地下墓地へ




 お婆ちゃんのお店を後にした私は、噴水広場からドゥーバに転移。

 そして、北門から外に出た。


 グレゴールさんに言われたのは、北西の方角だったか。

 ゴブリンがあちこちにいるフィールドを、歩いて移動する。


 あじりてぃー……だっけ。それに一切振っていない私は、あくまで現実世界と大差のない速度しか出すことが出来ない。

 ちょっとでも振っていれば、こうした移動もよりスムーズになったのだろう。

 まあ、振らないけど。


「……ところで、どうしてゴブリンたちは逃げていくの?」


 そう。襲いかかってくると思っていたゴブリンたち。現に、ドゥーバに初めて向かった時は奴等のせいで大変なことになった。

 お陰でグレゴールさんに目を付けられ、補導されることになったのは記憶に新しい。


 それが、なぜか一向に襲い来る兆しを見せない。それどころか、みんな私の姿に気付くとこぞって逃げていく始末だ。


『凄女サマだからなぁw』

『ゴブリンたちにも知れ渡ってきたか』

『危険近づくな ビームで焼かれます』

『草』


「やっぱり視聴者さんたち一度まとめて焼くべきじゃない?」


『ひい』

『罪なき人々まで巻き込むなw』

『やっぱり凄女サマじゃないか』

『そういうとこやぞ』

『変なところばかりカナに似るw』

『実際、あいつはやべえみたいな認識は受けてそう』

『レベル差あるしな』

『下手すりゃ3倍か』


「あ、レベル差かー。それはありそう!」


 ゴブリンたちも、勝ち目の無さすぎる戦いはしてこないって訳か。

 まぁ、こっちとしても、妨げがないに越したことは無いんだけどね!



 さて、しばらく歩いていると、何となくあたりの空気が変わったのを感じた。

 なんと言うか。空気が……重い?

 いつの間にか、空はどんよりとした雲に覆われている。


 不気味なものを感じながらも、歩みを進める。

 気付けば、前方に墓地が広がっていた。


「…………ぅええ。ちょっと怖いんだけど」


 すっかりと寂れてしまった様子。なるほど、廃、というのも頷ける。

 幽霊の一つでも出てきそうな雰囲気に、思わず頬が引き攣った。


『おやおや?』

『ホラー苦手な感じ?』

『そんなわけないでしょ凄女サマだぞ』

『苦手でも浄化して終わりそうw』

『たまには弱々しい姿見せちゃう?』


「好き放題言ってんじゃないぞー!

 いやさ、そこまで苦手なつもりは無いんだけど……皆も体験したらわかるよ。このリアルな世界だからこそ不気味なんだよ!!」


 そう。これが画面の中とかなら、別にどうってことは無い。

 だが、これはバーチャルリアリティ。五感全部で不気味な空間を感じ取ることになるんだ。


「……取り敢えず、カタコンベとやらの入口探さなきゃ」


 地下墓地の調査が任務だ。地上部分に気を取られていたって仕方が無い。

 先ずは地下に繋がる入口を探さなければならないと思っていたのだけど…………どうやら、その必要はなさそうだ。


 北東方面へ、数十メートル。そちらの方角から、物凄く不穏な雰囲気が漂っている。

 負の力というのだろうか。何かが溢れて来ているその場所に、地下への入口が有るのだろう。


 静かに、そちらへ向かう。

 やっぱり、どんどん空気も重くなってくるね。


「……ここだね」


 下層へと続く、大きな石段。

 漂う負の気配は、間違いなく地下からだ。


 ゆっくりと、階段を降りて行く。

 下りきった先には、大きな石の扉がそびえ立っていた。


 扉から溢れ出るおどろおどろしい気配は、来る者すべてを拒んでいるかのようで。

 気圧され、思わず一歩後ずさる。

 その瞬間だった。


 不意に、胸のあたりから暖かな光が放たれる。

 御守りとして首から下げていたペンダント。それが、私を励ますかのように光を放っていた。


「……ん。大丈夫。やるべきことも、なんとなく分かった」


 ぎゅっと、胸元の小さな星を握りしめる。

 静かに跪いて、重厚な扉を見上げた。


 頭を垂れて、祈りを捧げる。

 スキルの【祈り】ではない。ただただ純粋に、黙祷。


 ほんの少しの空白。

 扉で堰き止められ、溢れ出していた禍々しい気配が、少しずつ浄化され消えて行く。

 次の瞬間、ゴゴゴゴ……と鈍い音を立てて、重い扉がゆっくりと開かれた。


「……ん」


『開いたね』

『おお……』

『壮観』

『祈りを捧げて開くなんてRPGっぽい』

『雰囲気あって良いね』


「えへへ。門前払いにならなくてよかった。なんとなく、これが助けてくれたような気がするよ」


 にへらっと笑いながら、ペンダントをそっと握りしめる。

 なんだか力が湧いてくるんだよね。


 よし、行こうか。



 内部は、遺跡のような構造になっていた。

 どういう原理かはわからないが、壁のところどころに光る大きな石が埋め込まれていて、探索するのに必要な灯りを供給してくれている。

 全体的に多少薄暗くはあるものの、松明などで光源を確保する必要はなさそうだ。


「灯りがいらないのは助かる……かな」


『せやね』

『人工感溢れる場所やな』

『地下墓地なんだしそりゃそうでは?』

『となるとこの灯りも昔に用意されたのかねぇ』

『灯りがあろうとも不気味は不気味だ』

『やっぱりアンデッドの巣窟なのかな』


「ん~どうだろう。案外平和に奥まで行けたり…………」


 ガタン、と物音。

 反射的に振り向くと、入ってきた扉が閉ざされていた。

 同時に響き始める、カタカタという音。地を這うような、おぞましいうめき声。


 向き直った私の目に飛び込んできたのは、何処からともなく湧いたらしいアンデッドの群れだった。

 視界の奥には、まだまだ追加としてこちらに向かってきている姿も見える。


『うわぁ』

『閉じ込められた?』

『クエストの条件の謎が一つ解けましたね(』

『これはあまりにもあまりな光景w』

『いくらデフォルメされててもこれはきっついw』

『がんばって』

『次回、ユキ死す』


「予想してなかったわけじゃないけど、一番嫌な当たり方だよーー!」


 ちっくしょーやってやる。

 手始めに、聖魔砲で一網打尽だっ!!






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