第三章 最終話 下水道魔王とヒーロー見参
突如として登場した鋼鉄のパワードスーツに身を包んだ男、万屋に愕然とする一行、ボスが驚愕しながら訪ねた。
「なんだそのめちゃくちゃカッケースーツは!?!?ヤベーなそれ!!!」
「ダステルに知り合いがいてな、そいつの自信作よ!!まぁそれは後で話すとして…あのネズミどもはなんなんだ?」
「今回の黒幕です。」
女医はそう言いながら突然の来訪に呆気に取られている下水道魔王の方を指差す。
「ほぉ…なるほど、とりあえずアイツをぶっ飛ばせば解決って訳だなぁ?」
「話が早くて助かる。どうにかして金網の向こうからあのドブネズミを引きずり出してくれ。」
「なるほどな、さてさてどうすっかなぁ…」
探偵と万屋がそう話していると、先ほど宙を舞い飛んで伸びていた巨大ネズミが我に返ったようで、怒りの咆哮を上げて突撃してくる。しかし万屋は微動だにせず仁王立ちをしてネズミを真っ向から受け止めた。周囲に大きな衝撃が走る。ガコンッと鈍い音が響いた後、前のめりになっていた巨大ネズミがゆっくりと後方に倒れる。よく見ると胸の中央部に拳大の穴が空き血が吹き出ているのが分かった。辺りに湧き出る噴水のように鮮血が流れ落ちていく。
「バッ…バァカな!?!?!?我輩の最終兵器がっっ!!!!!!」
思わずフェンスを掴み絶叫する下水道魔王。地響きを鳴らしながら地面に沈む巨大死体の尻尾をおもむろに万屋が掴む。キュイィィィィンと駆動音が聞こえ、悠々と死体を引きずり回す。地面の死骸や岩片を吹き飛ばしながら死体がどんどん速度を上げて回転して行く。台風のような突風が生み出され、思わずネズミ供も怯んでいるところに突如万屋は手をぱっと離した。
「受け取りな!!リコールだ!!」
「なっっ!?!?」
弾丸のように万屋の手元を離れ飛び出した死体は間抜けにも口を開け惚けていた下水道魔王のいる金網ごと彼に激突した。爆発に近い衝撃と土煙が上がり、あたりが静寂に包まれる。観客ネズミ含め全員の視線は下水道魔王のいた瓦礫の山に注がれていた。
「やったか!?!?」
「やったべ。」
「そう言うことは言わない方が…」
「黙ってよく見ろ脳筋供。」
そう探偵が指差すと瓦礫が吹き飛びボロボロの姿の下水道魔王が地響きを立てて目の前に飛び降りてきた。先程までの煌びやかな衣装は半分ちぎれ泥にまみれている。歯は所々欠け落ち、血でまみれた満身創痍の魔王の顔はネズミをよく知らない彼らにも一目でわかるほど憤怒一色に染められていた。下水道魔王はこちらににじり寄りながら唾と殺気を撒き散らす。
「貴様らぁぁぁぁ……よくも…よくも…我輩をこんな目に遭わせよってぇ……絶対に殺してやるぅ…八つ裂きだっ!!!!!!!…絶対に八つ裂きにしてやるぅぅぅぅぅ!!!!!」
四足でこちらに向かって狂乱の如く突っ込んでくる下水道魔王、しかしその瞬間。
パァン!!!!!!
突如乾いた音が響き渡る。突然の音に静寂に包まれる場内、探偵の右手に持っている拳銃から煙が薄っすらと上がっていた。下水道魔王の眉間には小さな穴が出来上がっていた。
「さっき言った奥の手だ。バラしたら警戒されそうだったからな、外さない距離までノコノコと来るのを待ってた。」
「き……さま…ら…おの…れぇ…」
どさりと下水道魔王が倒れるそれを見届けると探偵は入り口だった方へと走り出した。
「…!?ちょいちょい!?お前どこ行くんだよ!!」
突如踵を返すかのように走り出した探偵に思わずギャングボスが問いかけると、
「決まってんだろ、逃げんだよ。親玉が死んだらどうなるか考えてみな。」
「んあ?」
「へ?」
「は?」
そう言い去り通路へと消える探偵、その言葉を聞いてふと後ろを振り返る残り三人。そこには怒り狂ったネズミの大群がまさに灰色の波となり此方へと迫っていた。
「おいおいおいおい!!!!!流石にヤベーぞ!!!」
「いやあぁぁぁ!!!!無理無理無理!!!」
「あのやろおおおおお!!!!初めから伝えろよ馬鹿やろぉぉぉ!!!!!」
死にものぐるいで逃げ出す三人、狭い通路を全速力で駆け出して走っていると探偵の後ろ姿が見えた。
「テメぇ!!なんでもっと早く言わなかったんだよ!!!!殺す気かぁ!!!!」
「言わなきゃ気づかんお前らが悪い。」
後方には下水の通路一杯にみちみちに詰まった灰色の波が怒涛の勢いで押し寄せてくる。しんがりを務め、我先にと迫って飛びかかるネズミ達を蹴散らしながらスーツで武装した万屋が金属音を立てながら大声で伝える。
「今さっき連絡通信が来たんだが!入り口に地主のおっさんがスゲーの用意してくれてるらしいから入り口から出たらすぐ避難してくれ!!!」
「はぁ…はぁ…いったい…何がっ…あるんですか!!!!!」
「俺にも分からん!!!だが頼るしかない!!!」
「この量だぞ!!地上に出したらまずいんじゃねーか!?!?」
「それも分からん!!だがおっさんを信じよう!!」
「喋ってないで逃げないと轢き潰されるぞ。」
迫り来る暴力から逃げ続けていると前方に光が見えてきた。入り口にたどり着いたのが分かる。そして日差しの下に出ると前方にはあの山のように大きな男とその私兵だろうか、武装した人々はこちらを見守っていた。万屋が地主のすぐ横にある装置を見て理解する。顔を青ざめさせ大声で叫ぶ。
「マジかおっさん!?お前ら全員避けろ!!!!!」
万屋の号令に全員が急いで入り口から転がり出て四方に散り、緊急回避を取る。
「撃ってくれ。」
地主の一言により兵士達が機械を作動させる。すると爆発音が響き巨大な何かが通路に向かって射出され入り口に迫っていたネズミに激突した。次瞬間凄まじい閃光と爆発が起き、辺りが様々な色の光に彩られる。
地主は泥まみれで爆発が起きている入り口を観ている四人にサングラスを手渡しながら今もなお閃光と熱が渦巻く地下通路入り口を指差す。
「マンガン王国名物の120連花火だよ、大体半日は続くだろうね。収まり次第兵士たちによって一掃及び清掃と調査を行うつもりだ。本当にありがとう。」
地主は四人に礼を述べ頭を下げる。四人は顔を見合わせてその後に自分の姿を見て少し笑う。
「…とりあえず風呂だな、報酬とかそういうのは全部後だ。」
「だな。」
「だよなぁ…きったねぇ。」
「そうですね。」
それを聞いた地主は小さく笑い答えた
「それなら王国最上級のスパリゾートを手配しよう、お題はこちらが全て持つ。疲れを存分に癒してくれ。」
「流石大地主だな、感謝します。」
「おっさん!もちろん飯もつけてくれよな!!」
「マァジで腹減った〜…飯だ飯。」
「マッサージあるといいんだけど…」
かくして、様々な街を跨いで起きた謎の誘拐事件は下水道魔王を名乗る謎のネズミの仕業で決着がついた。
人々の夢と希望をばら撒く娯楽の国マンガン王国。
沈みかけた日が完全に落ちたとしても街は色あせることなく騒ぎ続けるのであった。様々な人生が交差するこの世界で、今日も人は生きてゆく。この街で、この世界で。
第三部完
Junk box stories 【ジャンクボックスストーリーズ】 鰹武士丸 @katsuovcmaru18
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