第13話 育実視点⑥

 朝、目が覚める。


 昨晩、また散々スッキリ♪しまくったおかげだろうか?


 わたしの子宮おなかは静まっている。


 ここ最近は、彼のことを思って、ずっとウズウズしていたのに。


 でも、決して萎えている訳ではない。


 これからやって来るであろう、素晴らしいトキメキタイムを前に、臨戦状態。


 そう、女にとって、恋とは戦争だから。


 まあ、傍から見たら、争う価値のない男、なんて言われるかもしれないけど。


 いま、わたしにとって、一番アツい彼だから。


「……よし」


 姿見の前に立つ。


 我ながら、ビシッと決めたデートスタイル。


 きっと、彼も喜んでくれる……はず。


 だけど、どうしても不安な気持ちが押し寄せてしまう。


 本当に、これで良いのかな、と。


 重ねて言うが、恋は、デートは、勝負の時。


 だから、メンタルがぐらついた状態で臨みたくない。


 その不安、ハラハラ、ドキドキ感が、よいスパイスになるかもしれないけど。


 ここは、意地を張らずに、ちょっと素直になって……


『……今日のデート衣装は、こんな感じです』


 照れながらピースサインをして、写真を送った。


 さて、彼のアンサーは……


 ピロン♪


 ドキッ。


『……良かった、安心したよ』


 んっ?


『え、何が? もしかして、期待値が低かった?』


 だとしたら、ムカつくな、この野郎ぉ~。


『いや、期待しかなかったんだけど……それ以上に、不安も大きかったから』


 不安だと~?


『と、言うと?』


『いや、その……ゆったり系の服で良かったよ』


 おっ?


『……ふぅ~ん? 峰くんって、やっぱりエッチだね?』


『ご、ごめん。でも、その……』


『大丈夫だよ。わたしもちゃんと、自覚しているから』


『そ、そっか』


『今のところ、峰くんにしか、見せる予定はないし』


『マ、マジで……てか、今のところって……』


『じゃあ、待ち合わせ場所でね♪』


『あっ……うん』


 メッセを終えると、スマホを持ちつつ、もう片手でグッとガッツポーズ。


「よっしゃ、今日のデート……イケるぜ」


 なんて、少し調子に乗っちゃうわたしだった。




      ◇




 休日は、やはり人が多い。


 当たり前だけど。


 それにしても、可愛い子がいっぱいだなぁ。


 わたしみたいなデブと違って……って、誰がデブやねん。


 でも、こんな女、わたしくらいなものだから、見つけやすいんじゃない?


 とか思っていた時、むしろ、こっちが先に……


「あっ、峰くん」


 見つけた。


 ちょっぴり陰キャな彼のことを。


 人だかりのなかで、キョロキョロしちゃって、可愛い♡


 そして、わたしの声にすぐさま反応し、振り向く。


「……わっ」


 と、彼はわたしを見て驚いたように言う。


「わっ、て何よ。やっぱり、似合ってない?」


 わたしは、ついついふくれっつらになってしまう。


 これ見よがしに、スカートをふりふりと揺らす。


「……いや、可愛すぎて」


「へっ? あ、ありがと」


 お互いに数秒、照れてしまう。


「ていうか、人おおいね」


「う、うん」


「はぐれると大変だけど……でも、わたしはちょっと太っているから、見つけやすいよね?」


「そんなまた自虐を……前にも言ったけど、魅力的だから」


「……エッチ」


「な、何で? せっかく、フォローしたのに」


「まあ、それもこれも含めて、あとで色々と問い詰めるから……覚悟していてね?」


「な、何か怖いな……」


 たじろぐ彼を見て、わたしはいたずらな笑みを浮かべる。


「じゃあ、やっぱりはぐれないように、わたしのおっぱい掴んでおく?」


「はえっ?」


「あ、間違えた。手でもつなぐ?」


「ど、どんな間違え……でも、別に恋人でもないのに……」


 むっ。


「じゃあ、腕に抱き付こうかな~?」


 わたしが言った直後、峰くんの目がソッコで胸に来た。


 この可愛いエロ助め~!♡


「……か、勘弁して下さい」


「うふふ、ごめんね。大丈夫、ちゃんとはぐれないように、そばにいるから」


 ジッ、と見つめて言う。


「わ、分かった」


 ふふ、峰くんってば。


 動揺しているのが丸わかりだぞ~?


 はぁ、本当に可愛いなぁ~。


「じゃあ、なに食べる?」


「え、もうランチの話?」


「ううん、10時のおやつの話」


「……ああ」


「いま、だからデブなんだって、思ったでしょ?」


「いや、それは……健康的で、良いと思うよ」


「ふん、どうせ出ているのは、胸だけじゃありませんよ~だ」


「まあ、でもそのたるみ具合もまた……」


「ぎろっ」


「ごめん」


「全く、エッチな峰くんだよ」


 わたしは彼を睨むけど、またすぐに笑みがこぼれてしまう。


 やばい、わたしのっけから、峰くんのことが愛おしすぎる。


 これで、まだ付き合っていないんだよ?


 ああ、もう……じれったい。




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