第28話 偽装カップル

 今朝、登校した俺は、ドキドキして待っていた。


「よっくん、おはよ~♪」


「あ、育実ちゃん。おはよう」


「って、何かリアクション薄くない?」


「いや、そんなことは……」


「ふん、だ。良いもん、ゆっことねねに慰めてもらうから」


 プチ不機嫌モードになった育実ちゃんは、ズンズンとそちらに向かって行く。


 あとで、フォローしておかないとな……


「峰、おはよう」


 その声に、ハッとする。


「き、桐生……おはよう」


 って、何で俺、女子みたいにモジモジしているんだよ。


「どうした?」


「あ、その……き、昨日送った、ダンス動画だけど……」


「ああ、ちゃんと見たよ。峰、ちゃんと踊れているじゃん」


「そ、そうかな?」


「うん、本当に……」


 その時だった。


「おーい、祐介ゆうすけぇ~」


 チャラいメンツがやって来た。


「お前さ、最近どしたん?」


「どうしたって?」


「何で、そんな陰キャとつるんでんの?」


 うっ……


 分かっているけど。


 改めて言われると、胃がキリつくようで、苦しい。


 俺はこっそり、その場から退散しようとするけど……


「友達だから」


「……えっ?」


 俺は驚く。


 チャラメンツも。


「はぁ~? マジで言ってんの?」


「ああ。峰は、面白いやつだからな」


 桐生は決して相手を威嚇することなく。


 優しいイケメンスマイルを浮かべて言う。


 だから、チャラメンツも、それ以上は何も言わない。


「……分かったよ」


 それだけ言って、すごすごと去って行く。


 俺はしばし、桐生の背中を見つめていた。


「……ごめんな、峰」


「あ、いや……気にしないでくれ。事実だから」


「ていうか、迷惑だったか? 勝手に、友達呼ばわりして」


 振り向いた桐生は、眉尻を下げて言う。


「い、いやいや、とんでもない! むしろ、俺の方が良いんですかって感じで……」


「あはは、当然だよ。これからもよろしく、友人」


 笑顔で手を差し出される。


 やっぱり、イケメンってすげえな。


 同性なのに、ドキドキするわ。


「よ、よろしく……」


 俺はドギマギしながら、桐生と握手を交わす。


「おはよう」


 すると、可憐な女子の声がそばでした。


「あっ……松林さん」


「よう、花梨」


「うふふ、男同士、水入らずのところ悪いけど……ちょっと、祐介くん、借りても良いかな?」


「ど、どうぞ、どうぞ」


 今度こそ、俺はすごすごと引き下がる。


「ごめんね、峰くん」


 松林さんは微笑みを浮かべる。


 桐生もまた、笑みを浮かべる。


 そして、2人して教室から出て行く。


 まったく、スマイルカップル万歳だぜ。




      ◇




「……あなたって、最低ね」


 自分がこんな風に鋭い言葉を出すなんて、驚いた。


「……すまん。動画の件……だよな?」


「もちろん、それもそうだけど……峰くんを友達、だなんて……正気?」


「……分かっているよ。俺にそんなこと言う資格なんてないって」


 祐介くんは、歯噛みをする。


「でも、あの瞬間、なぜだか……そう言いたくなったんだ」


「ふぅ~ん? まあ、その気持ちは良いけど……でも、後のことを考えると、残酷すぎでしょ?」


「それは……お前だって、共犯じゃないか」


「……ごめんなさい」


「いや、俺の方こそ……」


 2人して、押し黙る。


 誰もいない階段の踊り場は、沈黙に支配される。


「……すごかったわね、あの2人」


「えっ?」


「エッチ……あんなに激しくて」


「あ、ああ……そうだな」


「アレの大きさは、たぶん互角くらい? で、テクニックは祐介くんの方が上だけど……情熱……パッションは、峰くんの方が上ね」


「女としては……やっぱり、後者の方が良いか?」


「どうかしらね? それぞれ、好みによるから」


「花梨はどうだ?」


 問われて、答えに詰まってしまう。


「どうして私? あなたが落としたいのは、俵田さんでしょ?」


「あ、まあ、そうだけど……日頃、お世話になっているのは、花梨だから」


 この男は表面上は、爽やかイケメンを継続しているけど。


 内面は、もうドロドロ。


 その事実を、私だけはちゃんと知っている。


 つまりは、クズだって分かっているのに……


「……ちゃんと気持ち良いわよ」


 私は伝える。


「祐介くんとの……エッチ」


「そうか……花梨こそ、いつも気持ち良いよ」


「ありがとう。お世辞でも、嬉しいわ」


「そんなお世辞だなんて……」


 ワイワイ、ガヤガヤと、声がする。


「そろそろ、戻りましょう」


「ああ、そうだな」


 頷く彼に、私は最後、問いかける。


「祐介くん。恋愛と友情、どっちを取るの?」


 案の定、彼はすぐに答えられない。


 少し前なら、即答しただろうに……


「……今、この状況においては……恋愛だよ。俺は俵田さんをモノにしないと……狂ってしまいそうだ」


「もう、とっくに狂っているでしょう? お互いに」


「それもそうだな」


 彼は乾いた笑いをこぼす。


 私は、今どんな表情をしているかしら?


「そういえば、花梨。最近、メイクが濃いのは……峰へのアピールか?」


「それもあるけど……有象無象から、私たちの宝物を守るためよ」


「なるほど。だったら、さっきの俺の行動に、君は感謝するべきじゃないか?」


「ええ、そうね……ありがとう、私の好きな人を守ってくれて」


「どういたしまして」


 私たち、偽装カップルは、微笑み合う。




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