少女の名は

2人が走り去った後、開けっ放しになった障子を大瀬はそっと閉めた。

廊下に向き直り膝を着く。

しばらくすると紅のばあやが通りかかった。


「その方、栗林の姫を見かけませんでしたか?」


ばあやは落ち着いているように見せて、息が上がっている。思ったよりも長い時間あの姫は逃げていたんだと、大瀬は姫を見直した。


「あちらの方に駆けて行かれましたよ」

何気なく答えた大瀬。


「駆けて?姫が、お城の中を駆けたと申すか?」

「あ、いえ。歩いて行かれました」

「そうであろう」


ばあやはそれで納得したようだ。


「その方、姫を見つけたら捕まえておいてください」

「かしこまりました」


そろそろだな。と大瀬は思った。

そろそろ準備を始めないと婚礼に間に合わなくなってしまう。

大瀬は立ち上がるとそのまま庭に降りてどこかに消えていった。


今日は、この平賀城で、城主の甥と家老の娘の婚礼が行われる。


九州の田舎にある平賀藩は、普段は質素だが、婚礼となると派手になり、この日も大勢の人がお城に出入りしている。

御馳走の匂いや、準備を進める者達のにぎやかな笑い声。

どこにでもある田舎の結婚式。

その中を掻い潜るように2人は逃げていた。


しっかりと手をつなぎ、時々小部屋に隠れながら。


逃げることより2人で走っていることが楽しくなってきていた頃、飛び込んだ小部屋で金色に光る屏風びょうぶを見つけた。

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