第36話 まさかの提案

 ずもも、ずもも、ずももっ。


 そんな効果音、初めて聞いた。


 とりあえず、目の前で、すごい勢いで、ヤキソバが吸引されていく。


 ぽっちゃりモンスターのお口に。


「どんだけ食うんだよ」


 思わず、俺がボソッと呟くと、ぎろっ、と睨まれる。


「誰のせいだと思っているの?」


「えっ、俺?」


「当たり前でしょうが。海の中で、あんなエッチなことして……腹減るわ」


「いや、まあ……ごめん」


 結局、俺たちは、最後までシなかったものの。


 海の中で、だいぶハッスルしてしまった。


 ちなみに、美男美女カップルも。


「……でも、アレだな。話には聞いていたけど……桐生って、テクあるよな」


「え、峰? いきなりどうした?」


「いや、何か見ていて……それに比べて、俺なんてがっつくだけだなって」


「でも、男はそれくらいの方が良いよ。俺はなんていうか……まだ、自分の殻を破り切れていないのかなって」


「……ごめんなさいね、祐介くん。あなたの性欲をかきたてるほど、魅力が足りなくて」


 松林さんが、珍しくチクリと。


「いや、そんなことは……」


「いえ、ごめんなさい、私こそ……」


 う~む、この2人。


 決して、仲が悪い訳じゃないし。


 お互い、大人だから、上手いこと関係を続けているけど。


 何だか、ちょっと煮え切らないよなぁ~。


 見ていて、歯がゆいというか……


「……ねえ、わたしから1つ提案しても良い?」


「何だよ、育実ちゃん、マジメな空気なのに。どうせ、おかわりでしょ?」


「ぎろっ」


「こわっ」


「殴らないだけ、感謝しなさい」


「当たり前の話なんだよ。で、何?」


「うん、その、大声では言えないけど……」


 育実ちゃんは、何だかごにょごにょとしている。


「……今日、ホテルを予約しているでしょ?」


「うん。一応、カップルごとに分かれる前提で、2人部屋を2つ取ってあるけど……」


「そう、夜はカップルごとに、ムフフな時間を過ごそうと思ったけど……」


 育実ちゃんは、そこで少し長く、沈黙した。


「……ちょっと、交換してみない?」


「……えっ?」


「今晩だけ……」


「い、育実ちゃん……もう、俺に飽きちゃったの?」


「へっ? いや、そんなことないよ。よっくんは、わたしの永遠の彼氏だから」


「か、彼氏どまりか……」


「って、もう、面倒くさいなぁ。とにかく、わたしはよっくんが1番……だけど」


「だけど?」


「大切な友達……かりんちゃんにも幸せになって欲しいから」


「育実ちゃん……」


「たぶん、だけど。かりんちゃんも、桐生くんも、わたしとよっくんに対して、幻想が大きくなっていると思うの。だから、このままだと……いつまで経っても、前に進めないかなって」


「それは……確かに、そうかもしれないわ」


「申し訳ないけど、俺も……正直、完全には俵田さんのことが、吹っ切れていないかも」


「桐生……」


「すまん、峰」


「いや、その……」


 みんなして、気まずくうつむいてしまう。


「だから、さ。そのわだかまりをなくすために……今晩だけ、交換エッチしない?」


 カップル同士の仲良し4人組で行動していれば、いずれはそんなことにもなるんじゃないかと思っていた。


 けど、まさか、育実ちゃんから提案するなんて……


 でも、たまには陰キャの俺でなく、イケメンの桐生とエッチしたいというよりも。


 友人の松林さんたちを救いたいという、切なる願い。


 その想いに対して、俺は……


「……わ、分かったよ」


 そのアンサーをする時、喉が、心が震えた。


 良くも悪くも。


「よっくん……本当に良いの?」


「ああ、うん……本当は、だいぶ抵抗あるけど……桐生なら、ワンチャン許せる」


「峰……ありがとう」


「いや……」


「ただし、なんだけど……キスと本番は無し……でどうかな?」


 育実ちゃんが言う。


「ああ、なるほど……じゃあ、あくまでも……おっぱいを楽しむと」


「まあ、そうなるね」


「……ごめんなさい、峰くん」


「えっ、松林さん……やっぱり、陰キャの俺なんかとするのは、気持ち悪いってこと?」


「ううん、そうじゃなくて……キスも本番も無ければ……私なんて、育実ちゃんに比べて魅力に欠けるカラダだから……申し訳ないなって」


 そう言われて、俺は改めて松林さんのカラダを見た。


「……そんなことないよ」


「えっ?」


「松林さんのくびれた腰、脚線美、均整の取れたボディライン……ぶっちゃけ、めちゃシ◯いよ」


「そ、そんな……」


「よっくん、今すごく殴りたいんだけど、良い?」


「お、落ち着けって。そもそも、育実ちゃんの提案に乗ってあげたんでしょうが」


「むっ、そうだけど……」


「じゃあ、今晩は……そういうことで」


「峰、本当に良いのか?」


「ああ、何だか、ちょっと吹っ切れて来たよ。それに、前にもチラッと言ったかもしれないけど。俺、NTRを恐れつつも……何だかんだ、興奮している節もあるからさ」


「ねえ、かりんちゃん。このクソ彼氏、エッチする時に思い切りビンタしても良いよ」


「おい、それじゃ色々と趣旨が変わって来るだろうが」


「でも、よっくんて、ドMでしょ?」


「はぁ? それは育実ちゃんの方だろうが。普段は俺の方がやられっぱなしだけど、ベッドの上では正にブタのごとく泣きわめいて……」


「ふんっ!」


 ごしゃっ。


「……今のは俺が悪かった」


「分かればよろしい」


 顔面の中央がくぼんだ状態で俺は詫びる。


 他の2人は苦笑していた。




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