第23話 美男美女と陰キャと豚ちゃん♪

 クラスの陰キャとアイドルが仲良くなる。


 ラブコメでは定番の展開だ。


 けど、それって実は、モテないオタク読者にとっては歓喜だけど。


 冷静にその世界のことを考えると、ギルティーかもしれない。


 だって、やっぱりどうしたって、カーストが違うし。


 身分違いの恋なんて、燃えるストーリーかもしれないけど。


 それだって、所詮は創作の世界のお話。


 現実では、陰キャとアイドルが仲良くしたら、生態系が壊れてしまう。


 俺たち人間だって、所詮は動物だから。


 そう、動物みたいに、パンパンとエッチしまくりで……


「じゃあ、始めましょうか」


 ふわっと漂う、良い香り。


 彼女がひとたび喋り始めただけで、コレである。


 実は異世界人なんじゃないだろうか?


 何か魔法の類でも使ったとしか思えない。


 このかぐわしきスメルは……


「松林さん、今日はお家に招待してくれて、ありがとね~」


 ド緊張で汗ダラダラの俺に対して、となりの育実ちゃんはにっこにっこしている。


 さすが、肝が据わっている。


 どっしりとしているよ、心も体も。


「ううん、こちらこそありがとう。勉強会、もしかしたら、断られちゃうかな~って、不安だったの」


「またまた~、そんなことないって。クラスのアイドル様に誘われたら、断る訳ないよ~。ねえ、よっくん?」


「えっ? あ、うん……」


「ちなみに、浮気したら、お仕置きだから」


「ふぁっ!?」


「まあ、でも所詮は陰キャのよっくんと、松林さんじゃ釣り合わないから、大丈夫か~、あはは!」


「あはは……」


 1人で笑う育実ちゃん。


 俺は苦笑いする。


 松林さんは微笑んでいる。


 そして……


「さて、じゃあ、どういう形で進めようか?」


 爽やかイケメンスマイルを浮かべるやつが、1人。


 桐生祐介きりゅうゆうすけ


 クラスの女子みんなが見惚れる存在。


 そんな奴と同じ空間に、育実ちゃんがとうとう……


 いや、落ち着け。


 そもそも、普段からクラス内で一緒じゃないか。


 その距離がちょっと、近くなっただけ。


 だいたい、桐生は松林さんと付き合っている訳だし……


「ねえ、普通なら、男子同士、女子同士で教えるけど……ここはあえて、逆にしてみない?」


「「えっ?」」


 松林さんの思わぬ提案に、俺と育実ちゃんは目を丸くする。


「な、何でまた……?」


「多分だけど、その方が緊張感が生まれるかなって」


「緊張感……」


 もう十分すぎるほど、緊張していますけど。


 でも、育実ちゃんは、たるんでいるか。


 身も心もねwww


「なるほど、緊張感か」


 育実ちゃんは、ふむと唸る。


「うん、そうだね。たまには、よっくんのアホ面じゃなくて、イケメンくんと対面するのも悪くないかも」


「ア、アホ面って……」


 俺はグラリ、と揺らぐ。


「あはは、冗談だよ! ていうか、よっくん心配なの? わたしがイケメンと浮気しちゃうんじゃないかって」


「いや、まあ、それは……」


「大丈夫だよ。桐生くんには、こんな可愛いお似合いの彼女がいる訳だし。だいたい、わたしみたいなデブをそんな目で見ないよ……って、誰がデブやねん!」


 ベシッ!


「おふっ!?」


 とても理不尽な一撃を食らう。


「い、育実ちゃん……?」


「あ、ごめん、つい」


 ぺろっと舌を出すな、このぽちゃ娘め……


 あとでお返しにビンタしてやる……おっぱいを。


 いや、むしろ、そのおっぱいでビンタして欲しい!


「あはは、2人とも仲が良いんだな」


「ええ、本当に」


 ゴチャつく俺らに対して、美男美女カップルは、上品に微笑む。


 全く、本当に同じ人種かよって、恥ずかしくなるレベルだぜ。


「で、峰、どうかな? 花梨の提案だけど……嫌なら、男同士、俺が教えてやるぞ?」


「うほっ」


「育実ちゃん?」


「あ、ごめん……ちょっと、今の男子2人のやりとり、萌えだなって」


「君、まさかのBL好きだったりするの?」


「そこまでじゃないけど……」


「ていうか、うほっってやめなよ。ゴリラじゃあるましい」


「そうだね、わたしはブタだし……って、誰がブタやねん!」


 どべしっ!


「ごはっ……い、いい加減にしてくれ。松林さんと桐生くんに悪いだろうが」


「あはっ、そうだった。ごめんね~」


「うふふ、楽しいから良いわ」


「本当にね」


 さすが、美男美女は、違う。


 性格も良しと来た。


 はぁ~、マジで良かったぜ。


 もし、俺がモタついて、育実ちゃんへのアプローチが遅れていたら。


 このイケメンくんに、みんな持っていかれていたかも。


 まあ、このイケメンは結局、お似合い過ぎるアイドルちゃんと付き合っている訳だけど。


 育実ちゃんはせいぜい、セ◯レどまりか……


「よっくん、何かすごくクズなこと考えていない?」


「は、はい? ボクハイタッテマジメデスヨ?」


「ねえ、松林さん」


「花梨で良いわよ」


「じゃあ、かりんちゃん。このスケベ男、徹底的にしごいてちょうだい」


「ちょっ、育実ちゃん?」


「そして、桐生くん。わたしには甘めの指導でお願いします♪」


「ちっ、だから太るんだよ……」


「あぁん?」


「……んでもありませーん」


 俺と育実ちゃんは、結局またおちゃらけてしまう。


 ていうか、この美男美女カップル。


 そもそも、いつもいるリア面が不真面目だからって、俺らと勉強しようって思ってくれたのに。


 これじゃ、あの野郎どもと同じじゃないか……屈辱!


 けど、目の前の2人は、決して嫌そうな顔をせず、微笑んだまま。


 それが逆に、ちょっと怖いというか、プレッシャーだけど。


「じゃあ、今度こそ、始めましょうか」


 松林さんが、くすっと微笑む。


「峰くん、準備は良い?」


「あ……うす」


 あまりにもレベルが違いすぎて、カスみたいな返事しか出来ない。


「彼女さんのお望み通り、スパルタで行く?」


「ス、スパルタ……」


 瞬間、俺のエロ脳が猛烈に稼働する。



『あれあれ~? 峰くんって、陰キャな上に……すっごくバカなの?』


『ご、ごめんなさい……俺は所詮、人間のクズなんです』


『あら、自覚はあるのね』


『はい……』


『偉いわ。ちゃんと自分の弱さを自覚しているなら、成長できるから』


『本当ですか?』


『じゃあ、仕方がないから……今からしごきまくって、育ててあげる♡』


『お……おなしゃす』



 ……俺って本当におめでたい奴だな。


 ていうか、バカだ。


 育実ちゃんという最高の彼女がいながら、例え妄想の中とはいえ、浮気をしてしまうなんて……


 いや、これは決して浮気ではない。


 そう、ただの……戯れ。


 うん、どちらにせよ、クズだな。


「峰くん?」


「ハッ……すみません、先生」


「うふふ、先生か……悪くな響きだね」


 その時、松林さんの声色から、わずかに蠱惑こわく的な香りがした。


 たぶん、気のせいだろうけど……




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