お前らがクラスのアイドルに注目している間に、実は可愛くて豊満ボディな子をこっそり攻略していたわwww

三葉 空

第1話 シ◯リティがヤバい女

 小さい頃から、どちらかと言えば、ひねくれ気質だったかもしれない。


 現に俺は、スポットライトが当たる、明るいステージに背を背けている。


 その場所に立つのは、正にアイドル級のルックスを誇る美少女。


 松林 花梨まつばやし かりん


 入学当時から騒がれ、同学年だけでなく、上級生たちもわざわざ見に来るほど。


 それくらいの、美少女。


 明るい笑顔と性格。ツインテールもよく似合う。


 スタイルも抜群、均整がよく取れたボディだ。


 とにかく、みんな愛してやまない、アイドル的存在。


 けど、俺はあまり彼女に興味を向けない。


 確かに、可愛いことは認めるが……


 チラッ、と。


 俺が視線を向ける先には、別の女子。


 友達2人ほどと、談笑している。


 ほがらかに笑いながら。


 松林さんの笑顔が鮮烈なら、彼女の笑顔は柔和。


 その包み込むような温もりは、笑顔だけでなく、性格にもきちんと出ている。


 何よりも、そのカラダが……豊満だ。


 顔だって、可愛い方だし。


 みんながあまり、見向きをしない理由が分からない。


 いや、内心では、気にかけているのかもしれないけど。


 大半は、鮮烈なアイドルに注目している。


 だから、今がチャンスだと思った。


「ごめんね、ちょっとおトイレに」


 彼女が立ち上がる。


 俺はその様子を席で伺いつつ、ガタッと立ち上がる。


 何気ない素振りで、彼女の後を追う。


 廊下にはちらほら他の生徒たちがいて。


 でも、誰も彼女には注目していない。


 よし、それで良い。


 俺は、その大きなお尻……いや、失礼だし変態だ。


 とにかく、彼女に近付いて……


「……俵田たわらださん」


 声をかけると、彼女は振り向く。


「あ、みねくん。どうしたの?」


「いや、まあ……ちょっと、トイレに行こうかなって」


「奇遇だね、わたしもだよ」


 彼女――俵田育実いくみは、にっこりと微笑む。


 実は俺が、軽くストーキングしたことも知らずに……すまん。


 ちなみに、俺の下の名前は善和よしかずって言うんだけど、全くもって名前負けというか……両親の期待に応えられず、すまん。


「どう? 高校生活は?」


 俺は当たり障りのないことを言う。


「う~ん……まだ、ドキドキしているかな」


「へぇ~……」


 俺はついつい、彼女の豊かな胸に目が行く。


 やっぱり、たまらないなぁ……Dは下らない。


 Eか、Fか、あるいはG……いや、それ以上か?


 とにかく、そこには男のロマンが詰まって……


「じゃあ、わたしもおトイレだから」


 いつの間にか、そこに来ていた。


「あ、うん」


「じゃあ、またね」


 俵田さんは、笑顔のまま手を振ってくれる。


 俺はにへらっと表情が崩れそうになるのを堪えて、軽くぺこっとして男子の方に入った。


 出来ることなら、個室に入りたいけど……まあ、ガッコで大の方に入ると恥ずかしいムーブがあるし。


 実際、出る訳でもない俺が入って、本当に出たくて入りたい人の邪魔をしたら申し訳ないから。


 とりあえず、このシコり気は……家に持ち帰ろう。


 まだ、今日は始まったばかりだけど。




      ◇




 別の日。


 また、チャンスが訪れた。


「え~と、誰か美化委員の希望はいるか~?」


 先生がチョーク片手に言う。


 美化委員なんて、よく知らねーし、って感じで誰も手を上げない。


 そんな中で……


「……あ、じゃあ、わたしがやりまーす」


 やんわりと手を上げたのは、俵田さんだ。


「おお。俵田、ありがとう。じゃあ、あと1人だけど……」


「……あ、あの。じゃあ、俺が」


「おお、峰か。じゃあ、頼むな」


「は、はい……」


 やばい、緊張した。


 もし、先生に名前を覚えられていなかったら、とか。


 そもそも、陰キャな俺が出しゃばって、キモいと思われないかな、とか。


 そもそもそも、女子ひとりが立候補したところに男子が行くとか、下心まるみえじゃん、とか。


 あまりにも情けない心配が瞬時に内心で列挙されまくったけど……


「じゃあ、次は~……」


 誰も、関心を寄せていない。


 それはそれで、ちょっとガクッとするけど……好都合だ。


 これで、俺は密かにムラつきまくっている、俵田さんと……




      ◇




 待ちに待った、放課後。


「今日は、校内の花瓶のお水を変えるだけだって」


「う、うん」


「でも、良かったぁ。もしかしたら、美化委員はわたしだけになっちゃうかと思ったけど……峰くんも、立候補するなんて、物好きだね~」


「いや、そんな……ハハ」


 君がいるからだよ、俵田さん。


 あぁ、早く仲良くなって付き合って、この豊満ボディをめちゃくちゃに……


 いや、落ち着け。


 そんなエロマンガみたいな展開、やばいって。


 現実的には、ラノベのラブコメよりも、ちょい控えめくらいのペースで進めば良い。


 だが、あまりモタモタもしていられない。


 この隠れステキ女子を、早く俺だけのモノにしてしまわないと……


「峰くん?」


「ハッ……ご、ごめん」


「ふふ。じゃあ、2人で協力してやろうね」


「う、うん」


 そう言って、俵田さんは廊下を歩き出す。


「ふんふふ~ん♪」


 ご機嫌そうに、鼻歌を歌いながら。


 可愛いな、おい。


 そして、相変わらず、尻がすごい。


 けど……俺はとなりに並んで、チラッと横に目線を送る。


 ぷる、ぷる、と。


 やっぱり、揺れている。


 ぶっちゃけ、この豊満な魅力は、隠しきれていない。


 ぼっちで友達がいないから、クラスの男子どもがどう思っているのか、分からないけど。


 どちらにせよ、今はアイドルたる松林さんに注目が集まっている。


 だから、今の内に、俺だけこのステキ豊満女子と仲良くなって……


『あぁん! 峰くん、すご~い!』


 あのデカ尻を背後から掴んで、パンパンと……


「峰くん、花瓶を持つのをお願いしても良い?」


「あ、うん」


 俺は良からぬ妄想をしていた。


 だから、バチが当たったのかもしれない。


 つるっ、と手が滑った。


「あっ……」


「……えっ?」


 バシャッ、と。


 花瓶の水が、俵田さんを濡らした。


 幸いなことに、下に落ちて割れることはなかったけど……大参事だ。


 ていうか、ブラが透けて……とか言っている場合じゃない!


「ご、ごご、ごめん、俵田さん!」


「ううん、大丈夫だよ」


 こんな状況になっても、笑顔を絶やさない。


 本当に、ステキな子だな……とか感心している場合か。


「あ、そうだ。俺のブレザー、前から羽織って」


 俺は自分のそれを脱いで渡す。


「ありがとう。でも、良いの?」


「もちろんだよ。だって、俺のせいで、こんな……」


「ふふ、ありがとう」


 ああ、俵田さん、君は本当に良い子だ。


 けど、俺はサイテーだ。


 だって、こんな状況になっても……君に対して、ムラつきが収まらない。


 ブレザーを渡したのは、本当に濡れ透け姿をカバーするためだけど。


 結果として、ちょっと嫌らしい感じになってしまう。


 だって、俵田さんの匂いが、俺のそれに染みついて。


 しかも、たぶんあの豊満な胸とかも触れて。


 とんでもないオカズが、爆誕したのでは……


「峰くん、わたしちょっと教室に戻って、体操着に着替えて来るね」


「あ、うん……」


 と見送りかけるけど、すぐにハッとする。


「いや、俺も一緒に行くよ」


「えっ?」


「あ、いや……」


 言えない。


 万が一、男子たちが残っていて。


 俵田さんのエロい濡れ透け姿を見られたらと思うと……ギリリ。


「念のため、俺も付き添うよ」


「そう? でも、帰りが遅くなっちゃうかもよ?」


「ああ、良いんだよ」


 むしろ、大歓迎さ。


 って、我ながら、性欲がヤバいだろ。


 これだから、陰キャって生き物は……


「ありがとう。じゃあ、お願いしようかな」


「うん、任せて」


 そして、俺は最大限の警戒心を働かせながら、俵田さんを教室まで護衛する。


 問題は、ここだ。


 教室内に、他の誰かが残っていたら、ちょっと気まずいぞ……


 ガラガラ。


 けど、そこには誰もいなかった。


 ホッ。


「よいしょ、じゃあ体操着を出してと……」


 俵田さんは、机の脇にかかっていたバッグから、体操着を取り出す。


「あ、峰くん、ブレザーありがとうね」


「あ、うん」


 俺は受け取る。


 思わず、すぐ匂いを嗅ぎそうになって、危ない。


「じゃあ、ちょっと着替えるから……」


「わ、分かった。そしたら、俺は……外で人払いをしておくから」


「うん、ありがとう」


 その笑顔にまたへらっとしながら、俺は教室の外に出る。


 つい、かっこつけて言ったけど……もし、陽キャリア充とか来たら、止める自信がないぞ。


 まあ、サイアク、俺の評判を落としてでも、止めて見せる。


 まあ、そもそも、落ちるほどの評判も無いけど、ハハハ。


「あれ?」


 ふと、そばで声がして、ビクッとする。


 とりあえず、女子の声だから、ホッとするけど。


 直後に、ギョッとする。


 なぜなら、そこにいたのは……


「……ま、松林さん?」


「えっと……峰くん、だよね?」


「う、うん……」


「ちょっと、教室に忘れ物をしちゃって……そこ通してくれる?」


「あ、っと……」


 まあ、女子同士だから、良いかな……


「……ど、どうぞ」


「ごめんね」


 松林さんは小さく詫びて、教室に入る。


 すると、すぐに中で話し声が聞こえた。


 扉越しだから、よく聞こえないけど……


 ガラガラ。


 松林さんが、また姿を見せる。


「あ、忘れ物は、大丈夫だった?」


 俺は遠慮がちに言う。


「う、うん」


 何やら、松林さんの様子が、少しおかしい。


 確かに、中で俵田さんが着替えているけど。


 同性だし、そこまで驚くようなことではないと思うけど。


「峰くんってさ……」


「はい?」


「……あ、何でもない。じゃあ、またね」


 最後には、またアイドルばりの笑顔を浮かべて、彼女は去って行く。


「……どうしたんだろう?」


 俺は中の様子が気になる。


 コンコン、とノックをした。


「俵田さ~ん……大丈夫?」


 すると、


「あ、は~い」


 と返事が来たので、俺は中に入る。


「ごめんね~、待たせちゃって」


 そう言う俵田さんは、濡れて透けたブラウスの代わりに、ジャージを着ていた。


 ゆったり、分厚い素材だから、彼女の豊満な胸がブラウスの時よりも目立ちにくくなる。


 けど、それゆえに、むしろ想像、いや、妄想してしまうのだけど……


「あ、そうだ。松林さん、通しちゃったけど、大丈夫だった? 女子同士だから、良いかなって……」


「うん、大丈夫だったよ」


「そう? でも、気のせいかもしれないけど、教室から出て来た松林さんの様子が、ちょっと変だったなって……」


「う~ん……ああ、わたしの伝え方が、ちょっとまずかったのかな?」


「と、言うと?」


「あのね、『どうして着替えているの?』って聞かれたから、『峰くんに濡らされちゃった、てへっ』……って言ったの」


 ズガーン……と


 俵田さん、クソ可愛いけど……ちょっとだけ、ひっぱたきたいよ。


「それ、ちょっと……いや、絶対、あらぬ誤解を招いたよね?」


「うん、そうかも……ごめんね」


「いや、まあ……元はと言えば、俺のせいだし」


「でも、ね……峰くんとだったら、変な噂が立っても、良いかなって」


「えっ……」


 おいおい、それって……いや、落ち着け。


 きっと、俺は目立たない陰キャだから。


 どうせ大した噂にもならず、霧散するからだろう。


 情けないけど、事実だから仕方がない。


「ごめんね、変なこと言って」


「あ、いや……」


「でも、峰くんって……何だか、他の男子とは違う気がして」


 あれ? 何だこの感じは?


「いや、俺なんて、所詮はただの……陰キャですから」


 ちゃんと自覚しているけど、改めて他人にそう伝える時、さすがに言葉に詰まるな。


 まあ、だから陰キャなんだろうけど。


 『俺って陰キャだからさ、ハハ』なんて言えるのは、陽キャだから。


「……あ、美化委員のお仕事、早く終わらせないとね」


「そ、そうだね。俵田さん、時間とか大丈夫? 何なら、俺が1人でやっておくよ?」


「ううん、平気……ちゃんと峰くんと、2人で仕事をやりたいの」


 真っ直ぐな瞳に見つめられる。


 ドクン、と胸が高鳴った。


 おい、これって、まさか……いやいや、勘違いするな。


 おっとりしているけど、きっと責任感が強いんだ。


 俵田さんは、ステキ女子だからな。


 ちょっと目立たない、隠れファンが多い系だけど。


 って、隠れファンとか、根絶やしにするぞ。


 この巨乳ちゃんは、俺だけのモノにするんだから。


 ああ、やめよう。


 性欲が強い陰キャとか、キモすぎるから。


「峰くん」


「あ、はい」


「やろっか?」


「う、うん」


 俺は戸惑いつつも、頷いた。



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