第29話 イケメンすぎた……

 ダイエットというのは、苦しい。


「ふぅ~、何とか体重が落ちたぁ」


 気持ち、お腹まわりもスッキリして。


 でも、ちゃんとおっぱいはキープしています♡


「苦しみ……か」


 思えば、今も昔も、わたしはずっと、幸福だったと思う。


 もちろん、ノーテンキはノーテンキなりに、辛いことがあったりしたけど。


 でも、常に幸福だった。


 特に、よっくんと出会って、付き合いだしてからは。


 だから、この苦しみは、ちょうど良いスパイスだ。


 けれども……わたし達よりも、ずっと幸福なはずのあの2人。


 なぜだか、分からないけど……すごく、苦しそうに見えるのは、気のせいだろうか?


 わたし達には無い、何もかもを持っているのに。


 強いて言うなら、余計なお肉がないくらいで。


 でも、かりんちゃん、ちゃんとおっぱいもあるし……


「……よし、体育祭が終わったら、みんなで美味しいモノを食べに行こう」


 カップル2組と、出来たらゆっことねねも誘って。


「えへへ、楽しみだなぁ」


 けど、想像したら何だかお腹が減って来たので、ブンブンと頭を振った。




      ◇




 体育祭、当日。


「「「「「うおおおおおおおおおおおぉ!」」」」」


 ウェイ系と並んで、学園トップカーストに立つ存在。


 スポーツメンたちが、雄々しい叫び声を上げている。


 まあ、この晴れ舞台で活躍すれば、女子にモテモテだろうし。


 それはもう、気合が入るだろうねぇ。


 とか他人事モードだけど。


 あまり気を抜いていると、ぶっ飛ばされちゃうから。


 ほどほどにがんばろう。


「よっ、峰」


 ボッチで佇んでいた俺のところに、桐生がやって来た。


「お、おう。あれ、実行委員の仕事は良いのか?」


「うん、大丈夫だよ。それよりも、今日は期待しているからな」


「えっ?」


「ダンス、せっかく練習したんだから、悔いのないようにな」


「お、おう」


「じゃあ、お互いにケガのないよう、頑張ろう」


 桐生は爽やかスマイルを浮かべながら、スッと拳を突き出す。


 俺は戸惑いつつも、拳をぶつけ合った。




      ◇




 体育祭で輝くのは、スポーツメンだけじゃない。


「「「「「花梨ちゃあああああああああぁん!」」」」」


 パーフェクトアイドル様は、颯爽と駆け抜ける。


 当然のごとく、トップでゴールした。


 このグループ、陸上部の女子もいたのに。


「さすが、花梨ちゃんだな」


「我がクラスの誇り」


「まあ、桐生の女だけど」


「でも、その方があきらめがつくわ」


「つーか、そろそろ来るんじゃね?」


「えっ、誰が?」


「俵田だよ、あのぽっちゃりちゃん」


「デブなだけじゃない?」


「とか言って、お前もエロい目で見ているだろ?」


「まあ、否定はしないけど……」


「あ~、乳めっちゃ揺らしてくんねーかなぁ~」


 …………


 このクソザルどもが。


 育実ちゃんはな、もう俺のモノなんだよ。


 テメエらには、一切おいしい思いはさせねーよ。


 なぜなら……


「「「「「……なっ」」」」」


 密かに注目を集める育実ちゃんが、スタートラインに立つ。


 他の女子が走りやすいよう、半袖短パンなのに対して。


 びっちりと、長袖ジャージを着ている。


 さらに、その下には……


『よっく~ん! ダイエット成功だよ♪』


『マジでか……!?』


 約束通り、俺は血の涙を流しながら、育実ちゃんにスポブラを買ってあげた。


 ガチで万札が飛んだ……でも、良いんだ。


 愛する彼女をクソ野郎どもから守るためなら、安いもんよ(震え声)


「「「「「はぁ~……」」」」」


 ククク、エロザルどもよ。


 分かりやすく落ち込みやがって。


 そして、万全防備の育実ちゃんは、大きなトラブルもなく完走した。


 ちなみに、意外と速くてビリケツでは無かった。




      ◇




 昼休み。


 ダブルカップル+2人とお弁当を食べていた。


「てか、本当にうちらがお邪魔して良かったの?」


「何か、すごく申し訳ない気が……」


「そんなことないよ、ゆっこ、ねね。かりんちゃんと桐生くん、良い人だから平気だよ」


「うふふ、歓迎するわ。俵田さんのお友達だもの」


「クラスメイトだし、仲良くしよう」


「「は、はい……」」


 アイドルとイケメンに微笑みかけられ、俵田さんの友人2人はすっかりメロメロ状態になる。


 ちなみに、俺は以前にあいさつ済みだけど、こんなリアクションはされなかった(当たり前だろ)。


「ていうか、育実。あんた、大丈夫なの?」


「ほへっ?」


 ダイエットで我慢していた反動だろうか。


 たっぷりのオカズを頬張る育実ちゃん。


 リバウンドするぞ、これは……まあ、ある意味、楽しみだったり。


「午後の騎馬戦。ケガとかしないでよね?」


「平気だよ。わたし、ちゃんとダイエットしつつ、鍛えていたから」


「えっ、そうなの?」


「うん、かりんちゃんが教えてくれたんだ。過度に食事制限をするんじゃなくて、タンパク質をたくさん取ると、痩せやすいって」


「へぇ~、さすが。花梨ちゃんって、やっぱりそういった知識を持って、努力をしているから、この可愛さ、美貌なのね」


「そんなことないわよ」


 穏やかに微笑む松林さん。


 一方、桐生はどこか浮かない表情だ。


「桐生、どうした?」


 俺は遠慮がちに問いかける。


「んっ? ああ……何でもないよ」


「ていうか、騎馬戦と言えば……本当に、俺がお前の馬で良いのかよ?」


「ああ、俺は峰のポテンシャルに駆けているからな」


「いや、そんな……」


 俺が照れていると、


「う~ん、どうだろうねぇ。よっくん、スケベなこと以外、何も取り柄がないし」


「おい、育実ちゃん?」


「まあ、でも。エッチする時の、あの激しい腰使いは……」


「ストーップ!」


「むぐぐ!?」


 メシを食べかけのところで、俺に口を塞がれてもがく育実ちゃん。


 そのパワーに、俺は吹き飛ばされる。


「ぬわっ!?」


 マヌケに頭を打ってしまう。


「あ、ごめん」


「ちょっと、育実ってば、野蛮だよ」


「てか、彼氏くんよわっ(笑)」


 ……ちくしょう、何かすごくみじめだ。


「大丈夫か、峰?」


 女子が笑う中で、桐生が手助けしてくれる。


「あ、ああ。ありがとう」


 俺は起き上がると、


「なあ、桐生。やっぱり、俺なんかじゃ……」


「大丈夫だよ。俺は峰を信じている。それに、お前1人で戦う訳じゃない。俺も一緒だから」


「き、桐生……」


 やだ、何このイケメン……


「……ぐへへ、たまらんのぅ」


 育実ちゃんがヨダレを垂らしている。


 このBL好きめ。


 ていうか、友人2人も何かヨダレっているし。


「さてと……じゃあ、男子に負けないよう、女子もがんばりましょう」


「うん。わたし、張り切って、かりんちゃんの馬になるから」


 むんっ!と力強くガッツポーズする育実ちゃんだけど……


「……ねえ、今おまえは馬じゃなくてブタだろって、思わなかった?」


 みんなして、首を横に振る。


 ごめん、俺はぶっちゃけ……何でもありません。




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