第3話

「???……ここはいずつくにですよね?」


「はい」


 愛想のいい諸福もろふさんは、にこにこ答える。


「………じゃ、とおのくにというのは?」


 すると諸福さんは、シマッタという顔を作った。


「これは申し訳ございません。遠国………とは、都から遥かに遠いという事でして………ああ……其方様方の称される〝国〟とは違うのです」


 ちょっと、アタフタ感を露わにしている。


「こほん………伊豆津国いずつのくには……佐藤様のお国では、〝県〟に当たるものかと?」


「県?」


 佐藤が少し考え込んでいると、諸福は再びアタフタとして見せる。


「あーーー。もしかしたら、〝市〟とか申すやもしれません」


 ………ああ………じゃ、〝ここの国は?〟振り出しに戻ってんぞ?………


 佐藤がまたまた考えていると、諸福はちょっと恥じ入る様に


「昨今では我が国にも、異国の方が迷い込んだりする事が、多々と生じる様になりまして………。異国の方が来られる事は、いろいろと外界の世情を知るに良い折となりますので、宮中の殿上人てんじょうびとにおかれましては、有り難いお方達なのです。ゆえに我ら遠国とおのくにを守ります者達は、客人まろうどがおいでとなりましたならば、都の天子様の下にお送り致さねばならないので、その………客人を見つけた折のマニュアルを、丸暗記して対応しておるのですが………なにせ此処に客人様が、お出でとなったは初の事でして………」


 諸福はとても恥じ入る様に、へへへ……と笑った。


 ………マニュアル?丸暗記?………


「………それはご苦労様です………」


 佐藤は、ちょっと気の毒になって口を吐いていた。


「はぁ……恐れ入ります……あっ!しかしながら国司様ならば、都から任を得て参られているお方ゆえ、私よりもよくご存知かと………」


 諸福さんは申し訳無さそうに、愛想笑いを浮かべて言った。


 ………つまり此処は日本ではなくて、日本によく似た設定の異世界というヤツか?アレって、小説や漫画の世界の事だと思っていたが、現実として起き得る事だったのか?マジかー。って事は未知との遭遇で、宇宙に行っちゃう人間もいるって事か?マジかー………


 とか思っていると、さっきの老女が若い女子を連れて戻って来た。


「今日獲りたての、新鮮な鮑の粥でございます」


「おお。鮑粥は実に、美味でございますぞ」


 諸福さんは、凄く嬉しそうに笑って言ったが、脚の付いたお盆に乗った、実に味のある木彫りの椀に入った粥は、物凄く好い匂いがした。そしてその脇に漬け物が添えてある。

 粥に漬け物………定番だ。

 匂いに釣られて早々に、木製のスプーンを手に取って食いついた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る