御守り



 

 グレゴールさんからの依頼を受け、神殿を後にした私。

 まず向かう場所は、件の廃墓地…………ではなく。


「まずは回復アイテムの補充しないと、だよね」


『せやね』

『ダンジョン攻略に準備は必須』

『ちゃんと準備出来てえらい』

『おかしい。用意するなんて脳筋らしくない』

『……別人?』


「おいあんたら。見えてるんだからねそのコメント」


『ひぃ』

『草』

『因果応報なんだよなぁ』

『日頃のおこなひ ですね』

『普通に行いって書けw』


「ぬぅぅ。私そんなに脳筋脳筋してないもん」


『どの口がw』

『知らなかったのか? 真の脳筋は脳筋に気づかない』

『脳筋であることに気づくほどの脳も無い』

『全てキンニク』

『コメントが自由すぎて草なんだが?』


「良いよそういうつもりなら。皆、表おいで。ビームで焼いてあげる」


『ひぃ』

『ひぃ』

『やっぱり脳筋じゃないか』

『ありがとうございます』

『おいw』

『一人おかしいのいたww』


「我々の業界ってやつでしょ知ってるよ理解はできないけどね!」


『笑うんだよなぁ』

『面白いね』

『それにしても、運営さんNPCに厳しいよなw』

『わかる』


「現地人さんに? どういうこと?」


『ほら、ユキが訪れなければゴブリンと墓地の二正面になっていた可能性が有るわけでしょ』

『どっちも失敗してた可能性まである』

『街滅びるのでは?』

『つよつよ騎士たちがなんとかしそう』

『実際ゴブリン戦争? の間、何するんだろうな。騎士様たち』

『ゲーム的に考えるならやばいときに出張ってくるんだろうけど』

『どうなんだろうね。この世界だと』


「ほえ~みんな色々考察しているんだねぇ。

 でも確かに、どうなるんだろう。まあ、私達が頑張るに越したことはないんだろうけど」


 ミスリル騎士団の方々も物凄く強かったし、なんならグレゴールさんに至ってはレベル100とか行ってたからねぇ。

 もし本当に危機的状況であるならば、手をこまねいている筈はないだろう。何処かのタイミングで出てくるのかな?

 ぶっちゃけ、彼らが全員出撃すれば我々プレイヤーなんて足元にも及ばないだろう。

 そうなったらゲームとしてはどうなのって感じだし、出撃できない理由でも出てくるのかな。



 改めて、クエスト用のウィンドウを可視化。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆

 特殊クエスト[地下墓地(カタコンベ)の異変]

 勇ましく、そして可愛らしいと名が広がり始めている当代の聖女。

 そんな彼女に、新たな任務が下された。

 活性化してきている地下墓地の調査と、浄化。

 実力を鑑みれば全く問題ないはずの任務だが──


 成功条件[地下墓地 深部に到達する]

 失敗条件[地下墓地に足を踏み入れぬまま一週間が経過する]


 ◆◆◆◆◆◆◆◆


「だめだ一行目が気になりすぎてなんにも頭に入ってこん!!」


『草』

『そこはあきらめてもろて』

『ちゃんと本文よんであげて』

『()』



「わかってるけど……! とりあえず、露骨に匂わせに来ているかな?」


『何かはあるよね』

『なにかありますよーと匂わせてくれているだけ有情』

『アンデッド、地下墓地、専用クエスト。何も起きないはずがなく……』

『ユキにとっては相性抜群だよね』

『これってさ、地下墓地に足を踏み入れれば、深部には一週間以内に到達しなくともOK?』


「え? あーー……どうなんだろう。

 普通に考えれば、深部で浄化とやらをしないといけないと思うんだけど」


 言われてみれば、このクエスト文には穴があるように見えなくもない。

 成功条件が深部到達なのに対して、失敗条件は入り口を超えるかどうかって感じ。


『そもそも、深部も到達だけでええんやなって』

『確かに』

『足を踏み入れるだけで何かの条件満たすんじゃない?』

『ありそう』

『覚悟の準備をしておいてください』

『↑待ってそれはなんか違うw』

『草』


 なるほどねぇ。指定のポイントに着いたら、その時点でイベントが起こる可能性もあるって訳かぁ。

 ここは、地下墓地に入ったらしばらく出てこられない可能性まで計算に入れるべきかな?


「ふーむ。しっかり準備して乗り込むって方針は間違いなさそうだね」


『せやね』

『間違いない』

『うむ』


 よーし。おばあちゃんのとこ、行ってみよー!!




 ◇◇◇◇◇◇◇◇




「ごめんくださーい」


 扉を開けて、お店に入る。

 今日の店番は、若い女性だった。


「こんにちは。ポーション補充したくて」


「いらっしゃいませ。聖女様ですね? おばあさまがお待ちです。どうぞこちらへ」


「ふえっ。あ、ありがとうございます」


 店に入るや否や、カウンターの横手から店の奥へと誘われる。

 まるで私が来るのを分かっていたかのような対応に、思わず固まってしまった。


 会釈を返しながら、奥へ。

 通された先には、いつものおばあちゃんの姿があった。


「え、えーと、こんにちは」


「いらっしゃい。待っていたよ」


「……分かっていたんですか?」


「勘さね」


「カン、ですか」


「前も言った気がするけれど、いろいろと分かるようになるのさ。このくらいの歳になるとね」


 しみじみと呟いてみせるおばあちゃんだけど、相変わらず貫禄が凄い。

 そういうものなんだろうか。どうも、この人には尋常ならざるものを感じるんだけども。


「どうやら、大きな壁を乗り越えてきたみたいじゃないか」


「……! えへへ。でっかい相手にリベンジしてきました!」


「そうかいそうかい。若い子は良いねぇ。3日もあけずして大きくなっちまうんだから」


 目を細める姿は、やっぱり先導者のそれだ。

 本当に、一体何者なんだろう。


「ポーションの補充だね?」


「はい!」


「はいさ。これを持ってお行き」


「わ、良いんですか?」


 差し出されたのは、中級ポーション20本。それも、全部品質Aだ。


「その代わり、ちゃんと次も一皮剥けて帰ってきておくれよ?」


「はい! ありがとうございます!」


 支払う金額についても、全く問題はない。

 ちゃんと、フレイさんのところでこれも見越してお金作ってきたからね!


「そういえば、大蜘蛛の素材、残っていないかい?」


「……! 全部売っちゃいました」


「そうかい。ならいいんだ。

 覚えていたらで良いから、こんど補充に来るときは蜘蛛の目も持ってきてくれないかい? 薬の材料なのさ」


 蜘蛛の目……ああ、ジャイアントスパイダーも落としていたはず。

 あのときは糸にしか興味がなかったから意識もしなかったけれど、そうか。ポーションの素材になるのか。


「わかりました。覚えておきます」


「お願いね。 ……そうだ。忘れるところだった」


 ふと何かを思い出したかのように立ち上がったおばあちゃん。

 箪笥の引き出しを開けると、ゴソゴソと何かを取り出した。


「墓地に行くのなら、これを持ってお行き」


「……これは?」


 わーお。なんでもお見通しなんですね。

 ちょっと呆気に取られながらも、差し出されたものを受け取る。

 

「御守り。きっとお嬢さんの行く先に光が射すように……ってね」


「……ありがとうございます!」


 星を型どった、小さなペンダント。

 ぎゅっと握りしめると、たしかに温かなものを感じる。


 もう一度お礼を言って、一礼。私は店を後にした。

 

 一応、預かった『御守り』確認しておこうか。

 えーと、ウィンドウを……ん。開いた。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆

 アイテム:星のペンダント

 分類 :アクセサリ

 性能 :INT+10% 闇属性耐性大

 説明 :稀代の聖女が真心を込めて生みだした逸品。長年経った今も、装着者をいかなる闇からも護るだろう。

[イベントアイテム] [譲渡不可]

 ◆◆◆◆◆◆◆◆



 …………えっと。

 おばあちゃーーん!?




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