たばこ売りの少女
昼休みになったので昼食を買うため、会社の
ビルから外に出ると、赤い頭巾を被った少女が
「煙草はいかがですか~」と持っていた藤篭から
小さな煙草の箱を出し、僕に手渡してきた。
試供品でも配ってるのかと思い何となく手に取ると、
少女はニヤリと微笑み「3000円です」と言ってきた。
たちの悪い押し売りだと思い突き返そうとしたが、
少女の手には小型のピストルが握られており
その銃口は僕に向けられていた。
関わらないほうが得策だと思い仕方なく財布から
3000円を差し出すと、少女はその札をひったくるように
僕の手から奪い取り、なにやら外国語の言葉を
吐き捨てるように呟きながら足早に去っていった。
その煙草のパッケージを見ると、馴染みのない外国の
文字とアールヌーボー調のイラストが描かれている。
東欧から来たジプシーなのかもしれないと思った。
僕は試しに1本ぬきだして吸ってみた。香りが強く
変わった味だったが悪くはなかった。
その直後、僕の体は地面から3センチ程度浮き上がり
滑るように地面の上を進み始めた。そのまま加速すると
僕は勝手にぐんぐんと前に進んでいった。そして
地下鉄の入り口の階段をスルスルと浮遊しながら下り
地下街の方に向かった。
僕は馴染みの天むす屋で弁当を買うと、また当然の
ように地面から少し浮かびながら階段をスルスルと
上がり地上に出て会社に戻った。
同僚は僕が地面から浮いているのに気が付いている
様子だったが、とりたてて驚いた様子はなく無反応だ。
僕は弁当を食べ終わると窓際の喫煙スペースに行き
さっきの煙草に火を付けた。窓を開け、外に向かって
煙を吐き出していると体が勝手に動き始め、気づくと
ビルの3階の窓枠から空中へと足先を踏み出していた。
足の裏に磁石の同極が反発するような手ごたえを感じ
僕は地面に落ちることなく、ふわりと直立した。
少し前傾姿勢をとると空中を浮遊しながらスルスルと
進んでいった。
ビルの間を縫うように進んでいくと、電線が行く手を
阻むようにひっきりなしに現れ、僕の体に引っかかり
そうになったが、それを上へ下へと器用に避けながら
空中を音もなくスルスルと進んだ。それが何か特別な
能力とかではなく、ごく普通のことのように思えた。
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