第10話
「んんぅ…うぅうう…」
何があったのかはわからないが、佐藤は相当衰弱しているようだった。
俺は簡易住居まで佐藤を運び、焚き火の前に彼女の体を横たえて温めた。
それから近くの川から水を救ってきて、佐藤の口へ運ぶ。
「佐藤。飲めるか?」
「…うぅ…」
「汗をかいてる。水を飲まないと脱水症状が出るぞ」
「ん…んくっ…」
佐藤が頑張って水を飲もうとする。
俺は開いた佐藤の口に少しずつ水を流し込んでやる。
「よし。水分補給はこれでオッケーだな。佐藤。食糧もあるが食べるか?」
佐藤の水分補給が済んだあと、俺は昼間に集めて残しておいたキノコを佐藤の口に運ぼうとする。
「少しピリッとするが食べられるぞ。腹を満たさないと、体力回復が遅くなる」
俺が食べやすいように赤いキノコを小さくちぎって佐藤の口に運ぼうとすると…
「ひっ!?いやっ…いやっ…!」
佐藤が突然顔面蒼白になり、首をブンブンとふった。
「キノコ、苦手なのか…?」
「キノコは…もういやっ…」
「そうか…」
アレルギーでもあるのだろうか。
佐藤のきのこに対する拒絶反応は異常だった。
「わかった。じゃあ、明日別の食糧を探してやるからもう寝ろ」
「ん…」
俺がそういうと、佐藤は安心したように目を閉じて眠りについた。
「やれやれ……一体何があったんだ?」
俺は首を傾げながら佐藤の隣に横になるのだった。
翌朝。
「あ、あの…佐久間くん…?」
「ん…?」
目を開けると目の前にとんでも美少女がいた。
「だ、誰だ!?」
俺はがばっと飛び起きる。
「さ、佐藤です…!昨日助けてもらった…」
「え、佐藤…?」
俺はまじまじと目の前の美少女を見る。
よく見るとおかっぱあたまの髪型や,猫背になった姿勢が佐藤の面影を残している。
だが、メガネが外されたその素顔は……
「佐藤、お前こんなに可愛かったのか…?」
「ふぇ!?」
佐藤が顔を真っ赤に染める。
「あ、すまん…なんでもない忘れてくれ」
思わず本音が漏れてしまった。
まさかメガネを外した佐藤がこんなに可愛かったなんてな。
普段からコンタクトとかに変えてたら絶対にモテてただろうに。
勿体無い。
「ご、ごめんなさい…すぐにメガネをつけます…っ!」
佐藤がそう言って慌てたようにメガネを装着した。
「汚れてたから……洗って乾かしてたの…」
「そ、そうか…」
「それでその……あの、佐久間くん。改めて……助けてくれてありがとう」
佐藤がお礼を言ってくる。
「あ、ああ。別にいいぞ」
なんだか佐藤の素顔があんなに可愛いと知ってしまってからまともに佐藤の顔を見れなくなってしまう。
俺は自分でも今の俺挙動不審だろうなぁと思いながら、佐藤となんとか向き合う。
「私…クラスのみんなに捨てられて……どうしていいかわからなくて…」
「捨てられた…?まさか追放されたのか?俺みたいに」
佐藤も俺のように浜田に逆らって追放されたのだろうか?
そう思ったが、佐藤の場合は少し事情が異なるようだった。
「私…無理やり浜田くんにキノコの毒味をさせられて……それで、体調を崩して…森の中に捨てられて…」
「あいつマジかよ…そんな最低なことしてんのかよ…」
佐藤の話を聞いた俺はドン引きした。
聞けば俺を追放したあのあと、浜田は集めたきのこに毒がないか確かめるために佐藤を犠牲にしたらしい。
そして茶色い方の毒があるキノコを無理やり食べさせられた佐藤は、すぐに体調を崩してしまった。
そんな佐藤を浜田は、周りの取り巻きの男たちに森の中に捨ててくるように指示を出したんだとか。
「私、体が動かなくて…森の中に捨てられて……このまま死ぬのかなって…そんな時に助けに来てくれたのが佐久間くんだったの……だから佐久間くんは命の恩人。本当にありがとう…」
「お、おう…助けになれたのならよかったよ」
しっかし、浜田はマジで暴走しているな。
元々傲慢でヤバいやつだったが、この無人島にきて誰もあいつを止めるものがいなくなってから、あいつはリミッターが外れてしまった感がある。
早いところ生活基盤を築いて彩音を助けにいかないとな。
浜田が何をするかわかったものじゃない。
「あっ、それでキノコを食べたくなかったのか…」
何があったのか話を聞いた俺は、昨日佐藤がキノコを拒絶していたことを思い出した。
おそらくまた毒キノコを食べさせられると思ってしまったのだろう。
「ごめん……よくしてくれた佐久間くんに……あんな拒否の仕方…」
「別にいいって。仕方ないことだろ?一度酷い目にあったんだから」
俺は手元にあった赤いキノコを手に取って自分で口に含んでみせる。
「佐藤。お前が浜田に食べさせられた茶色い背の低いきのこには毒があるんだよ。反対にこっちの赤い方には毒がない。こっちが食べられるキノコなんだ」
俺は佐藤を信用させるために、自分で茶色いキノコを咀嚼して飲み込んでみせた。
「そ、そうなんだ……いかにも毒がありそうな方に実は毒がなかったんだね」
佐藤は俺が食べたのを見て信用したのか、赤いキノコを受け取って食べる。
「まずいと思うが、腹の足しにはなるだろ?」
「ううん、美味しいよ…昨日から何も食べてなくてお腹空いてたから……ありがとう、佐久間くん」
俺と佐藤は残った赤いキノコを食べて腹を満たしたのだった。
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