第22話 ぽちゃ天使とガチ天使

 中間テスト。


 高校に入学して、最初の関門。


 ここで、いきなり赤点を取ると、きっとまずい。


 だから、ちゃんと勉強をしないといけない。


 分かっているけど……


「ふぅ、ここの問題、難しいなぁ」


 放課後、また育実ちゃんのお家にお邪魔している。


 いつもなら、彼女の部屋でエッチを堪能するところだけど。


 今日はリビングにて、勉強会を開いていた。


 ちゃんと、マジメに取り組んでいるつもりだけど……


「う~ん、悩ましい」


 本当に、悩ましいよ。


 さっきからずっと、テーブルに押し付けられて、むにゅってたわわに歪んでいるそのおっぱいが……本当に、悩ましい。


 育実ちゃん、君まさか……わざとじゃないよね?


 だって、16年くらい生きて来て、自分のおっぱいが武器だってこと、もう自覚しているでしょ?


 それなのに、何でさっきから、俺を悩殺するような真似をするの?


 ねえ、エロテロリストなの?


「んくッ……分からないなぁ~」


 極めつけに、育実ちゃんは体を仰け反らせる。


 ぎゅうぎゅうに押し付けられていたおっぱいが、ひとたび解放されると、元気よくブルンと震える。


 気持ち、伸びたように見えるし。


「…………」


「さてと……あれ、よっくん。さっきからボーっとして、どうしたの?」


「育実ちゃん、頼むから、そのおっぱいをしまってくれ」


「えっ? ちゃんと制服のボタン上まで閉めているけど?」


「だとしても……やばいんだよ、そのおっぱいが」


「ふぅ~ん?」


 俺が切実に訴えているにも関わらず、育実ちゃんはどこか挑発するような目つきだ。


「よっくんって、本当にエッチだよね」


「育実ちゃんこそ、エッチでしょ」


「でも、困ったねぇ。その調子じゃ、勉強に集中できないでしょ?」


「うん、本当に……いっそのこと、1人で勉強するか? いや、それはそれで……シ◯っちゃうだろうし」


「もう、性欲モンスターかよ」


「君もね」


 と、お互いに性欲が強いがために、障壁が生じていた。


 そんな時だった……


「……あの、峰くん」


「へっ?」


 昼休み。


 静かな廊下にて、俺は声をかけられた。


「……ま、松林さん?」


「ごめんね、いきなり。ちょっと、良いかな?」


「あ、うん……」


 何だろう、一体。


 前に、ちょっとだけ話したことはあるけど。


 所詮、陰キャと陽キャ……いや、スーパーアイドル様。


 圧倒的なカースト違い、お角違い。


 だから、接点なんてもう、持つことはないと思っていたけど……


「ちょっと、お願いしたいことがあって」


「お願い……ですか?」


 ついつい、敬語になってしまう。


「うん、あのね……良ければなんだけど、一緒にテスト勉強しないかなって」


「えっ、一緒にテスト勉強……ですか?」


 思わぬ提案に、俺は目をパチクリとさせる。


「もちろん、私と2人きりじゃなくて……俵田さんも一緒に」


「あ、いく……俵田さんも」


「それから、祐介くん……桐生くんも一緒に」


「えっ」


 それじゃ、まるで……ダブルデート気分!?


 いやいや、明らかに格差ありすぎでしょ。


 育実ちゃんはともかく、俺なんて……桐生と比べたら、ミジンコカスですよ?


 いやいや、そもそもデート企画じゃないし。


 企画って何だよ。


「あのね、祐介くんとも話したんだけど。誰かに教えると、より理解力が深まるかなって」


「えっ? ああ、確かに、そうだね」


「でね、いつも一緒の友達に教えていたんだけど……あまり、身に入らないみたいで」


「あぁ~……でしょうね」


 全く、これだから『ウェイ系』どもは……


 とはいえ、こっちもこっちで、童貞ハァハァ過ぎて集中できていないけど。


 いや、もう童貞じゃないですけどね!


「だから、ね。真面目な峰くんたちと一緒に、勉強したいなって……どうかな?」


「真面目……っすか。でも、それなら、俺ら以外にも、いくらだって……」


「峰くんじゃないと、ダメなの」


 一瞬、真剣な眼差しに射抜かれて、ドキッとする。


「えっと、それは……」


「……峰くんって、俵田さんと付き合っているよね?」


「へっ? いや、その、あの~……」


「ふふ、大丈夫、内緒にするから」


「う、うん……」


 すごいな、このアイドル様。


 可愛いだけじゃなくて、賢いというか、観察眼が鋭い。


「ちなみに、だけど……私と祐介くんも……付き合っているの」


「何と……いや、まあ、当然か。どう考えても、お似合いだもんね」


「……ふふ、そうかな」


 わずかに、松林さんの表情に、陰が落ちた……ように見えた。


 気のせいだろうけど。


「自慢じゃないけど、私も祐介くんも、それなりに良い成績だから」


「うん、だろうね。少なくとも、俺と俵田さんよりは」


 だって俺たち、性欲マックスだし。


 育実ちゃんに至っては、+食欲マックスだからwww


「もちろん、俵田さんにも相談してだけど……どうかな?」


「あぁ~……うん、分かった。ちょっと、聞いてみるよ」


「本当に? ありがとう」


 とびきり素敵なアイドルスマイル。


 きっと、営業用だろうけど。


 彼氏の桐生には、きっと俺なんかには見せない、素の顔を見せるのかな?


 って、何でちょっと、ジェラシーみたいな感情を抱いてんだよ……


「そうだ、連絡先を教えてもらっても良いかな? 峰くんと、俵田さん、2人ともの」


「えっと……良いんですか? 俺みたいな、その……日陰者が、松林さんみたいな、キラキラしている人の、アドレス帳にお邪魔しちゃって……」


 俺はしどろもどろになって言う。


 すると、松林さんはキョトンとし、直後に噴き出す。


「ふふ、峰くん……面白いね」


「えっ、そ、そんな……はは」


 やばい、恥ずかしいけど……それ以上に、嬉しいかも。


 って、ダメダメ、おかしな感情を抱いちゃ。


 そもそも、俺には育実ちゃんがいる。


 愛しのぽちゃ天使さまがいるんだから!


ピロン♪


「……じゃあ、これでオッケーだね」


「う、うん」


 正直、全くもって、オッケーじゃないけど。


 どう考えても、バランス感覚がおかしくなるだろうが。


 ラブコメじゃあるまいし。


 俺みたいな陰キャが、クラスのアイドルと仲良くなるとか……ありえん。


 そうだ、勘違いはやめておこう。


 いや、勘違いって何だよ。


「じゃあ、峰くん……楽しみにしているね」


「あっ……う、うん」


 笑顔で手を振り、彼女は去って行く。


 ふわっと舞い上がるスカート。


 あれも、計算かな?


 いや、そんな訳ないか。


 ちなみに、育実ちゃんは、計算だったり、天然だったりする。


 どちらにせよ、罪なぽちゃ天使だぜ。


 ちなみに、ガチ天使さまは、軽やかな足取りで、廊下の角に消えた。


「……ふぅ」


 全く、中学までクソ陰キャだった俺の青春……


 高校に入って、ちょっと確変し過ぎじゃない?




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