第26話 ヤバイ事実

 6月と言えば、梅雨。


 ジメジメとした、嫌らしい季節。


 しかし、それだけじゃない。


 同時に、夏の気配がうっすらと漂うこの季節。


 とある、イベントが用意されていた。


 それは……


「いや~、やっぱり、夏服って良いよな~」


「おい、あの子、ブラ透けていないか?」


「えっ、マジで?」


 このエロ男子どもめ。


 常にサルみたいな思考を回しやがって。


 まあ、俺も他人のことは言えないけど……


 その時だった。


 だっぷるん、だっぷるん。


「はぁ~、とうとう衣替えかぁ~。嫌だな~、ボディラインが目立っちゃうよ~」


 ちょっと、のんきなことを言うのは、マイスウィートハニー。


 いや、言い方マジでキモくてごめん。


 でも、それくらい、大好きな彼女なんだ。


 そして、とうとう……


「……なあ、前から思っていたけどさ……俵田って、実はエロくね?」


「ああ、俺も思っていた。あのカラダ……エロいよな」


「だらしのない、締まりのない体……よき」


 ……身震いする。


 もちろん、自分の彼女を褒められて、嬉しくて……ではない。


 ただ、俺はひたすらに思う。


 あっぶねえええええええええええええええええぇ!


 やっぱり、予想通り、衣替えでそのワガママボディが露わになると。


 絶対、男子どもがザワつくと思っていた。


 何なら、その前から意識されていたっぽいし。


 このムッツリスケベどもめ。


 お前ら、松林さんにばかり見惚れているフリをして。


 本当は、こっそり育実ちゃんを狙っていたなぁ!?


 でも、残念でした~!


「あっ、よっくん。おはよ~♪」


 最高に可愛く魅力的な彼女が、笑顔で俺の下にやって来る。


「あ、育実ちゃん。おはよう♪」


 束の間、俺は誇らしい勝者の気持ちになるが……


「「「「「……もげろ」」」」」


 非モテ男子どもの怨念におののく。


 やばい、こいつらをあまり刺激しないためにも、育実ちゃんには教室であまり話しかけないでって、釘を差して置かないと……


「――みんな、おはよう」


 その時、救いの天使が現れた。


 ヒーローは遅れてやって来る。


 それは、ヒロインも然り。


 トレードマークのツインテールはそのままに。


 けれども、やはり夏服に袖を通すことで、印象がまたガラリと変わる。


 もちろん、素材はそのまま、美少女のまま。


 ていうか、よく見ると、今までよりもメイクをちゃんとしている。


 普通、ラブコメのヒロインがメイクを濃くしちゃうと、ちょっと残念な方向に行くイメージだけど。


 この子はちゃんと、絶妙なラインを踏んで、限りなく高みに昇っている。


 まあ、有体に言うと……クソほど可愛いですね。


「「「「「か、花梨ちゅわ~ん!」」」」」


 先ほどまで、俺の育実ちゃんに発情し嫉妬していたボケナス共が、一瞬にして彼女に心を奪われる。


 た、助かった……


 松林さん、マジ最強の天使さま……


 その時、ふと彼女と目が合って。


 ウィンクをされた……


 ドキッ、としてしまう。


「わ~、かりんちゃん、メッチャ可愛いね~」


 育実ちゃんは、またのんきな声で言う。


「うん、そうだね……」


「むっ、浮気者め」


「いや、そんな……俺にとっては、育実ちゃんが1番だよ」


「やん、もう♡」


「あっ、やべ。あまり教室内でイチャつくと、やられちゃうから……」


「えっ? 大丈夫でしょ~。所詮は、陰キャとぽちゃ女のカップルなんて、興味ないだろうし」


「う、うん、まあ……」


 松林さんのおかげで、今は助かっているけど。


 育実ちゃんも、実は他の男子どもに熱い視線を送られていたって。


 知ったら、どうするかな?


 もしかして、気持ちが揺らいじゃうかな?


 選択肢が、俺以外にもあると分かったら……


「よっ、おはよう」


 ふいに、声をかけられる。


 男子の声だけど、薄汚れた野郎どもとは、一線画す。


「あっ……桐生……くん」


「はは、呼び捨てで良いよ、峰」


「お、おう……」


「ぷぷ、よっくん、キョドりすぎ。桐生くん、おっは~」


「俵田さんも、おはよう」


「ていうか、君の彼女、メッチャ可愛くなりすぎじゃない?」


「うん、そうだね」


 さすが、桐生。


 自分の彼女がさらに可愛くなって、周りから注目を集めまくりなのに。


 相変わらず、余裕の微笑みを見せている。


 俺も、これくらいの度量を持たないとなぁ。



「そういえば、今月に体育祭があるよね? かりんちゃんと桐生くん、実行委員だし、忙しいんじゃない?」


「うん、そうだね。まあ、やりがいはあるかなって感じ」


「さすが、イケメンは言うことが違うね~。これがよっくんなら、もう弱音のオンパレードだよ」


「むっ……悪かったね、イケメンみたいにかっこよくなくて」


「おやおや~、嫉妬かなぁ?」


「べ、別に、嫉妬なんて……する気が失せるくらい、レベルが違うって言うか」


「あはは、そんなことないよ。峰だって、十分に魅力的なやつだろ?」


「き、桐生……」


 やばい、ちょっと涙がこぼれそう。


 ていうか、うっかりすると、惚れそう。


「やばっ、ちょっと、尊い……」


「おい、隠れBL好きめ。どうせなら、その乳と腹を隠した方が……」


「ふんっ!」


 どごっ!


「ふべっ!?」


 裏拳で腹を殴られ、ノックダウンする俺氏。


「だ、大丈夫か?」


「平気だよ。これがわたしと彼のコミュニケーションだから。ねえ、よっくん?」


「……悔しいが、ちょっと喜んでいる自分を否定できない」


「はは、ほどほどにしておけよ」


 桐生は苦笑しつつ、手を貸してくれる。


 こいつ、マジで良いやつ過ぎて、泣ける。


「じゃあ、またな」


 そして、こちらに笑顔を向けつつ、松林さんの方に向かって行く。


 やっぱり、あの2人は最強にお似合いで。


 並び立つと、またみんながワーキャーと騒ぐ。


 ふぅ、色々な意味で助かるぜ。


 あの2人がいなかったら、今ごろ俵田さんは、クソ狼どもに食い散らかされていたかもしれない。


 このお肉ちゃんは、俺だけのモノなんだ……


「はぁ~、体育祭か~」


「やっぱり、憂鬱?」


「ちょっと、決めつけないでよ。誰がデブやねん」


「どうどう」


「でも、かりんちゃんと桐生くんにはお世話になっているし。2人が実行委員だから、わたしもちょっとがんばって、盛り上げたいなって思うよ」


「盛り上げる……」


 やべぇ。


 体育祭で、育実ちゃんの豊満めちゃシ◯ボディが、公にさらされてしまう。


 ていうか、さっきのゴミ男子どもの反応を見る限り……絶対に、盛り上がるだろ。


 や、やばい、どうしよう~!


 今からでも、ダイエットさせるか?


 いや、それだと、俺の理想のぽっちゃり彼女が……


「そうだ、一応、先生にカクニンしておいたんだけどね」


「えっ?」


「授業とか体育祭でも、体操着のジャージを着て良いって」


「そ、それは……びっちりと、ガード出来る感じですか?」


「うん、まあ……でも、油断すると、それさえもはち切れちゃう……なんちゃって」


「よし、その分くらいは痩せよう」


「えぇ~、ダイエットするってこと? よっくん、ぽっちゃりなわたしが好きって言ったくせに……」


「いや、そうだけど……俺だけの育実ちゃんを、みんなに見せたくないんだ」


「……この陰キャスケベめ♡」


「な、何とでも言ってくれ」


「じゃあ、ご褒美ちょうだいよ」


「ご褒美?」


「ちゃんと、少しダイエットするから。その代わり、スポブラ買って?」


「ス、スポブラ……そうだ。それがあれば、なおのこと安心・安全だ」


「ちなみに、わたしはデブだから、サイズも大きくて、高いよ?」


「……よし、決めた。血の涙を流しながら、今までお年玉とかで溜めた貯金を崩すよ」


「ちょっ、そこまでしちゃう?」


「ああ、もちろんだよ……俺が育実ちゃんを独占するためなら、何だってするさ」


「もう、本当に……大好き♡」


 最後のひとことは、他の誰にも聞かれないように、こそっと囁かれる。


 軽く脳イ◯しかけた。




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