第37話 葛藤する彼ら彼女ら

 海辺のホテルでの夕食は、楽しい時間のはずなんだけど。


 みんな、どこかぎこちない感じで。


 まあ、それも仕方のないこと。


 いくら、仲良しで、お互いに許し合ったとはいえ。


 まさか、本当にカップル交換をするなんて……


「じゃあ、よっくん……行って来ます」


 それぞれの部屋の前で、一旦の別れを言う。


「うん、育実ちゃん……」


 いま、彼女に寄り添うのは、桐生だ。


 あいつが、本当に良いやつだって分かっているけど。


 それでも、胸と股間がザワザワしてしまう。


「峰くん」


 ふと、そばにいた松林さんに呼ばれる。


「じゃあ、私たちも……入ろうか?」


「あ……うん」


 普通、これだけの美少女に誘われて、断るバカはいないだろう。


 けど、俺は……


 パタン。


 想像以上に、良い部屋だ。


 2人用だから、ベッドが2つある。


 これなら、いっそのこと、1つの部屋で公開交換プレイもありだったんじゃ……


「……先にシャワーを浴びても良いかしら?」


「ど、どうぞ」


「ありがとう」


 松林さんは、ニコッと微笑む。


 そして、バスルームに入って行く。


 その間、俺は部屋の中をウロウロと、落ち着きなく動き回る。


 ふと、となりの部屋の様子が気になって、壁に耳を当てて見る。


 しかし、何も聞こえない。


 まだ、行為に及んでいないのか。


 あるいは、同じようにシャワーを浴びているのか。


 ああ、ちゃんと承諾したはずなのに……


 NTRもイケる口なんて、口走ったくせに……


 今さら、すごく後悔しているかも……


 でも、育実ちゃんから提案したことだし……


 ただ、それは彼女がイケメンの桐生とエッチしたい、という訳ではなく。


 友人の2人を救うための、提案だから。


 1度、実体験をして、その幻想をぶち壊す……と。


 けど、もしこの1回きりで終わらなかったら……



『あんあああああぁん! 桐生くん、よっくんより上手ぅ! もう、このまま乗り換えちゃうぅ~!』



 ……ズーン、と一気にへこむ。


 被害妄想が甚だしいかもしれないけど。


 育実ちゃん……




      ◇




 思えば、エッチの前にこんな緊張するなんて、久しぶりかもしれない。


 よっくんとのエッチは、いつも最高に気持ち良いけど。


 何度もしている分、緊張感には欠けているかもしれない。


 けど、これからエッチをするのは……別の男子。


 わたしたちの友人であり、同じクラスのイケメン……桐生くん。


 正直、入学当初、全く憧れがなかったと言ったら、嘘になる。


 女子は本能的に、イケメンに降伏し、幸福を求めちゃうらしいから。


 もちろん、わたしはちゃんと、一般的に陰キャで非モテのよっくんのことが大好きだけど……


 きゅっ、とシャワーの栓を止める。


 水滴がしたたる自分の胸を見て、これからコレをよっくん以外の男子に揉まれると思うと……何とも言えない気持ちになる。


 全く興奮しない、と言ったら嘘になる。


 別にわたしはよっくんほど変態じゃないから、そんなNTR願望とかないし。


 今回の件だって、わたしが提案したけど、あくまでも友人2人を救うためだから。


 決して、嫌らしい気持ちにために、行為に及び訳じゃないの。


 なんて、言い訳がましいけど。


 わたしはある意味、気合を入れつつ、浴室から出た。




      ◇




 彼女に対する憧れ、欲望が全くなくなった、と言えば嘘になる。


 自分たちの罪を告白し、2人と友人になったあの日から。


 あまり、そういった感情は抱かなくなっていた。


 けど、いま俺の目の前には……


「……シャワー、空いたよ」


 入学当初、密かに想い焦がれ、欲していた、豊満ボディ。


 その持ち主たる俵田さんが、タオル一枚を巻いただけの状態で……いま、ここにいる。


 そして、彼女の提案で、今晩だけ、好きなだけ彼女の胸を揉みまくって良いことになっている。


 こんな幸福なこと、あって良いのだろうか?


 忘れかけていた、彼女に対する情熱が……再燃してしまう。


「……じゃ、じゃあ、俺もシャワーを浴びるよ」


「うん……待っているね」


 俵田さんが、峰のことを好きで、俺に対して恋愛感情を抱いていないことは分かっている。


 ただ、それでも、このシチュエーションで、このセリフは……グッと来てしまう。


 何だかんだ、俺も性欲旺盛な、男なのだ。




      ◇




 シャワーを浴びて、少しは気持ちが落ち着くかと思ったけど。


 段々と、彼との行為が近付いて来ることを実感して、むしろ気持ちが高ぶってしまう。


 それは決して、マイナスの感情ではない。


 むしろ、忘れかけていた、圧倒的なプラスの気持ち。


 ちゃんと、2人に告白謝罪をして、あくまでも友達と関係性を割り切った。


 けれども、やはり……私はまだ、峰くんに未練があったのかもしれない。


 だから、育実ちゃんの提案は、申し訳ないと思いつつも……正直、ありがたい。


「お待たせ、シャワーどうぞ」


「う、うん……」


 峰くんの表情は、やはりぎこちない。


 当たり前よね。


 これから、女として好きでもない私とエッチ行為をする。


 何よりも、大切な彼女が、自分以外の男と……


 やはり、今からでも、止めるべきなのかしら?




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