第21話 声帯模写

 「声帯模写せいたいもしゃ」とは、「有名な芸人や、その世界での特徴のある著名人などのを使ってみせること(芸)」(「国語辞典」)とあり、話芸の一種です。


 なお、「こわいろ」は「声色」と書き、「物言う際の、その人独特の音質や抑揚、間の取り方や言い回しなど」(同上)です。


 声帯模写といえば、私は桜井長一郎さくらいちょういちろう氏(1917~1999年、ウィキペディア)しか思い浮かびません。


 おそらくテレビで見たのだと思いますが、俳優の長谷川和夫はせがわかずお森繫久彌もりしげひさや、政治家の田中角栄たなかかくえい大平正芳おおひらまさよしなどの声帯模写が記憶に残っています。

 大河内伝次郎おおこうちでんじろうの真似も盛んにやっていましたが、そもそも大河内本人のしゃべりを聞いたことがなかったので、あまりピンときませんでした。


 桜井氏がおられなくなってから、声帯模写という言葉も、その芸そのものも、見聞きすることは、ほとんどなくなりました。

 声帯模写はものまね芸の中の一分野だったと思います。一方、「ものまね」自体はは衰退するどころか、今でもテレビなどで人気があります。


 私が面白いと思うのは、大衆芸なのに、「声帯」、「模写」という、やや堅苦しい言葉が使われており、語の意味をよく考てみると、少々奇妙な点があることです。


 「声帯」:のどの中央部にある発声器官。弾力のある二条の靭帯じんたいから成る。

 「模写」:本物の通りに写すこと。

※いずれも「国語辞典」より。


 二つの単語の語義から素直に考えると、声帯模写とは、発声器官である声帯を模写することになりはしませんか?

 たとえば、こんなことが実際あるかどうか知りませんが、医学部学生が解剖の授業で、摘出した声帯の外観をノートに模写している、などという場面を想像してしまいます。

 そんな想像は、私だけかもしれませんが。


 書いているうちに、桜井氏の「声のスタイルブック」が、もう一度聴きたくなってきました。拙宅にあるCD集『昭和の演芸』に収められているので、あとで聴いて楽しみたいと思います。


 

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