第14話 育実視点⑦

 はむっ、サクッ、はむっ、サクッ。


「……う~ん、美味しい!」


「良かったね」


 ホクホクのコロッケを食べるわたしの顔も、きっとホクホクだ。


 ちなみに、峰くんは1個だけなのに、わたしは3個も食べている。


「すごいな……」


 スケベな上にデリカシーに欠ける彼を、ぎろっと睨む。


「どうせ、デブですよーだ」


「いや、そんな……言うほど、太ってないよ」


「それはそれで、ムカつく」


「何で?」


「ていうか、ちょっと触ってみて」


「はっ?」


 峰くんが返事をする間もなく、わたしは彼の手を取り……触らせた。


 たぷん。


 や、やっちゃった……


「……何てやわらかさだ」


 うん、お腹がね、って……


「誰がデブやねん」


 体はまるっこいわたしだけど、ツッコミはビシッとシャープに決めた。


「ゲホッ……いや、だから、そんなこと言ってないって」


「でも、痩せてはいないでしょ?」


「うん、それはもちろん」


「はい、もう1発」


「ま、待って……でも、それが俵田さんの、魅力でしょ?」


「……エッチ」


 一応、睨んでみるけど……きっと、今のわたしの頬は赤くなっているはず。


「もしかして、最初からわたしのこと、そんな風に嫌らしい目で見ていたの?」


「うっ、それは……」


「正直に言わないと、このコロッケお口にぶち込むよ?」


「こわっ……み、見ていました」


「どんな目で?」


「た、俵田さんのことを、俺は……嫌らしい目で見ていました」


 峰くんは少し詰まりながらも、ハッキリと言ってくれた。


「ふぅ~ん?」


 わたしはいたずらな笑みを浮かべて、峰くんの手を掴んだまま、スッと上の方に動かす。


「えっ?」


 彼が目を丸くする。


 そのまま、わたしのお山にぶつかっちゃう……


「……なーんちゃって」


 直前で、ピタッと。


「あぁ……」


 彼はガッカリしたように息を漏らす。


「さすがに、彼氏じゃない男子に触らせるのは、違うから」


「うぅ……だよね」


 峰くんは、本当にガッカリ、悲しそうにうなだれる。


 そんな彼のことを見ていると、何だか胸の奥底がウズウズとして……


「……しょうがないなぁ」


 たぷん。


「はっ?」


 彼はハッとして顔を上げる。


 ほんの一瞬だけど、ちゃんと感じたかな?



「……今はここまで、分かった?」


「あ、はい」


 キョトンとした顔のまま、頷く峰くんを見て、思わず笑みがこぼれる。


 本当に可愛いんだから。


 また、スケベな妄想を加速させちゃうのかな?


 ていうか、わたしっていつの間にか、こんな嫌らしい女になっちゃって。


「で、ランチはなに食べる?」


「太るよ」


「こらっ」




      ◇




 楽しい時間は、あっという間に過ぎる。


 気付けば、もう日暮れの時間だ。


「今日のデート、楽しかったよ」


 わたしは言う。


「俺の方こそ……最高だったよ」


「うふ、峰くんってば」


 ふう、嬉しいけど……すごく名残惜しい。


 峰くんも、そう思ってくれているかな?


 ほら、今もまた、わたしのおっぱいをジッと見つめて……


「……峰くんって、本当にエッチだよね」


「へっ?」


「今もずっと、わたしのおっぱい見ているし」


「ご、ごめん……気持ち悪い……よね?」


 峰くんは申し訳なさそうにというよりも、何か怯えている感じだ。


 そんな彼に対して、わたしは……


「……ちゃんと顔を見て?」


「か、顔?」


 峰くんはふっと、顔を上げる。


 わたしはドキドキしながら、彼の視線を受け止める。


 普段は、胸ばかり見られているけど。


 こうして、改めて顔を、目を見つめられると……すごく照れちゃう。


 峰くん、わたしのカラダに興奮してくれるのは嬉しいけど。


 それだけじゃ、寂しいの。


 だって、わたしは……


「俺、俵田さんのおっぱいを触りたい」


 一瞬、ズッコケそうになった。


「だから、付き合ってくれ」


 恐らく、ここしばらくにおいて、史上最低の告白だと思う。


 普通なら、100パーセント振るパターンだ。


 だって、こんな……


「……変態」


「うっ……ですよね」


 峰くんは顔を引きつらせる。


 そんな彼に対して、わたしは……


「……良いよ」


「うん、ごめん。もう、俵田さんには、近付かないよ……はい?」


「わたし、エッチな峰くんの……彼女になってあげる」


「……ホワイ?」


「なんで英語?」


 くすくす、と笑うわたし。


「いやいや、何で? 普通、こっぴどく振るでしょ?」


「そうかもしれないけど……」


 わたしは、モジモジとする。


「……たぶん、わたしも変態だから」


「……マジで?」


「うん。前から、薄々と気付いていたけど……わたし、性欲が強いみたい」


「何と……だから、そんなエロボディに成長して……」


「ぎろっ」


「ご、ごめん」


「……なーんて」


 わたしは、そっと彼の手に触れる。


「はい、カップル成立」


 ぽよん、と。


 史上最高に柔らかなハンコを押してやった。


 峰くんの手を、わたしの豊満なおっぱいに触れさせる。


 どうだ、参ったか?


「……ちなみにだけど、峰くん」


「は、はい?」


 ああ、ダメ、わたし。


 いくら、性欲が強いってカミングアウトしたからって、こんなの……


「付き合って初日から、その……エッチをするって、おかしいかな?」


 あぁ、言っちゃった。


「……エッチ?」


 ええい、ここまで来たら……


「もちろん、キスとか、乳揉みとか、ぜんぶ済ませた上で……最後までするの……おかしいかな?」


 わたしは、何を言っているんだろうか?


 マジで、意味が分からないと思う。


 最低かなぁ?


「……俺たち、変態同士でしょ?」


「えっ? う、うん」


「じゃ、じゃあ……別に良いんじゃないかな?」


 峰くんがぎこちなくもそう言ってくれると、わたしは安心して笑みがこぼれる。


「良かった」


「とは言え、その、場所が……」


 何よ、もう。


 峰くんこそ、やる気マンマンじゃない♡


「ああ、それなら……わたしのお家……来る?」


「えっ?」


「今日ね、親が……帰って来ないの」


「……マジで?」


「うん……」


 お互い、夕暮れの中で、見つめ合う。


 そして、手を繋ぐと、ゆっくりと歩き出す。


 きっと、お互いに、心臓はバクバクだろうけど。





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