たりませんか?」


「いえ、田舎に行けば田んぼも畑もありますけど……こんなに立派になっているのは見た事無いから………」


 牛車の手前には、何の野菜だろう?青々と葉のなった野菜がなっていて、その先は黄金色に染められた、絵画を見ている様な光景が広がっている。


「アレは稲でございます」


「あーーー知ってます。だけどこんな風なのは、初めて見ました………」


 夕日に輝いて視界全体が、黄金色に染められている。


「もう少し穂が垂れましたら、収穫の時期です」


「こんなにたくさん収穫するのは、大変でしょう?」


 テレビで見た、耕運機が脳裏に走る。

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