第二章 4話 ペンキの悪魔
つい先ほど目の前でがくりと力尽きた男曰く悪魔がいると言われた場所を地図と何度も確認するも目的地は変わらず、震える足を頑張って運びゆっくりと慎重に近づいていく。
建物は打ちっ放しのコンクリートで出来た味っ気のない物だがドアが無く、ガレージのようになっており、敷地内はぶちまけられたペンキによって様々な色に染まっていた。少女はお化け屋敷に入るが如くビクビクとしながら中を入っていった。
「すっ…すいませっ…すいませぇぇん…だっだだ誰か居ますっすかぁぁ…はひぃ…」
中は塗料の臭いが充満しており。大小様々な作品が乱雑に置かれていた。絵画から立体作品まで所狭しと置かれており、異様な空間となっていた。少女は奥の扉の灯りがついていることに気がつき、恐る恐る近づいていってドアノブに手をかけた。
「しっ…失礼…しま…s「誰?泥棒?」どひああああああぁぁぁぁ!!!!!!!」
扉に意識を集中させていた彼女は扉の横の机に向かっていた男に気がつかなかったようで、話しかけられた瞬間悲鳴をあげながら仰け反りすってころりんと倒れた。
「………大丈夫?」
「うぇぇん…大丈夫じゃないですぅ…うぅ…」
男はほぼ泣いている少女に手を差し出してそっと起き上がらせ、軽く埃を払うと近くの椅子に座らせた。
「それで?その様子だと泥棒ではないと思うんですけど。」
「うぅ…お花の配達に来たんですぅ…」
「あぁ、なるほど。いつもの花屋の人じゃないから違う者だと思いましたよ。」
男はとりあえず少女が落ち着くのを待ってから、自己紹介をした。
「ご存じではないご様子なので改めまして自己紹介を、自分は此処で画家をやらせてもらってる者です。」
「あっ…あのぉ…」
「ん?なんですか?」
「ここに来る前に…ここには悪魔が住んでるって言われたんですけどぉ…」
「…どこで?」
「あの…入り口の前のところで、ペンキ濡れの人に。」
「…あぁ、アイツら泥棒。」
「??…泥棒?」
「そう泥棒。結構な頻度でこのアトリエに窃盗目的で侵入してくる奴が多くてですね。いちいちギャングの方を呼ぶのも面倒なのでしばいて吊るしてるんですよ。見せしめの目的もあるんですけどね。」
「ギャン……??…しばいて…??」
少女が想像より物騒な出来事が起きていることに驚きを隠せなかったが、画家は気にする様子など微塵も見せずに商品を眺めていた。
「えーっと、今回の花は…アカンサスとトレニア…なるほどいいチョイスですね。代金は…9ガルド…良心的な値段なのも流石だ。」
「…あっ!はい!ありがとうございます!」
少女は自分がバイト出来ていることを思い出しお仕事モードに無理やりスイッチを入れ替える。お客さんの素性は詮索しないのがマナーだとマスターにも教えられたのだから。
画家が花を確認して配置を考えている間に少女は周りにある作品を見回す。泥棒が入るほどという事はこれらの物は全てすごい価値のものなのだろうかと一人で考えていると、その様子を察した画家が答える。
「勘違いしていそうなので言いますけど、周りにある作品は全部僕の暇つぶしで作った物なので価値はないです。」
「……あえっ!?そうなんですか!?」
「はい、僕の本業は電子画板なのでこれらはアホな泥棒を欺く為のダミーみたいな物ですね。代金は9ガルドですよね?はいどーぞ。」
「うぇ!?あっありがとうございます。」
「花屋の人にはまたよろしくお願いしますと伝えておいてください。それと…コレを貴女にあげましょう。」
「え!!いいんですか!?凄い!!」
少女が手渡された物は小さめの画板だった。中には美しい衣装に身を包んだ女性が華麗に戦っている姿が映し出されている。
「さっき暇つぶしに自分が描いてた物です。さっきの様子だとこの街は初めてだと推測したので記念にどうぞ。」
「嬉しいです!!綺麗ー!!!」
思わぬプレゼントに眼をキラキラさせてあちこちから眺める少女。その微笑ましい姿に画家はほんの少しだけ微笑むのだった。
「ありがとうございました!!!」
手を振りながらアトリエを後にする少女。最後の配達先へ向かうために歩き出すのであった。13番街通り電光研究所へと…
to be continued…
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