最終話 聖女様と付き合うためには学校中に認めてもらうまで
デートの土曜日がやってくるのだが軟化していた彼女の態度は、またしてもぎこちないものに変わってしまう。
「おはよう」
ふたりきりのデートだと言うのに彼女はさほど舞い上がっているようには見えない。
普段の昼休みのほうがもう少しテンションが高い。
挨拶もそこそこに彼女は先を歩き出す。
(どういうことだろうか…?)
そんな事を軽く思考するのだが思い当たることなどは何もなく。
「どうかしたの?」
その問いかけに彼女は目も合わせずに首を左右に振るだけだった。
(なにかしてしまっただろうか…?)
余計な心配を胸に少しだけ頭を悩ませているのだが、どうしても思い当たることはない。
「楽しみじゃなかった…?」
しつこいようだが問いかけると彼女は口を尖らせてやっと口を開いてくれた。
「私…グループに入れてもらってない…」
その意味のわからない答えに頭を悩ませるていると、
「廣木くんと他の友だちのグループに私入れてもらえてない…」
「え?どういうこと?それで拗ねてるの?」
「拗ねてないし…」
その言葉に苦笑の表情を浮かべていると彼女は続けて口を開いた。
「私以外の女子とも仲良くしたいんだね…」
などと、束縛のような言葉を耳にして少しだけ彼女のことを年相応な女子に感じた。
「誰とでも友達として普通に仲良くしたいよ。仲良い友達は大いに越したことはないでしょ?」
「そうだけど…」
「清野さんだって聖女様って呼ばれるぐらいだし友達は多いんじゃない?それと同じことだよ」
「けど…」
彼女は言いにくいことでもあるかのように再び口を噤むと不機嫌そうな表情を顕にした。
「何か不満?」
こんなやり取りが少しだけおかしく感じた。
まず第一に僕らは恋人同士でもない。
彼女の好意の理由もはっきりとは知らない。
友達としてなのか、異性としてなのか、そのどちらかもはっきりとしていないのだ。
ただの友達、キープくん何号かもしれない。
そこまで思考してしまうので彼女の好意の理由を知れるまで僕は彼女を好きになることはないのかもしれない。
ただし、昼食にお弁当を作ってきてもらえるのは正直嬉しい。
単純に彼女を好きになってしまってもおかしくない。
僕は自分を律してこの気持ちが爆発しないように制御しているのだ。
「不満…かも…」
やっとの思いで口を開く彼女の続きの言葉を待っていると、その言葉は案外早く出てくる。
「私だけ特別が良いな…」
「どういう意味?」
なんて聞きたかったが聞いてしまったら最後な気がした。
だからその言葉は言えるわけもなく、ただ何となしに頷くだけだった。
少しだけ気まずい雰囲気の中、僕らはショッピングモールに足を踏みれて中に併設されている映画館を目指した。
流行っているラブストーリーの映画のチケットを買うと中央の席に腰掛けた。
映画がスタートして二時間ほどの上映時間が過ぎると彼女は準備していたような言葉を口にした。
「あんな恋愛したい」
「誰と?」
そう聞いてしまえば答えは簡単に出てくると思った。
でも僕は何故かたたらを踏んでいる。
もしかしたら騙されているのかもしれない。
転校生の僕にハニートラップを仕掛けて楽しんでいるだけかもしれない。
異分子の僕はそんな想像までしてしまう。
きっと彼女はそんな悪いことはしないと分かっている。
だけど、平凡な僕を好いてくれている理由がわからない。
だから僕は、
「出来ると良いね」
なんて当たり障りのない言葉を口にした。
当然のように彼女は不貞腐れたような態度になり僕も肩を竦める。
僕だって確信のないことに足を踏み込めるほど勇者ではない。
騙されたら傷つくし誂われて遊ばれたら立ち直れない。
簡単に言えば臆病なだけだろう。
そんな自分に嫌気が差すのだが、それでも異性に対しては簡単に自分の考えを変えることも出来ずに二の足を踏んでしまう。
もっと単純に足を踏み込んでみたら白黒はっきりとしたのだろう。
それが出来ずに今のままの関係を継続したい僕はただ現状に甘えて逃げているだけだった。
それを分かっていても僕が僕を変えることはそんな簡単ではなかった。
(清野さんを友達と思えていたら簡単に踏み込めたんだろうな…)
言うならば僕は彼女を十二分に意識しているということの裏返しで。
しっかりと異性として意識してしまっているのだ。
「次の月曜日はちゃんと手作りのお弁当作っていくね」
彼女はそれだけ言い残すと電車に乗り込んで帰路に着いた。
僕らは別々の帰路に着くと明後日からのことを考える。
クラスメートにファンクラブ。
その他の生徒にも認めてもらえる存在になるためには…。
ただの転校生Aではなく廣木蔵馬として認識してもらうために何を成すべきなのかを思考する。
簡単に出るはずもない答えに頭を悩ませながら二日間の休日はあっという間に過ぎていくのであった。
文字数の都合上、簡単に話を進めるとして…。
四月の球技大会、GW中の二度目のデート、梅雨の間の図書室での密談。
それらを学校中の生徒に認識されると僕らは学校中に認知された公認カップルに認定されていた。
彼女のファンクラブの女子たちも直接関わってくることもなく恙無く僕らの関係は進んでいた。
「そろそろ信じてくれても良いんじゃじゃない?」
清野は僕に問いかけるのでそれに頷いて応える。
「じゃあ付き合う?」
その言葉に僕はどうしようもなく頷く。
そうして僕らは恋人になるのだが…。
その後、僕らが長いこと恋人で居たかは清野の性格の都合上、読者のご想像に任せるとして…。
そろそろ文字数も限界なのでここらで閉じさせてもらう。
転校生である異分子の僕が転校先の聖女様と恋人になり学校中の生徒に認めてもらう話なのであった。
完
転校先の学校に居る聖女様が何故か僕にだけぎこちない態度を取る理由を僕は密かに知ってしまう ALC @AliceCarp
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