第2話 ごめんね、キモくて

 ブレザーが、もう1着欲しい。


 まさか、そんなことを願うなんて、思いもしなかった。


 なぜなら……


「……ふぅ~」


 あまりの神々しさに、緊張の吐息がこぼれる。


 目の前にある、俺のブレザーが。


 もちろん、ただのひねぼっちのブレザー、なんかではない。


 隠れ可愛くて、隠れ巨乳で、俺が絶賛シコシコ攻略中の。


 俵田育実たわらだいくみ、彼女が水に濡れ透けた状態で前面に羽織った……勇者なのだ。


 うん、自分でも、ちょっと何を言っているのか分からない。


 とにかく、ものすごいお宝トレジャーなのだ。


 さて、これをどう味わってやろうか……


 やっぱり、まずはそっと、くんか、くんかするとか?


 いや、キモすぎる。


 美少女がするなら、サイコーだけど。


 陰キャな俺がやるとか、終わっている。


 じゃあ、いっそ、豪快に顔をうずめて、舐め回すとか……いや、それこそ、終わりだ。


 ちくしょう、あまりにも素晴らしいお宝すぎて、逆に何もできねぇ……


 俺が欲してやまない、あの隠れデカパイに触れたであろう、このブレザーに対して……


「……いや、ていうか、明日ふつうに着るじゃん」


 ふと、冷静になる。


 けど、本当に俺は、これを着ることが出来るのか?


 でも、着ないと、怒られるだろうし。


 まだ、衣替えじゃないから。


 そうだ、衣替え~……まだ先だけど、その時、俵田さんのあの豊満おっぱいが……


「……悠長なことはしていられないな」


 決して、焦るのは良くないが。


 衣替えの時期までに勝負を決めないと、ライバルがどっと増えてしまうかもしれない。


 そうなったら、俺みたいなキモ陰キャに勝ち目はない。


 同じクラスには、あのイケメンもいるし……


『やあ、みんな、おはよう!』


『『『『『『きゃぁ~、祐介ゆうすけくぅ~ん!』』』』』』


 けっ、まばゆいほどのリア充め。


 まあ、イキり散らかしたリア充(笑)よりは、はるかにマシだけど。


 それにまあ、そのイケメンこと、桐生きりゅう祐介は、もうお似合いの相手がいらっしゃるから。


 ご存じ、松林花梨まつばやしかりん、その人である。


 クラスのアイドル同士、さっさとくっついてくれ。


 いや、待てよ。


 松林さんが早々に桐生と結ばれちまうと、あきらめた他の野郎どもが、他の女子を狙って……


「……ふぅ」


 どちらにせよ、悠長なことは言っていられない。


 確かに、俺は冴えない陰キャだけど、決して人生をあきらめてはいない。


 少しでも、他人よりも快適で楽しい人生を送りたいと思っている。


 そして、幸か不幸か、学生の内に、理想の女子に出会えた。


 可愛くて巨乳なのに、なぜか注目されていない(表立っては)、ステキ女子に。


「すうううううううぅ……」


 絶対、彼女を手に入れたい。


 その決意の下、俺は覚悟を決めて変態行為に興じた。




      ◇




 朝、登校する。


 我が1年A組の教室では……


「花梨ちゃ~ん!」


「祐介く~ん!」


 イケメンと美少女が、朝から揃い踏みで、ギャラリーを大いに沸かせている。


 よしよし、良いぞ。


 お前らがそうして盲目的に盛り上がっている内に、俺は……


「……俵田さん、おはよう」


 少し勇気がいったけど、あいさつ出来た。


「あ、おはよう、峰くん」


 友達と談笑していた彼女は、ほんわかとした笑顔で言ってくれる。


「あ、昨日は、色々とごめんね?」


「いやいや、俺の方が……」


「ていうか、ブレザー、大丈夫? 汚れていない?」


「ああ、うん。平気だよ……」


 言えない。


 あの後、興奮のあまり、自分で汚したなんて。


 下劣な行為で……想像にお任せします♪


「そっかぁ。まあ、これから一緒に美化委員、がんばろうね~」


「うん、ありがとう」


 一応、俵田さんの友達にも会釈をして、席に向かう。


 あの友人たちが、俺のことをどんなふうに言って、思っているのかは分からないけど。


 まあ、良いだろう。


 とりあえず、今は攻略本体、俵田さんの好感度を上げまくって。


 余裕ができたら、外堀を固める意味でも、そのフレンズの好感度も上げておこう。


「あっ……」


「んっ?」


 ふと声がしたので、前を向くと……美少女がいた。


 ていうか、松林さんだ。


 おっと、いけない。


 浮かれていたせいか、うっかり接触してしまった。


「おはよう」


 あいさつしてくれる。


「お、おはよう」


 俺はぎこちなく返して、そそくさと自分の席に座る。


 ふぅ~、びっくりした。


 やっぱり、間近で見ると、すごい可愛いな。


 まあ、でも、やっぱり俺の性欲をかきたてるのは……俵田さん一択だけどな。


 ああ、早くあの豊満ボディで色々と、お楽しみたいな~。


 やはり、俺は浮かれまくっていた。


 まだ絶賛、攻略中なのに。


 だから、気付かなかった。


 松林さんが、他の男子、あの桐生にさえ向けないような目を、俺に向けていたことに。




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