第11話
「みんな!今日はキノコじゃなくて魚を取ることにしよう。そのほうが美味しいし腹も満たせると思うんだよね」
翌朝。
浜辺で目を覚ました浜田たちクラスメイトは、早速今日の食糧確保に着手した。
「あぁ…マジで腹へった…」
「きのこだけじゃ足りねぇよ…」
「俺、きのこすら食わせてもらえなかったんだが…」
「白米が食べてぇ…つか助けまだかよ…」
「俺たちあと何日ここで生き延びなきゃいけないんだ…?」
昨日集めたキノコだけでは三十人近くいる生徒全員の腹を満たすことは叶わなかった。
浜田やその取り巻きたちは赤いキノコをある程度食べて空腹を解消したのだが、その他の生徒はそもそもまともな食料にありつくことすら出来なかったのだ。
しかも今日またキノコで腹を満たすとなると、もっと森の奥へ入っていく必要がある。
浜辺の近くに生えているキノコは昨日の食料調達でほとんど取り尽くしてしまったからだ。
「みんなで協力して魚を捕まえよう。釣り道具とかはないけど、工夫して捕まえてみよう…!」
浜田がクラスメイトたちに向かってそんな指示を出す。
「けっ…本当に釣り道具もないのに魚なんて捕まえられるのかよ…」
「いいよな自分は……昨日キノコ食えたんだからよ…」
「しっ…浜田に聞こえるとやべーぞ」
食事にありつけなかった生徒たちは浜田に対する不満をブツクサ漏らしながらもそれを直接言うことは出来ない。
浜田に逆らうと、翔太のように追放されたり佐藤のように毒味係というそんな役回りをさせられるかもしれないからだ。
「全然捕まえられないぞ…」
「くそ…魚早すぎだろ…」
「こんなのどうやって捕まえるんだ…?」
浜田の指示で生徒たちは、海の中に入り、素手で魚を追いかけ始めた。
だが、そんなやり方で捕まえられるはずもなく…
結局数時間が経過したが、成果はほとんど皆無。
捕まえられたのは、たこやカニ、ウニといった動きの遅い魚介類のみである。
「ねぇ、浜田くん。まだ続けるの…?」
「浜田くん私喉乾いた…」
「浜田くん…魚を素手で捕まえるなんて無理だよ…」
やがて女子生徒たちから不満の声が上がり始めた。
「ちっ…使えないな…お前たちはただ僕の指示に従っておけばいいのに…」
「え、浜田くん?」
「ううん、なんでもないよ」
一瞬ポツリと漏らした本音の呟きを聞かれそうになった浜田は、誤魔化すようににっこりと笑みを浮かべた。
「うーん、そっか。やっぱり魚を取るのは難しいよね…じゃあ、一旦水分補給のために休憩しようか」
「やった!」
「ありがとう浜田くん!」
浜田がそういうと、女子たちは嬉々として森の中へ入っていった。
おそらく湧き水スポットへと向かったのだろう。
「おい、浜田。どうするんだ?このままじゃ、今日食べるものないぞ?」
「わかってる。今考え中だよ」
近くで海に潜っていた浜田の取り巻きの男子の一人が、水面から顔を出してそんなことを言った。
「うーん…どうしようか…」
やはり今からでも森の奥へ入ってキノコ狩りをしたほうがいいだろうか。
しかしそれだとクラス全員分のキノコは集まらず、二日連続で食べられない生徒も出てくるだろう。
そうなると流石に不満が出てきてそれを押さえ込むのは困難だよね…
そんなことを浜田が考えていた矢先のことだった。
「痛ってぇ!?」
近くで先ほど浜田に声をかけた取り巻きの一人が悲鳴をあげた。
「ん?どうしたの?クラゲにでも噛まれた?」
「くっそ…!尖った岩で足を切っちまった…!」
見れば、男子生徒の足の付近が血で赤黒く染まっている。
「かなり深く切っちまった…浜田!助けてくれ…!」
「ちっ…手のかかるやつだな…」
「え?浜田…?」
「わかったよ。すぐに助ける」
面倒だと思ったが、流石に側近である男子たちまで雑に扱いわけにはいかない。
浜田のここでの権力は、力あるクラスの運動部たちがほとんど浜田の取り巻きとして侍っているから保たれていることは、浜田も理解していた。
だからその取り巻きの男たちをぞんざいに扱うわけにはいかなかったのだ。
「君たち,彼を助けてあげて」
「お、おう…」
「おい、大丈夫か?」
浜田の指示で、他の取り巻きの男たちが、岩で足を切ってしまった男子生徒を助けようと海に飛び込んだ。
「って、うおおお!?なんかくすぐったいぞ!?」
すると岩で足を切った男子生徒が突然笑い出した。
「さ、魚だ…!魚が俺の血に群がってきてやがる…!ちょ、俺の足を齧るな!?」
「ん?」
浜田が水中に視線を移すと、海の中に流れる血の匂いに惹かれたのか、魚たちが男子生徒の足元に集まってきていた。
「これは…」
浜田の口元にドス黒い笑みが浮かんだ。
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