第28話 松の内

 玄関扉にぶら下げた小型の松飾りは、いつ外せばいいのだろうかと調べていたら、「松の内」という言葉が頭に浮かんできました。


■ 松の内(まつのうち):正月の松飾りのある間。元日から七日までを指す。(『新明解国語辞典 第8版』)


 昔は、正月気分が続く期間が長かったように思います。商店街の店なども、結構長く休んでいたような記憶があります。

 現在ももちろん、初詣などに大勢人が出て、それなりに正月気分は盛り上がるのですが、その期間は以前よりも短くなり、とても7日間は続きません。

 そのためか、「松の内」という言葉も、ほとんど聞かれなくなりました。


 同じように、「お屠蘇とそ気分」「屠蘇機嫌きげん」といった言葉も、聞かれなくなりました。


 それだけ世の中の動きが速くなった、裏返せば、ゆとりがなくなった、といえるのかもしれません。


 そういえば、私が若い頃は、1月4日の仕事始めの日、若い女子社員の多くは振り袖姿で出勤していました。

 その日、出社は定時より遅くてもよくて、仕事はしませんでした。その代わり、各職場で乾き物のお摘みなどを肴にビールや酒などで乾杯し、ひとしきり歓談した後、解散・退社しました。通常どおり仕事をするのは、翌5日からでした。

 ですから、4日の朝は、通勤電車で振り袖姿の人を多く見かけたものです。

 今では、想像もできません。


 それだけ世の中が、のんびりしていたのでしょう。

 もっとも、当の女子社員は大変だったようです。私の妻の体験ですが、その日はいつもより早く起き、出社の前に、着付けをしてくれる店に行かねばなりませんでした。通勤も、着物姿ではいつもと勝手が違いました。

 振り袖は、成人式の時にあつらえたものを持っていたそうです。しかし、二十歳前に入社した人はどうしたのでしょうか? 着物は決して安い買い物ではありません。


 今年の正月は、元旦早々の大地震、続いて航空機の衝突と、好ましからざる出来事が続きました。

 亡くなられた方々のご冥福と、一日も早い復旧をお祈りいたします。

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