第6話 同士だった

 はむっ、サクッ、はむっ、サクッ。


「……う~ん、美味しい!」


「良かったね」


 ホクホクのコロッケを食べる彼女の顔も、ホクホクだ。


 ちなみに、俺は1個だけなのに、俵田さんは3個も食べている。


「すごいな……」


 うっかり、声が漏れてしまうと、ぎろっと。


「どうせ、デブですよーだ」


「いや、そんな……言うほど、太ってないよ」


「それはそれで、ムカつく」


「何で?」


「ていうか、ちょっと触ってみて」


「はっ?」


 俺が返事をする間もなく、俵田さんは俺の手を取り……触れさせた。


 たぷん。


 こ、これは……


「……何てやわらかさだ」


 お腹が。


「誰がデブやねん」


 丸い体から、ビシッと鋭いツッコミが飛ぶ。


「ゲホッ……いや、だから、そんなこと言っていないって」


「でも、痩せてはいないでしょ?」


「うん、それはもちろん」


「はい、もう1発」


「ま、待って……でも、それが俵田さんの、魅力でしょ?」


「……エッチ」


 ジト目で見つつも、俵田さんの頬はわずかに赤く染まっている。


「もしかして、最初からわたしのこと、そんな風に嫌らしい目で見ていたの?」


「うっ、それは……」


「正直に言わないと、このコロッケお口にぶち込むよ?」


「こわっ……み、見ていました」


「どんな目で?」


「た、俵田さんのことを、俺は……嫌らしい目で見ていました」


 クソ、何だこの恥ずかしいカミングアウトは……でも、何だか悪くない気分だ。


「ふぅ~ん?」


 どこかいたずらな笑みを浮かべる俵田さんは、俺の手を掴んだまま、スッと上の方に動かす。


「えっ?」


 そ、それは、そのまま行くと、豊かな山脈に激突を……


「……なーんちゃって」


 ピタッ、と止められる。


「あぁ……」


 また思わず、声が漏れてしまう。


「さすがに、彼氏じゃない男子に触らせるのは、違うから」


「うぅ……だよね」


 分かり切っていることだけど。


 でも、ここ数日の俵田さんの誘いムービングからして、ワンチャンあると思ったのに。


 あぁ、俺の豊満山脈……


「……しょうがないなぁ」


 たぷん。


「はっ?」


 先ほどと、同じたわみの音。


 いや、でもやはり違う。


 本丸の破壊力は……


「……今はここまで、分かった?」


「あ、はい」


 ほんの、一端に触れただけなのに、俺はまるでその全てを把握したような感覚を得た。


 やっぱり、巨乳って……すごい。


 男の妄想を掻き立てる、最高のシ◯リティズムの化身だ。


「で、ランチはなに食べる?」


「太るよ」


「こらっ」




      ◇




 楽しい時間は、あっという間に過ぎる。


 気付けば、もう日暮れの時間だ。


「今日のデート、楽しかったよ」


 俵田さんは言う。


「俺の方こそ……最高だったよ」


「うふ、峰くんってば」


 そう、だからこそ……名残惜しさマックスだ。


 マジで、目の前の豊満おっぱいを、ずっと掴んでいたいよ……


「……峰くんって、本当にエッチだよね」


「へっ?」


「今もずっと、わたしのおっぱい見ているし」


「ご、ごめん……気持ち悪い……よね?」


 どうしよう、せっかくデート出来たのに、嫌われたりしたら……


「……ちゃんと顔を見て?」


「か、顔?」


 言われて、ふっと顔を上げる。


 夕日に照らされる俵田さんの表情は、普段とはまた違った色気がある。


「どう、わたしの顔?」


「いや、その……可愛いよ」


「ありがとう……」


 お互いに、無言になったまま、見つめ合う。


 何だ、この空気は……これは、もしや……イケるのか?


 いやいや、そんな場の勢いに任せて……


『彼氏じゃない男子に、おっぱいは触らせないよ』


 ……ああ、そうか。


「俺、俵田さんのおっぱいを触りたい」


 気付けば、そう口にしていた。


「だから、付き合ってくれ」


 恐らく、ここしばらくにおいて、史上最低の告白だと思う。


 100パーセント振られるパターンだ。


 それだけならまだしも、翌日からクラス、学年、学園中にウワサが蔓延して……


「……変態」


「うっ……ですよね」


 ほら、やっぱり。


 まあ、でも仕方がない。


 ちょっとの間でも、良い夢を見られたからさ。


「……良いよ」


「うん、ごめん。もう、俵田さんには、近付かないよ……はい?」


「わたし、エッチな峰くんの……彼女になってあげる」


「……ホワイ?」


「なんで英語?」


 くすくす、と笑う俵田さん。


「いやいや、何で? 普通、こっぴどく振るでしょ?」


「そうかもしれないけど……」


 俵田さんは、モジモジとする。


「……たぶん、わたしも変態だから」


「……マジで?」


「うん。前から、薄々と気付いていたけど……わたし、性欲が強いみたい」


「何と……だから、そんなエロボディに成長して……」


「ぎろっ」


「ご、ごめん」


「……なーんて」


 俵田さんは、そっと俺の手に触れる。


「はい、カップル成立」


 ぽよん、と。


 史上最高に柔らかなハンコをされた。


 俺の手が、彼女の豊満おっぱいに触れる。


 や、やわらかっ……


「……ちなみにだけど、峰くん」


「は、はい?」


 最高すぎるけど、展開が早すぎて、脳みそが追い付いて行かない。


 俺はクラクラした状態で聞き返す。


「付き合って初日から、その……エッチをするって、おかしいかな?」


「……エッチ?」


「もちろん、キスとか、乳揉みとか、ぜんぶ済ませた上で……最後までするの……おかしいかな?」


 この子は、何を言っているんだろうか?


 マジで、意味が分からない。


 最高すぎて。


「……俺たち、変態同士でしょ?」


「えっ? う、うん」


「じゃ、じゃあ……別に良いんじゃないかな?」


 俺がぎこちなくもそう言うと、俵田さんは安心したように微笑む。


「良かった」


「とは言え、その、場所が……」


「ああ、それなら……わたしのお家……来る?」


「えっ?」


「今日ね、親が……帰って来ないの」


「……マジで?」


「うん……」


 お互い、夕暮れの中で、見つめ合う。


 そして、手を繋ぐと、ゆっくりと歩き出す。


 きっと、お互いに、心臓はバクバクだろうけど。




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