第12話 開戦から1ヶ月 追い込まれた皇国
アドルドンを総大将とした鉄剛騎士団は、初めに3ヶ所で戦端を開いた。そしてその全てで勝利を収め、そのまま3つの部隊は皇都での合流を目指して皇国内を蹂躙する。
途中途中で兵士や武人の抵抗があったが、初戦で大きく戦力を減らした皇国軍では、アドルドンたちの侵攻を止めることができなかった。
そうして村や町で略奪を繰り返し、兵士たちに休息を与えながらもその刃は皇都へと近づいていく。
そして侵攻開始から30日後。アドルドンは占領した町で一番大きな屋敷で休んでいた。
部屋にはアドルドンに犯された黒髪の皇国人女性が、股間から白い体液を垂らしながら倒れている。
(さて……明日はいよいよ皇都だが……)
ここからが難しい。時間をかければ攻略は可能だが、できれば降伏に応じてもらえたら話が早い。
なにせ皇国もあとがないのは分かっている、兵力は皇都に集中しているだろう。それに死ぬ覚悟を決めた兵士ほど手ごわい者はいない。
アドルドンは部屋を出ると、廊下を歩く。居ても居なくても変わらないのだが、一応マイバルと打ち合わせをしておこうと考えたのだ。彼も領主であり、領軍を束ねる立場である。
もっとも領軍は数だけで練度もなにもないため、戦場においてはいつも隅っこに配置しているだけなのだが。
「う……うう……」
「ふひゃひゃひゃ! ほれほれ! 皇国の女に優秀な帝国人の子種を仕込んでやろうと言うのだ! 感謝しろぉ!」
マイバルは部屋を訪ねるまでもなく、廊下で皇国人の女を犯していた。今は壁に両手を付けさせて立ちバックで腰を振っている。
略奪は命を懸けた兵士が得る権利だし、アドルドン自身も中央から許可された範囲で行う。だがマイバルと彼の引き連れる兵士たちは、いささか度が過ぎていた。
「おお、アドルドン殿! 今回も快勝でしたな!」
「……ええ」
マイバルはアドルドンの姿を見ても腰の動きを止めない。それどころか女性の頭を掴んで身体ごとを壁に押し付け、さらに乱暴に犯していた。
「ふぅ、ふぅ……! 皇都には貴族も多いし、財宝や女も期待ができる……! 楽しみですなぁ、アドルドン殿!」
「……皇都における略奪は許可されていません」
「そう固いことをおっしゃるな! なぁに、少しなら中央もお目こぼしするでしょう。こうして命をかけて戦っているのは、我らなのですから……なぁ!」
「いぎぃっ!?」
マイバルは一際強く身体を押し付け、腰の動きを止める。
「お……おお……! 皇国の女は芋くさい者が多いが、ここの具合は素晴らしいな……!」
「ひ……!? ま、まさか、中に……出して……? い、いやああぁぁぁぁあぶっ!?」
叫ぶ女の頭をマイバルは壁に叩きつける。元々女に対して乱暴だったが、皇国人に対してはよりその傾向が顕著に表れていた。
壁に女の鼻血が付いたのを見て、マイバルはフンと鼻を鳴らして腰を引く。女はその場で倒れ込んだ。
「……明日騎士団を合流させたあと、皇都の正面に陣を張ります。その後、降伏勧告の使者を送る予定です」
「降伏勧告ぅ? どうせのってこまい、無駄ではないのか?」
「さて……普通に考えれば、皇国の敗北は明らか。賢明な指導者であれば、これ以上無駄死にを出す前に皇都を明け渡すと思うのですが……」
そう言いながらもアドルドン自身、皇国が降伏してくるとは考えていない。
この1ヶ月、皇国人と戦い続けて分かったことがある。それは彼らは帝国人よりも、祖国愛が強いということだ。
どれくらい強いかと言えば、祖国のためなら自分の命を平気で差し出せるくらいになる。
もちろん全員がそうではないし、帝国人にもそうした気概を持つ者はいる。しかし割合で言えば、皇国人のほうが多いだろう。
このまま皇都を蹂躙されるくらいなら、最後まで戦って死ぬ。その覚悟を持つ者が多いだろうとアドルドンは考えていた。
(武人の強さは肉体だけではなく、その精神力も……だな)
だからこそ帝国の一員となれば、とても心強い戦力になる。しかし度が過ぎた略奪を行えば、より皇国人は帝国に対して頑なになるだろう。
そう考え、アドルドン自身は途中から略奪の範囲に制限を設け始めていた。
彼の騎士団は統制が取れており、アドルドンの指示が行き渡っていたが、ここでも勝手をしているのはやはりマイバルとその領軍だ。
「降伏勧告にのってこなかった場合、騎士団は皇都正面に展開します。マイバル殿には皇都の北部を押さえてもらいたい」
「ふむ?」
「南部は山脈、東部は進んでも海に行き当たります。もし脱走者が出るのなら北の可能性が高い」
「なるほど。アドルドン殿の騎士団による攻撃で、怖気づいて出てきた者たちを討つわけですな」
「……いえ。民間人も多いでしょうから、なるべく捕える方向でお願いします」
皇都自体は高い城壁があるわけでもなく、急造の防御陣地が広範囲に広がっているだけだ。おそらく皇都に敵軍が攻めてくることを想定していなかったのだろう。
その分皇都は広大で物の行き来もしやすい造りになっているが、今回はそれが仇になっている。
(海岸線沿いには漁を行っている村もあるはず。皇都の民間人はそこまで避難しているかも知れんな)
また皇国は他国との交流がほとんどなく、大きな船が接舷できるような港も整備されていない。
だが皇族が船で逃げる可能性も捨てきれない。そこでアドルドンは念のため、動きの速い軽装歩兵を少数皇都東部へ先行させていた。
とはいえ、皇族が船に乗って逃げる可能性はほぼないと踏んでいる。海に出ても向かう先がないからだ。
仮にどこかの国へ行けても、こうなっては皇族を帝国からかくまう国などないだろう。
「とにかく話は分かった。アドルドン殿、皇都の北は任されよ」
「よろしくお願いします」
■
1ヶ月前と比べ、皇都の雰囲気は随分と変わっていた。戦端が開かれ、初戦で敗北した皇国軍は帝国軍の侵攻を防げなかったのだ。
初めて帝国軍と戦った時のことはよく覚えている。
最初に激突した時、勝ったと思った。そして追撃をしかけ、このまま帝国軍を追い払える……と思っていたら、いつの間にか正面に敵の増援がおり、しかも取り囲まれていたのだ。
その時の様子は、砦の物見やぐらで見ていた者から聞いた。
「皇国軍は確かに逃げ惑う敵兵を追いかけていた。しかし奴らの逃げた先に、新たな部隊が来ていたんだ。そして逃げていた帝国兵たちは左右に分かれ、反転して追いかけてきていた皇国軍を包囲した……」
話を聞いてもよく分からなかった。いや、理屈は分かる。だが戦場では敵も味方も必死だし、だからこそ撤退を開始した時は命惜しさに本気で逃げたのだと思った。
しかし敵は逃げながら、実は前に出てきたこちらを取り囲むべく動いていたと言う。咄嗟の判断だとは思えない。あらかじめ高レベルな連携の鍛錬を積んでいたのだ。
そしてそれを理解した時。俺は心の底から恐怖した。
帝国軍はこちらより大部隊なのにも関わらず、それほど高度な動きができるのかと。同時に、個の強さの限界も思い知った。
(鉄剛重装隊……敵の主力部隊か……)
帝国軍は少数の弓兵と騎兵、そして大部分は軽装歩兵と重装歩兵の組み合わせだった。
平原が少ない皇国領では騎馬の力を発揮できる戦場は限られているし、合理的なのかも知れない。いや、皇国の情報を集めた上で編成された部隊という可能性が高い。
俺も黒鉄の重装兵と戦ったが、刀を通すことができなかったのだ。高位武人の中には、鋼すら斬れる技量の持ち主もいるとは聞くが……俺ではできない。
とにかく皇国は帝国軍を侮っていた。敵は決して武器を持っただけの平民ではなく、1人1人が集団行動で戦局を勝利に導ける戦場のプロなのだ。
どちらかと言えば己の武で戦い抜く傾向がある武人とは、性質が反対の存在だと言える。
だがそれに気づいた時には、既に皇国は各地で負け続け、どんどん皇都まで押し込まれていた。
相手は対皇国を見据えてしっかり準備してきていたのに、皇国は準備どころか相手の情報までまるで足りていなかったのだ。
そして今。とうとう皇国軍は皇都まで追いやられ、俺も皇都に戻ってきていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます