第二章 5話 オタクってなんだ
アトリエを離れた彼女はおやつとして途中の売店で売っていた何故かピンク色に光るチュロスを口にほおばりながら13番街へと向かっていた。
「ふほひひふはひはひまひはへぇ…(少し静かになりましたねぇ…)」
13番街は他の番街と比べると研究施設などが多いため、通りに人が少ないのだ。最も彼女が気づいていないだけで、少し路地裏に外れるだけで地獄の様な出来事が繰り広げられているのだが。そうして完食して歩いていると目的地の目印に到着した。その建物は周りと比べてひときわ大きく、後から上に継ぎ足した様に大小様々な建築物が積まれている。様々なサイズの四角形が積み上げられた塊となって形成された姿は大きな塔の様であった。
正面玄関であろう大きな扉は何故か修繕された跡が非常に多く、光が漏れ出していた。扉に近づいてみると少しだけ中の音が聞こえるのだが、怒号の様な叫びや悲鳴が小さく聞こえる。中でパーティーでもやっているのだろうか。
チャイムを押してしばらく5分ほど待機していると凄い勢いで一人のボサボサの白衣の男が飛び出してくる。扉が開いた一瞬その隙間から凄まじい爆音が響くが閉じられて直ぐに聞こえなくなる。
「ハァーッ…ハァーッ……何か御用ッスか…?」
今しがた扉から転がり出てきた男は酷く疲れた様子で聞いてきた。
「あー…あの…お花の配達に来たんですけど…」
「…あぁー…そういえばもうそんな時期ッスね…代金を用意するので少々お待ちを…スーッ…よし!!」
白衣の男は小さく深呼吸をし、覚悟を決めると凄まじい勢いで扉を開け、入って行くと5分後にはまた凄まじい勢いで飛び出してきた。
「ドヒューッ……あぶねぇ……ハァーッ…これ料金ッス…ハァーッ…」
男は扉にもたれかかる様に力無く倒れこみ大きく息を吐きながら少女にお金を手渡した。
「あっありがとうございます……あのー…大丈夫ですか??」
「大丈夫ッス…こんなんですけど慣れてるんで…」
「中で何が起きてるんですか?」
「簡単にいうなら研究なんすけど…みんななりふり構わず研究してるんで…邪魔すると殺されかけるんすよ……通路で実験とかするくせに…チャイムがなっても出るのが僕ぐらいしかいないので毎回こんな感じなんすよ…」
「それは……なんというか災難ですね…」
「いつもの事なんで…」
白衣の男は心底疲れた様に説明した。商品を受け取った男がトボトボと戻ろうとしている時、ふと何かを思い出した少女が引き止めた。
「あの…違ったら申し訳ないんですけど…これを渡してくれって言われたんですけど…」
そう言って一つの小包を渡す。この小包はなんなのかというのは少し前のアトリエまで遡る…
〜回想〜
話は画家のアトリエを去る直前に画家に呼び止められた場面まで遡る。
「次は電光研究所に行くんですか…それなら一つ頼みがあるんですが良いですかね?」
「え?まぁいいですけど。」
「この小包を研究所に居るであろうボサボサの眼鏡の白衣の男に渡して欲しいんです。違う人が出たらそれはそれでその人に渡すで構わないんで。」
「わっ分かりました!」
「お手数でしょうがよろしくお願いします。」
こうして手渡された小さな包みを少女はポケットへと仕舞った。
〜回想終〜
「なんの奴だろ…失礼しますッス……っ!!!!」
男が包装を開けて中を確認した途端、先ほどまでの様子が嘘の様に目を見開いて大声で叫んだ。
「これは!!!!!魔法少女プリズム☆クランの如月優衣波、98年映画バージョン!!これをどこで渡されたんすか!!!」
先程までの覇気のなさが嘘の様にハキハキとした様子で急に詰め寄る白衣の男に思わず後ずさる少女。
「うぇっ!?!?いやっ…12番街の画家さんに…」
「やはりそうでしたか!!いやぁこれは凄い!!!とんでもなく素晴らしいッス!!!」
「そっ…そうなんですか…?」
「そうなんスよ!!98年ごろ放送されていた映画版魔法少女プリズム☆クランの中でも熱狂的ファンの多いゲストキャラの如月優衣波ちゃんッス!!往来のクールキャラではよく見られる暗い過去持った彼女なんすがストーリーはサイガ・マサタカ監修なだけあって素晴らしい感情表現がなされていてですね!!特に作画監督があのワイゼンボーン監督なので戦闘シーンは見ものなんすよ!!そしてこの画板はその作画を見事に表現しているんす!!この表情とかそっくりッスね!しかも衣装も最終決戦使用のγフォーム!!あのシーンは激アツっすからね!!さらに背景にあの光の帯が見えているという事は集結シーンの手前って事ッスからね!!いやぁーシーンが容易に想像できるッスな!ここの衣装のフリルのディテールが非常に良くできて…」
「しっ…失礼しまーす…」
少女は嵐の様に繰り出される言葉の洪水に本能で危機を感じたため、気がつかれない様にそっと研究所を離れるのであった。彼女が立ち去った後も暫く彼の作品語りは続いていたのは彼女の知るところではないだろう。
全ての配達を終え駅へと到着した彼女は次の汽車へ乗り込もうと急いでいた。
「ジュース飲んでたら遅くなっちゃった!!急がなきゃ!!」
ぱたぱたと走っていると不意に汽車から出てきたガタイの良い男にぶつかってしまう。
「おわっ!!」
「きゃっ!!ごっ、ごめんなさい!!」
少女が顔を上げると男の服に持っていたジュースがかかってしまっていた。
「うぇ!?どどどうしよう…あのっ!このハンカチ使ってください!!」
慌てふためく彼女に追い打ちをかけるかの様に汽車の発射予告が鳴り響く。
「気にすんな嬢ちゃん、あの列車なんだろう?早いとこ行きな。」
以外にも怒ることなく男は笑顔で少女を汽車に乗せる。少女は列車の扉が閉まってもペコペコと頭を下げているのがホームから見える。やがて列車がホームから旅立ったあと、厳ついハゲ男は返し損ねたハンカチをじっと観ながら一人つぶやいた。
「まさかな…いや…もしかして…」
男はニヤリと顔を歪めた。
to be continued…
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