ユキ 公認になる

 




「あーーうーー…………運営ぃ……」


 怨嗟の声を上げながら、ステータス画面を操作。

 ああ、体力7000超えたや。


『ドンマイw』

『まあ、監視対象だしな』

『ユキが持つと火力ぶっ壊れてたし、しゃーないって見方もできる』

『あー。貫通500ダメ近くはさすがにえぐいな』

『後衛ワンパン確定で草ですわ』


「いやーそれはわかるけどさぁ。それとがおーはまた別じゃないかと思うわけなんですよ」



『運営の有能さが出ましたね』

『ぐう有能』

『ニーズをわかってる』

『がおー連打したユキも悪い』

『それなんだよなぁ』


「うぐ……納得いかぬ」


『諦めてもろて』

『我々は満足』

『わかるw』

『そういえば、公認マークついたんやね』

『ほんまや』

『おお』

『おめ』

『おめー』


「え、公認? なにそれ」


 ほえ?

 急に視聴者さんたちが祝福してくれているみたいなんだけど、どういうことだろう。

 公認……なにそれ。


『連絡行ってないん?』

『無知www』

『公認しらない配信者とかいるのか(困惑)』

『嘘やん』

『華やぞ!!』


「あー……なんせ配信始めてまだ一週間たってないからねぇ……

 カナの真似して始めただけだから、よく分かってないんだ」


『そういえば()』

『忘れてたわ』

『そうなん?』

『1週間で登録者三十万超えってマ?』

『常識外が過ぎる』


「えーと……多分、ものすごいことなんだよね。

 えへへ。まだはっきりと実感できてはいないけれど、みんなのおかげだよきっと」


『無欲で笑う』

『登録者必死で稼いでる人がみたらキレそうw』

『この純朴なままでいてほしい』

『わかる』

『わかる』

『わかるわー』


「きっと私は変わらないさー。なにせ、完全に自然体でやってるからね。

 さて、そろそろ周回始めますかー」


『周回』

『またエリアボスさんが犠牲になるのか……』

『キングスライムw』

『あの火葬大会は酷かった』


「あの時は、カナの炎が強かったよね……!

 今回はわたし一人だから、ヘマしないようにしないと」


『ミスったらつかまるもんな』

『ソロは難易度高いってw』

『[吉報]がおー聴き放題』

『神か?』

『神回じゃん』

『割と常に神回なんだよなww』

『わかる』


「あーーー……! がおー…………やるしかないもんな……

 うぐぐ。今日までだから。もう使わないから」


『諦めて』

『がおーからは逃れられんよ』

『実際便利だしなw』

『勇ましく可愛らしい聖女様の主武装なんだからしっかり使ってあげて』

『猛き聖女様w』


「……ほんと、運営さんを許してはいけないと思うんだ」


 この悶々とする気持ちはどこへぶつければ良いのだろうか。

 それはもちろん決まっている。


 私は#滾る__たぎ__#る気持ちを抱えて、本日四度目となるボスゲートをくぐった。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇




 結局、アレからジャイアントスパイダーを六度葬り。

 七度目に、集中力が切れた所を拘束されて死に戻ったところで今日は切り上げた。


 素材の納品はまた改めてということにし、配信を終了。

 もう八時半を過ぎたということもあり、そのままログアウトだ。


「んーー……今日も、濃かったぁ……!」


 ベッドから起き上がり、身体を軽くほぐす。

 なんとなく携帯を観ると、新着のメッセージが一件来ていることに気付いた。


 んー……なんだろ。

 件名は……『Infinite Creation 運営チーム』……。


「インクリの運営っ!?」


 え、待って。私なにかした!?


 思考を巡らせる。

 うん。心当たりしかないや。


『ユキ 様

 いつもInfinite Creation をご愛願いただき、誠にありがとうございます。

 運営スタッフの川口です。


 この度は、サービス開始よりこのゲームを楽しみ、そして盛り上げて下さっているユキ様にお願いがあって連絡させて頂きました。

 つきまして、そちらの御都合の付く時に以下までご連絡いただければ……………………』



 え、えーと、とりあえず怒られるとかそういうのでは無さそう……なのかな?

 よく分からないけれど、とりあえずこういうのは早目に返した方が良いよね……!




 ◇◇◇◇◇◇◇◇




 午後九時。

 私は再度、VRの世界に身を投じていた。

 インクリをするためじゃないよ。今回は……


「お待たせしました。えっと……カワグチ、さん?」


「いえ、とんでもない。こちらこそ夜分遅くにお呼びたてして申し訳ございません。

 はい。Infinite Creation運営スタッフの、川口と申します」


 そう。例のメールの件だ。

 実際に仮想空間内で会って話をしようと言うことになり、指定のアドレスからログインしている形となる。


「えっとそれで、お話とは?」


「はい……その前に、お礼を言わせてください」


「御礼、ですか?」


「ええ。ユキ様が全力でプレイして頂いている姿を配信されていることが、このゲームそのものを大きく盛り上げる要因となっております。

 そしてなにより、ああやって心から楽しんでいただけますと、スタッフ冥利に尽きると言うものです。

 本当に、ありがとうございます」


 そう言うと、深々と頭を下げられた。


 いやいやいや! 私そんな高尚なものでもないし!

 確かに配信はうまくいっているかもしれないけど、わたしはただ自分の好きなように遊んでいるだけだ。


「いえそんな! 私の方こそ、楽しませてもらっていて本当に感謝しております!」


「そう言って頂けますのはこの上ない喜びです。より一層励んで参りますので。今後ともよろしくお願い致します」


 お互い笑顔での、当たり障りのない挨拶。

 もちろんこれもしっかりとした本音だけれども、本題はこれからというところだろう。


「実は、ユキ様にはインクリの公認配信者になって頂けないかと思っておりまして」


「公認?」


 公認というと、夕方もそんな話題になったね。

 あれは確かゲームの配信に使っているチャンネルから付与される勲章みたいなもので、箔が付き本人であることがわかりやすい……程度のものであるというお話だった。


「ええ。と言いましても、これまでと大きく変わったことを求めるわけでは御座いません。スポンサーとしての契約に近い。

 むしろ、これまで通り伸び伸びとプレイされる御姿を配信してほしいです」


 こくこくとうなずく。


「運営スタッフは広報も兼ねて、公式からゲームのPVをこれからも掲載していくことになっています。

 その際に、中心として映し出される存在が公認配信者となっているプレイヤーとなる予定でして、ユキ様にはその第一号となって頂きたく」


 あー。ゲーム発売にあたっても、何本も出ていたプロモーションビデオ。

 それを、サービス開始後はユーザーの生のプレイを中心にしていく。そしてそれに私が深く関わることになるかもしれない……ってこと。


「PVの殆どはプレイシーンから切り抜いて映像が造られるのですが、もしかすると公認配信者の方には別途お声掛けして撮影の協力をお願いすることもあるかもしれません。もちろん、強制ではなくあくまで任意となります」


「えーっと。今のところはそれくらいなら全然構わないと思っているのですが、こちらにメリットとかはあるんでしょうか?」


 ちょっとがめついって思われるかもしれないけれど、自分が何かをする時……とくに、『契約』ならしっかりと自分への利も考えなさい。 これは昔からのカナの教えだ。


「スポンサー契約としての、配信環境整備のお手伝いや契約料はもちろんのこと、別途なにか御依頼の際はその都度ご相談させていただきます。

 また、これは是非動画として紹介してほしいという面もあるのですが、大型アップデートを控えた専用サーバーによる先行体験プレイにお招きするのも、公認配信者のみとなります」


 なるほどなるほど。

 

 ……うん、受けても問題なさそうかな。


 目立っちゃうというデメリットはもう今更すぎることを考えると、素直に得るものが多い気がする。

 それに何より、面白そうだ。


「わかりました。お受けします」


「おお! お受けくださいますか。ありがとうございます!それでは、詳細なんですけれど…………」



 そこからは、契約の詳細を詰めて……解散。

 晴れて、明日から私はインクリの公認配信者となるらしい。


 手始めに、長時間ゲームしても身体に負担が掛かりにくいベッドを贈ってくれるんだって。なんか得した気分だ。


 トントン拍子で未知のものを進めすぎちゃったことに一抹の不安が無いわけではないけれど……大丈夫と思うことにしよう。

 えへへ。 明日からも全力で頑張りますよーー!!






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