第3話 入っちゃった?

「え、買い出しですか?」


「ああ、すまないが、今日の放課後にでも行って来てくれるか?」


 普通、係・委員の買い出しなんて、クソかったるし、頼まれた日にはマジでイラつくことだろう。


 けど、この時、俺は内心でガッツポーズを決めていた。


 なぜなら……


「じゃあ、峰くん。行こう」


「う、うん」


 俵田さんと、2人きりだから。


 合法的に、デート気分が味わるから。


 いや、何だよ、合法的って。


 まあ、まだ付き合う前だしな。


 いや、まだって何だよ。


 まあ、その内、付き合う予定だけど……


「おーい、峰くん?」


「あ、ごめん」


 俺は慌てて、俵田さんと歩き出した。




      ◇




 美化委員の買い物は、鉢植えポッドだった。


 柔らかいプラスチック製で、重ねられるから。


 持ち運びはそんな大変じゃない。


 まあ、もう少し重い方が、男らしいアピールが出来たかもしれないけど。


 でも、ワンチャン、俺よりも俵田さんの方がパワーが強いかもしれない。


 だって、陰キャでガリヒョロな俺と違って、とにかく豊満だから。


 腕とかも、いい具合にお肉がついて……


「峰くん、これからどうする?」


「えっ?」


「また、学校に戻る? それとも、あした持って行く?」


「ああ、えっと……俵田さん、ちょっと疲れていない?」


「へっ? うん、まあ、そうかも」


「じゃあさ、どこかで休憩しない?」


「うん、良いよ」


 俵田さんは、素直に頷いてくれる。


 俺はまた内心で、シャッとガッツポーズを決める。


 ちなみに、休憩場所となる店はもうチョイス済みだ。


 買い物中、スマホで調べていたから。


 全く、とんだエロ根性だよ、我ながら。


「俺について来て」


「うん」


 よし、ちょっと頼もしい男アピールが出来たぞ。


 俺はまた、俵田さんと一緒に、テクテクと歩いて行く。


 その最中、となりの彼女の胸が気になって仕方なかったけど。


 落ち着け、平常心だ、と自分に言い聞かせる。


 ここで、うっかり性欲に翻弄されたら、全てがパァだ。


 ご褒美は、後でたっぷりいただこう。


 ちゃんと好き合って、付き合って、揉みしだく!


 って、どんな決意だよ、最低だな。


「ここなんだけど……」


「わぁ、ドーナツ屋さん?」


「うん。疲れには、甘い物が良いかなって」


「峰くん、女心が分かっているね~」


 ニタリ顔の俵田さんが、肘で俺の小脇をこづく。


 や、やばい、俺もニヤけてしまう~。


「は、入ろうか」


「は~い♪」


 ふふふ、俵田さん。


 その体型からして、絶対に食が好きだと分かっていたよ。


 いつも、昼休みに、遠目に見ても、パクパクと美味しそうに食べているし。


 ただし、君は決して、醜いデブなんかじゃない。


 マシュマロの天使だ。


 もう1人、みんなが注目する、天使がいるけど。


 確かに、あのスレンダーな体も魅力的だろうが。


 俺はやはり、クラスのアイドル、松林さんよりも、断然、俵田さん派だ。


 まあ、そんな俺はきっと、少数派だろう。


 けど、油断はできない。


 かと言って、焦りも禁物。


 慎重かつスピーディーに、隠れイケてる女子を攻略するのだ!


「わぁ~、どれも美味しそう~」


 ショーケースの前で、俵田さんは目をキラキラとさせる。


「うん、本当にね」


「ねえ、けっこう食べちゃっても良いかな?」


「どうぞ、お好きなだけ」


 その栄養がみんな、その素敵な胸に……ムフフ。


「じゃあ……コレとコレとコレくださーい!」


 俵田さんは元気よく注文をする。


 一方で、俺はボソッと、


「俺はコレで……」


 と指差す。


 注文の品を受け取ると、席へと向かう。


「カウンターにする?」


「いや、そんな混んでいないし、テーブル席にしよう」


「りょーかい」


 少し、食い気味に言ってしまった。


 けど、仕方がない。


 どうせなら、ちゃんと向かい合ってみたい。


 俵田さんのステキなお……笑顔を。


「よいしょっ」


 そのセリフも、グッドだ。


「じゃあ、早速いただきまーす!」


「いただきます」


 俺はドーナツを頬張るフリをして、ジッと俵田さんの様子を伺う。


「はむっ……う~ん、美味しい~♪」


 本当に、美味しそうだ。


 そのテーブルにのっかっている、たわわな果実が……


 しまった。これはカウンター席でとなり合った方が、むしろよく見えたんじゃないのか?


 盗み見をしまくりでも、全然バレなかったのでは?


 クソ、俺としたことが。


 まあ、良い。


 また、次に活かせば。


「ほうひへば、ひへふん」


「えっ、なに?」


 俺が聞き返すと、俵田さんは紅茶を飲んで、ゴクンと。


 のけぞった時、その豊満な乳が……ナイスゥ!


「ふぅ……あのね、こんなこと聞いたら、失礼かもしれないけど……」


「う、うん」


 何だ、何を言われる?


 まさか、俺が今まで散々、俵田さんのパイオツをチラ見ていたことがバレて……


「峰くんって、いつも教室で、1人だよね?」


「へっ? あ、ああ……」


「まあ、まだ入学したばかりだから、仕方ないかもしれないけど……」


「そ、そうだね……」


「寂しくない?」


「いや、まあ……」


 俺は少し考えてから、


「正直、寂しくないって言ったら、嘘になるけど……平気だよ」


「本当に?」


「だって、こうして、俵田さんが仲良くしてくれるし」


「へっ?」


 その時、俵田さんは目を丸くした。


 今までにない表情に、俺は内心で強張る。


 けど……


「……そ、そっか」


 これもまた、初めて見る。


 照れたような微笑み。


 こ、これは……来たか?


「うん、俺ってホント、情けなくて寂しい男だから……これからも、俵田さんが仲良くしてくれると嬉しいな……なんて」


 おぉ、陰キャの分際で。


 ちゃんと、言葉が回るじゃないの。


「わ、分かった……いつだって、胸を貸してあげる」


「ぶふっ!?」


 けど、予想外の一言で、むせ返る。


「きゃっ!? み、峰くん、大丈夫!?」


「ゲホッ、ゴホッ……へ、平気だけど……」


「あ、ごめん。胸を貸すって、スポーツマン同士とかが言う言葉だよね」


「そ、そうだね」


「えへへ、ごめんね」


 俵田さんは、また照れたように笑う。


 くそ、この天然ちゃんめ。


 自分の武器を分かっているんだか、分かっていないんだか……


 俺は口を拭いつつ、またその豊満な巨乳へと目が行く。


 あれ、無期限レンタルしてくれないかな?


 いや、それはもう所有物でしょ。


 って、モノ扱いするな。


 素晴らしいおっぱいさまなんだから。


「でも、もし……情けなくて、寂しくて、泣きたくなった時は……いつでも貸すよ?」


「えっ……?」


 俵田さんは、上目遣いに俺を見つめていた。


 おいおい、これは予想以上に……


「……ありがとう、俵田さん」


 それ以上、余計なことは言わない。


「うん……」


 そして、お互いに黙って、飲み物をすする。


 うん、大丈夫、落ち着いている。


 思ったよりも早く、我が攻略対象ヒロインがデレてくれた。


 まだ、確定ではないかもだけど。


 陰キャでオタな俺は、敏感に察知した。


 もちろん、現実と理想ゲームは違うけど。


 それでも、全く参考にならない訳ではない。


 おめでたいオタクの妄想の中にだって、攻略のヒントはあるかもしれない。


「えへへ、ドーナツ美味しいね」


「おかわりしても良いよ?」


「こら、これ以上、太らせないで」


「いや、そんな太って……」


「どこ見ているの?」


「あ、いや……」


「ふふ」


 うん、これは、アレだな。


 あくまでも、己との勝負だ。


 主に理性の……クソかわすぎる。


 この理想のゆるふわ良い子な豊満ちゃんが……


 マジで、おパンパンコース入っちゃったかもしれん。




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