第8話 育実視点①

 小さい頃から、どちらかと言えば、太っちょ体質だったかもしれない。


 現にわたしは、今日もパクパクと、美味しくお弁当を食べている。


育実いくみって、本当に美味しそうに食べるよね~」


「ねぇ~、見ていて感心するよ~」


 そう言うのは、友人のゆっことねねだ。


 2人とも、高校に入ってからの付き合いだから、まだ1ヶ月も一緒にいない。


 それでも、入学当初から気が合って、今ではすっかりいつメンだ。


 ちなみに、ゆっこがロングヘア、わたしがセミロング、ねねがショートヘア。


 良い具合に棲み分けが出来ている。


 ただし、真ん中のわたしだけ、ちょい太り気味だけど……


「……って、誰がデブやねん!」


「「はっ?」」


「あ、ごめん。つい被害妄想が……」


「てか、育実ってそんなデブって言うか……可愛いポチャじゃん?」


「ねぇ~、むしろ羨ましいよ~」


「それ、ケンカ売っている?」


「違う、違う。おっぱいとか、デカくて良いじゃん」


「何カップなの~?」


「後で教えてあげる……まあ、揉んでくれる男もいないけどね」


「へぇ~、もったいない。まあ、私もだけど」


「あたしも~、ていうか、揉むほどの乳がないし……」


 みんなそれぞれ、悩みというか、思う所があるんだなぁ~、と。


 のんきに考えながら、わたしはお弁当のおかずを頬張った。




      ◇




 わたしはそんなボッチや陰キャって訳じゃないけど。


 決して、クラスの中心にいるような存在ではない。


 現に、みんな注目するステージには、そこにふさわしい美少女がいる。


 いや、彼女が立つ場所は、どこもそんな風に変わってしまうのかもしれない。


 松林花梨まつばやしかりん


 入学当時から騒がれて、同学年だけでなく、上級生たちもわざわざ見に来ていた。


 それくらいの、美少女。


 明るい笑顔と性格。ツインテールもよく似合う。


 スタイルも抜群だ。


 あれはたぶん……Dカップくらい。


 ものすごく大きい訳じゃないけど、腰回りがキュッと細いから。


 メリハリが効いてちゃんと豊かに見える。


 あぁ、うらやましい。


 同じ女子なら一度は、あんな体型に憧れる。


 わたしだって、ダイエットに挑戦した時期はあった。


 けど、無理だった。


 体を動かすのは、そこまで嫌いじゃないけど。


 ごはんやお菓子を食べている方が幸せだし。


 両親も何も言わないから。


 好きなだけ食べて、このたるんだ体になった。


 まあ、まだ若いから、そこまでヤバくないだろうけど。


 このまま歳を取ったらと思うと……


「でさ~」


「何それ~」


 いつメンのゆっことねねは笑っている。


「で、育実はどう?」


「えっ、何の話?」


「ちょい、ボケッとしないでよ~」


「ごめん」


「もしかして、もう昼休みのお弁当のことを考えていたとか?」


「こら」


 なんて、楽しく話して笑うけど。


 意識はまだ、どうしても憧れて、何なら少し嫉妬してしまう、松林さんに向いてしまっている。


 男子たちに囲まれて。


 当たり前だけど、わたしらくらいの年頃の男子って、可愛い子に目がないし。


 女子もイケメンに目がないし。


 そういえば、このクラスにすごいイケメンが1人いるんだよね。


 桐生祐介きりゅうゆうすけくん。


 女子とかみんな、ワーキャー騒いでいるし。


 まあ、どうせ、わたしには縁がないだろうけど。


 松林さんは……やっぱり、イケメンの彼氏とか、いたのかなぁ?


 ていうか、現在進行形で、いるのかなぁ?


 付き合っていたら、これくらいの歳頃なら、やっぱり……するのかなぁ?


 エッチなこと……


 恥ずかしながら、わたしみたいなブタちゃんも、一応は女子。


 思春期になると、どうしても……あれな欲求が湧いて来る。


 昔は食欲一辺倒だったのに……気付けば、ハーフ&ハーフ。


 そういえば、食欲と性欲って、同じみたいな話を聞いたことがあるような……


 あ、性欲って言っちゃった。


 とにかく、最近はそっちの欲求が増して来て、困る。


 ぶっちゃけ、1人でこっそり……シちゃっているし。


 彼氏がいたら、エッチとか出来るんだろうけど……


『やーい、ブタ女ぁ!』


『何だと~!』


 小学生の頃は、返討ちにして。


『なあ、俵田って、実はエロくね?』


『いや、デブなだけだろ?』


『……ふん』


 中学生の頃は、何だか複雑で。


 そして、いま高校生になって、周りの男子たちは……わたしのこと、どう思っているのかな?


 どんな風に見ているのかな?


 やっぱり、どうせ、デブとかブタとか、思っているのかな?


 そもそも、誰も興味がないかな?


 スーパーアイドル様が同じクラスだし。


「ごめん、ちょっとおトイレに」


 思わず、わたしは席を立つ。


 廊下に出ると、トボトボと歩く。


 はぁ、何だか足が重い。


 今日は、あの日じゃないはずなのに。


 あぁ、ていうか、わたしだって……


「……俵田たわらださん」


 ピクッ、と自分の肩が、かすかに揺れた。


 えっ、男子の声?


 振り向くと、そこには一応、見知った男子がいた。


 確か、名前は……


「あ、みねくん。どうしたの?」


「いや、まあ……ちょっと、トイレに行こうかなって」


「奇遇だね、わたしもだよ」


 良かった、名前まちがえなくて。


 安心して、わたしは思わず笑みがこぼれる。


 そのまま、再びトイレに向けて歩き出す。


 2人並んで。


「どう? 高校生活は?」


 峰くんが言う。


「う~ん……まだ、ドキドキしているかな」


 うそ。


 本当は、さっきまでちょいやさぐれていました。


「へぇ~……」


 相槌を打つ峰くん。


 ふっと、その視線が……胸に来た。


 あっ、見ている。


 まあ、それくらいなら、慣れている。


 胸の大きさだけは、ちょっと自慢というか、自信があるから。


 とはいえ、所詮はただのデブですけど……


 どうせ、彼もすぐに、『まあ、ブタだしな(笑)』とか思うんだろうな。


 けれども……あれ?


 何だかずっと、視線が熱い。


 別に触れられている訳じゃないのに、わたしの胸も何だか、じんわりと熱くなっているような……


「じゃあ、わたしもおトイレだから」


 内心で焦りながら、そう言う。


「あ、うん」


「じゃあ、またね」


 トイレ前でそんなこと言うのは、微妙かもしれないけど。


 とにかく、笑顔で誤魔化しながら、トイレに駆け込む。


 わたしは個室に入った。


「……ふぅ~」


 驚いた。


 今までも、エロ男子たちが、わたしの胸をチラチラ見ることはあった。


 でも、このデブい体型を見て、すぐに萎えるような感じだった。


 けど、彼は……ずっと、見ていた。


 わたしの胸を……いや、それだけじゃなく、お腹とかも……


「……も、物好きなのかな」


 峰くん。


 ぶっちゃけ、ボッチというか、陰キャというか、そんな感じの男子。


 決して、イケメンじゃない……けど。


 何でだろう?


 さっきの熱い眼差しを向けられてから……


「…………」


 キョロキョロ、と左右に首を振って、耳を澄ませる。


 幸い、他に誰もいない。


 ゴクリ、と息を呑む。


 自分の大事なところに、目を向けて。


 ダメよ、わたし。


 学校で、そんなこと。


 お家に帰るまで、我慢しないと。


 でも、また教室で、峰くんのことを見たら、きっと……


「…………っ」


 お肉はいっぱいついているのに、モラルは欠けていて、ごめんなさい。






*育実視点、1話でまとめるつもりでしたが、ちょっと長くなりそうです。

 ごめんなさい(汗)




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