第33話 夏のブタちゃん♪

 うちの学校、体育の授業で水泳がなくて、本当に良かったと思う。


 それは、俺のヒョロガリなボディをさらすのが恥ずかしい、というのもあるけど。


 それ以上に……


「「「「「……あぁ、俵田のめちゃシコ水着姿を拝みたかったぜぇ」」」」」


 ……このクソザルども。


 もはや、育実ちゃんに対する好意を隠す気ゼロじゃねえか。


 ちゃんと、俺が彼氏だって示しているのに。


 ていうか、俺みたいな陰キャならワンチャン、奪えると思ってんのか?


 まさか、クラスの野郎共、全員がNTR野郎(あくまでも候補)になるなんて……


 ちょっと、ハード過ぎやしないかい?


「ふぅ~、暑いな~」


 確かに、厚い。


 君の胸も腹も尻も、脂肪が厚いよ。


 育実ちゃん、君は普通にしているつもりだろうけど、もはやその存在がドスケベだ。


「「「「「……エッロ」」」」」


 ほら、クソザルどもが発情しているじゃないか。


 頼むから、サマーベストを着てくれ。


 そう頼んだのだけど……


『嫌だ、暑いから』


『だったら、痩せてくれ』


『あんだと~? よっくんは、本当にそれで良いの?』


『……やっぱり、そのままで』


『ふふ』


 ……ちくしょう、悔しい、悔し過ぎる。


 しかし……それ以上の幸福だ。


 もはや、みんなが愛して止まない育実ちゃん。


 けど、俺がその陰キャっぷりを活かし、みんなよりも一歩先に踏み出すことで。


 今では、誰しもが羨む彼女をゲットすることが出来た。


 ククク、この夏はきっと楽しくなるぞ~。




      ◇




 放課後。


 俺たちは、ダブルデートに興じていた。


「かりんちゃん、そんなサマベスなんて着て暑くない?」


「うん、平気よ。育実ちゃんこそ、ちゃんと着ないと。その魅力的なボディをジロジロ見られちゃうわよ?」


「まあ、もう慣れたって言うか」


「もう、油断しちゃダメよ?」


 すっかり、仲良くなった育実ちゃんと松林さんが、にこやかに会話をしている。


 一方で、俺はとなりを歩くイケメンに目を向ける。


「ん、どした?」


「あ、いや……桐生って、その……筋トレとかしている?」


「えっ? ああ、まあ……部活動をしていないし、体育の授業だけだと、体がなまっちゃうからさ。ランニングとかしているよ」


「そっか……お前、細マッチョだもんな」


「あはは、よく見ているな」


「いや、そんなことは……」


 なんて、ちょっとBLチックな雰囲気を醸し出してしまうと、BL好きな我が彼女が過敏に反応し、ニヤッとして振り向く。


 鬱陶しいなぁ、このブタちゃんめ。


「で、これからどうするんだっけ?」


「だから、おニューの水着を買いに行くの。この4人で海に行くって約束したじゃん」


「ああ、そうだった。でも、女子の水着って高いんじゃないの?」


「おやおや~、よっくん。何だか、詳しいね~?」


「いや、何となく、イメージだから……高校生のおサイフにちょっとキツいから、もう持っている水着とかじゃダメなの?」


「ダメだよ。この前、試しに着たけど、パツパツというか、はち切れそうだったし」


「な、何だと……ちょっと、証拠写真を見せてくれ」


「この変態め♡」


「う、うるさいなぁ」


「ちなみに、かりんちゃんはどうなの? もう持っている水着とか、入らない感じ?」


「いえ、私はそんな体型が変わっていないから、ちゃんと入るわよ」


「マジぃ?」


「さすが、松林さん。どっかの誰かさんとは大ちが……」


「あ、体が滑ったぁ!」


 どごぉ!


「……あ、あばら、折れちゃう」


「大丈夫だよ、ちゃんと手加減をしているから」


「この、ブタゴリラめ……」


「もう1発、欲しいの?」


 笑顔で拳を構える我が彼女さま。


 今どき、暴力ヒロインは流行りませんよ?


「じゃあ、ここに入りましょう」


 俺たちは、ショッピングモールに入る。


 もうすぐ、夏休みとあって、一般客から、学生まで、ワイワイと賑わっている。


「ていうか、君たち男子もおニューの水着、買えば?」


「いや、俺はもう持っている海パンで良いし」


「え~、そんなのつまらないよ~。ブーメランパンツ穿いて♡」


「やだよ、キモいし」


「確かに、キモいね。よっくん、陰キャのくせに、アレはおっきいから♡」


「って、おい。こんな所で言うんじゃないよ」


 俺は焦ってチラッ、と友人2人に目を向ける。


「ま、まあ、私たちも知っているけど……」


「正直、同じ男として、羨ましいよ」


 なに、この羞恥プレイ……


「じゃあ、さっさと選んで、何か食べに行こうよ」


「結局、それ目当てじゃねーか。このブ……」


「んっ?」


「……ブーメランパンツ、ちょっと見てみます」


「よろしい♡」


 クソ、俺はもう、このブタ彼女に敵わない。


 かっこ、ベッドの上で以外。




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