第34話 また、NTRの危機が……

 モールの水着売り場にやって来た。


 分かっていたけど、男性客よりも、女性客の方が多い。


「じゃあ一旦、男女で分かれよう~」


 ってことで、俺は桐生と一緒に、男性コーナーに向かう。


「ていうか、さっきは勢いで言っちゃったけど。マジでブーメランパンツはちょっとな……普通の海パンにしよっと」


「ああ、そうだな」


 俺と桐生は男らしく、適当にサッと選んで買う。


 そして、近くのベンチに座って待つ。


 女子はどうしても、時間がかかるから。


 そんな苛立つことはない。


 ただし、何ていうか、ソワソワ……いや、ムラムラしてしまう。


 やばい、ちょっと気になって、ジロジロと女性コーナーに目を向けると。


 買い物中の女性たちに、心底キモそうな目で睨まれてしまった。


 けど、となりの桐生に目が行くと、その表情が和らぐ。


 マジで、こいつと友達で良かったと実感した(クソ最低)。


「あ、お兄さんたち」


 すると、何かちょっとギャルチックなお姉さんが、こっちに寄って来た。


 一瞬、ナンパされるのかと思った。


 もちろん、桐生の方が。


 けれども……


「彼女さんたちが、お呼びですよ~?」


「えっ? あ、ああ、もしかして、店員さん?」


「そうです。水着、似合うか見て欲しいって」


「わ、分かりました」


 俺たちはベンチから立ち上がって、女性コーナーに踏み入れる。


 俺はビクつきながらだけど、桐生は普通に入った。


 まあ、こいつみたいなイケメンは、男子禁制のところでも、むしろウェルカムだからな。


「あ、おーい、よっく~ん」


 聞きなれた声に、少し安心感を覚えつつ、振り向くと。


「……ぶほっ!?」


 思わず、鼻水が出かけた。


 それくらいの、衝撃を受けた。


「どう? 似合うかな?」


 我が彼女、育実ちゃんが着ているのは……白のビキニ。


 案の定、その豊満ワガママボディっぷりが炸裂している。


 さらに、白という膨張色を纏うことで、さらにその暴力的なボディがヤバい。


 マジでヤバい。


 こんなのがビーチを歩いていたら……


『フヒヒ! たまには、美味しそうなブタちゃんでもいただくか~♡』


『いや~ん!』


 ……クソ、またしても、NTRの危機が!


「あれ? 似合わないかな?」


「いや、その……んっ?」


 俺はふと、もう1人の女子の存在を思い出す。


 我が彼女さまのインパクトが強過ぎたけど。


 こちらだって、決して引けを取らない。


 むしろ、だいたいみんなは、こっちに意識を奪われる。


 キラキラと、圧倒的なオーラを放つのは……


「……うわ、すっご」


 俺の目線の先には、松林さんがいる。


 こちらも、ビキニ。


 色はピンク色。


 色は違えど、似たようなビキニ。


 しかし、着る素体によって、こうも変わって来るとは……


「……うん、これなら安心だ」


「はぁ?」


 松林さんと一緒なら、育実ちゃんがナンパされて、食われることもないだろう。


「どう、かしら? ちょっと、派手かしらね? ピンク色なんて……」


「い、いや、そんなことないよ……ほら、桐生も何とか言ってやれよ」


「あ、ああ……似合っているよ」


「そ、そう? ありがとう……」


 カップル2人は、ぎこちなく言い合う。


 いや、この2人は、正式には付き合っていないんだった。


 何ともまた、微妙な関係性だ。


「ふん、この浮気者め」


「育実ちゃん?」


「どうせ、わたしみたいなブタ女なんて、醜いだけって思っている?」


「いや、そんなことは……ぶっちゃけ、育実ちゃんのビキニ姿、ドスケベ過ぎて、ナンパされてNTRされないか、心配なくらいだよ」


「よ、よっくんってば……♡」


「……あ、でも、そもそも大丈夫だった」


「えっ?」


「育実ちゃん、強いから。ナンパ野郎もぶっ飛ばせるか。はぁ~、パワフルな彼女で良かったよ」


「確かに、わたしは強いかもだけど……でも、さすがに、複数のヤンチャなお兄さんたちに囲まれたら、そのまま……NTRされちゃうかも♡」


「…………」


「よっくん? 冗談だよ?」


「……あ、ごめん。ちょっと、想像して、興奮していた」


「ねえ、このダメ彼氏くん、一度ボコボコにして記憶なくして、更生させようかな?」


「だから、暴力反対! 暴力ヒロインなんて、もう流行らないんだ!」


「違うよ、暴力じゃない……愛情なの」


「そんな愛情はいりません。俺はエロいことさせてくれる彼女しかいりません」


「クソサイテーな男め」


 とか、やんやと言い合っていると、


「あの~、お客さま」


 先ほどの、ギャル店員が声をかけて来る。


「はい?」


「あたしは良いっすけど、他のお客さんが……」


「んっ?……あっ」


 みんなして、ゴミを見るような目を向けていた。


 俺に対して。


「……死にます」


「よっくん、メンタルざっこwww」


「祐介くん、フォローしてあげて」


「ま、まあ、とりあえず、あっちでジュースでも飲もうか?」


 彼女は笑い、友人は慰めてくれる。


 うん、俺は幸せ者だよ、本当に。




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