11 夜水とピンク本
「そうだ、トラベラーになってからの日記に何かしら書いてあるかもしれない」
本をぽいぽいとベッドに放り投げていると、奥の方に縦ではなく横に置かれた小さな本が見つかった。
「もっと目立つとこに置けよ、俺……」
まるでエロ本みたいな置き方に呆れてしまう。ピンク色の本は小さいのにズシッとした重みがあり、ダイヤル式の暗証番号が付いていた。
「明らかに怪しいだろ。これ」
すると階下から「夜水ぅ~夜水ぅ~」と妖怪の声が聞こえてきた。
「やべっ!」
本を漁るだけで三十分時間を掛けてしまった。まだトランクに服を詰め込み切っていない。慌ててクローゼットの中にある服を押し込む。
「これは面白いから持っていこう。あとこれもだな」
夜水は日記とダイヤル付きの本もトランクの中に放り込んだ。
ギッ……ギッ……と階段を昇る足音に、ぞわっと背筋の毛が逆立った。
「夜水ぅぅ。早くご飯食べないと冷めちゃうわよぉ」
「わ、わかった! すぐ行くから先に降りてて! じゃないと行かねー、じゃなくて行かないよ!」
「待ってるからねぇぇ~」
ギッ……ギッ……という音が階下へと消えた。
「マジのホラーよりこええ」
夜水はぎゅうぎゅうに詰め込んだ重いトランクを持ち、忍びの者のように音もなく階下へ降りた。
「夜水ぅ」の声が聞こえるより先に「友達んち泊まるから!」と叫ぶと、ダッシュで夜の闇へと走り去った。
ああ、怖すぎて漏れそうだったと安堵する。
「あれ?」
夜水は道端で一旦立ち止まった。何かを見落としてるような気がしたからだ。でも道に何かを落とした形跡はない。そうではない、刺さった小骨が出そうで出ないもどかしさを感じる。でも、それが何なのかが分からない。
「あまりの怖さに記憶が飛んだのか? 大事な情報だったら女装の父さんを恨む」
ぶつぶつと文句を言いながら、夜水は辻の家を目指して駅へと歩いた。
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