第30話 気張る

 午後のメインイベント、騎馬戦。


「「「「「グルルルルルルルル!」」」」」


 こいつら、馬というより、狼じゃねえか。


 やだ、目がギラついて、もう怖いよ~!


 情けなくも、すっかり涙目な俺に対して、


「大丈夫だよ、峰」


 桐生が、優しく声をかけてくれる。


 それだけで、ちょっと前向きというか、嬉しくなっている自分がいる。


 まさか、惚れているのかしらん?


 いやいや、男同士で、気持ち悪い。


 でも、桐生は同性でも惚れるくらい、イケメンだからな。


 見た目も中身も……


『位置について、よーい……』


 ドンッ!


「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおぉ!」」」」」


 たけり狂った野郎どもが、正に獣のような勢いで突っ込んで来る。


「ひっ!?」


 やっぱり、こえええええええええええええぇ!!


「峰、前に出てくれ」


「マ、マジっすか?」


「頼む、俺を信じろ」


 やだ、そんな優しくも真剣な顔で言われちゃったら……


「う、うおおおおおぉ!」


 一丁前に、叫び声なんて上げたりして。


「はっはぁ! 何だぁ、そのザコ馬はぁ? 桐生、人選をミスったんじゃないかぁ?」


 相手は高笑いをして言う。


 おっしゃる通りでございますぅ!


 どうか、お命は……


 シュッ――と。


「……えっ?」


 相手の帽子を、一瞬で捉えた。


 我が騎手さまが。


「「「「「きゃあああああああああぁ! 祐介くううううううううぅん!」」」」」


 グラウンドが一気に沸く、主に黄色い声援で。


 恐らく、以前のただのゴミクズ陰キャだった俺なら、陰で舌打ちをしていただろう。


 でも、今の俺は……純粋に、誇らしい。


 その……友人として。


「き、桐生、ナイス」


「ありがとう。でも、まだ終わった訳じゃない」


「お、おう。ちょっと、気合を入れ直すわ」


 そして、俺は果敢に敵に突っ込んで行く。




      ◇




「いや~、前にも増して、良い男になったね~、よっくん♪」


「……そいつはどうも」


 俺は腫れあがった顔で、口を尖らせる。


 正に、タコみたいになっているはずだ。


 あの後、気合を入れたは良いものの、結局はスポーツメンたちにボッコボコにされた。


 ただ、桐生は帽子を取られなかったし、何よりもケガが無くて良かった。


「峰、お疲れさん」


「桐生……」


 俺の力不足で負けたのに、晴れやかな笑顔だ。


「おかげで、気持ち良く戦えたよ、ありがとう」


「いや、そんな……こっちこそ、ありがとう」


 俺はまた照れながらも、桐生を握手を交わす。


「男の友情うまうま……いや、ぶたぶたか……って、誰がやねん!」


 育実ちゃんがお得意のオ◯ニーをかましつつ、


「よーし、かりんちゃん、行くよぉ~」


「うん。俵田さん、よろしくね」


「育実、がんば~」


「ケガすんなよ~」


「ゆっことねねもね」


 それから、育実ちゃんは俺の方に振り向く。


「育実ちゃん、気を付けてね」


「ありがとう、よっくん」


「うっかり、相手を気絶させないでね」


「おい」


「じょ、冗談だよ」


 うん、この迫力なら、きっと大丈夫だ。


「全く、よっくんめ。後で覚悟しておきなさい」


 何をどう覚悟しておけば良いのか。


 とりあえず、ベッドの上で全裸待機でオーケーですか?




      ◇




 祐介くんったら、だいぶ峰くんと仲良くしちゃって。


 もしかして、だけど……そうやって、油断させて、懐に入って……


 俵田さんを、奪う魂胆かしら?


 だとすれば、私も……


「俵田さん、これは競技だけど安全第一だから。無理しないでね」


「平気だよ、かりんちゃんすごく軽いし。ちゃんと、ごはん食べている?」


「さっき、一緒に食べたでしょ?」


「ああ、そっか。ごめん、自分の食事に夢中だったよ」


「うふふ」


 さてと、小馴れ合いはこの辺にして。


 競技に集中しましょうか。


「オーホッホッホッホ!」



 その時、高飛車な声が響いた。


松林花梨まつばやしかりん、ここで会ったが100年目よ」


 ロングヘアーをなびかせ、ニヤリと笑う。


高宮麗華たかみやれいかさん、どうぞよろしく」


「ふん、そんな風に笑っていられるのも、今の内よ」


 そう言って、


米子よねこ、よろしく」


「うん、麗華ちゃん」


 彼女は……柔道部のエース、権田ごんだ米子ね。


 体格に恵まれているわ。


 引き締まった肉体。


 腹筋もバキバキに割れているとか。


 まあ、こっちの彼女も、別の意味で恵まれているけど。


「ぷぷぷ、ウケる。あんな典型的な、ラブコメ漫画に出て来そうなお嬢キャラとか……」


 ……全く、頼もしいわね。


 まあ、あの権田さんに対抗できそうなのは、俵田さんくらいだものね。


 別に、そこまで勝ちに執着心はないけど……


 それでも、自然と身が引き締まるわ。


 勝負事は……いつだって、真剣なんだから。


『よーい……』


 ドンッ!


「俵田さん、お願い!」


「ブヒッ!……って、誰がブタやねん!」


「うふふ、おふざけしていると、ケガするわよ?」


 ある種のあざとさに、若干イラつく私だった。




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