がおーは公認
「よっしゃー! 私は帰ってきたぞーー!」
きっかり一時間後。
再度ログインした私は、真っ先に配信機能をonにする。
『おー』
『テンション高いなw』
『どうしたw』
『張り切ってる』
「カナとちょっと喋って、元気もらってきた」
『なるほどな?』
『納得した』
『息をするようにカナユキ』
『てえてえ』
「えへへー。それじゃあサクッと作戦確認だけして、挑もうか」
『確認する程じゃない()』
『まるで複雑な作戦があるかのような』
『40秒チャージするだけでしょ(』
『がおーのタイミングが全て』
『悪寒? に合わせて迅速に』
『がおーを当てる』
「全部言ってくれちゃったのでこのまま挑みまーす」
『草』
『ノリが軽すぎる』
『ほんとに行ったww』
『開始してから1分経ってないぞww』
『マジかw』
さあ、三度目の正直だよ!
◇◇◇◇◇◇◇◇
ボスゲートを潜った私は、平原に降り立つ。
そして何よりも早く、[充填]を開始した。
正面から、ジャイアントスパイダーがゆっくりと近寄ってきている。
作戦は単純だ。奴の動きをしっかり見て──ッ!
「っ、『がおー!』」
膨れ上がった敵意を制するかのように、咆哮を放つ。
糸を吐くモーションに入っていたその身体が、大きく仰け反った。
決まった!
一先ず作戦が成功したことに安堵しつつ、残存HPからチャージ時間を把握。うん。あと半分くらいだね。
もう一発くらい糸を吐いてくるだろうか。
緊張の睨み合いを崩したのは、またしても奴の方だった。
「え。──ぎゃっ!」
目にも止まらぬ動きで距離を詰めてきたかと思うと、鋭く尖った前脚を振り払う。
咆哮の準備にばかり気を取られていた私は、モロにそれを受けることとなった。
軽くぶっとばされながら、HPを確認。
……うん。ダメージ自体は問題ない。異常も猛毒だけ……!
すぐに体勢を立て直して、ボス蜘蛛を睨みつける。
猛毒と合わせてHPがものすっごい勢いで減っているけど、問題は無い!
「これで、終わりだーー!!」
[発射]
ギリギリまで高めた威力の光線が、ジャイアントスパイダーを真正面から呑み込んでいく。
光の奔流が消えた後には、奴の姿は残っていなかった。
『只今の戦闘経験によりレベルが31に上がりました』
『W2エリアボス初討伐報酬によりボーナスポイントが付与されます』
「かっったぁーー!!」
両手を突き上げて、全力で喜びを表現する。
『888』
『おめ』
『がおー』
『ほんとに勝ったw』
『2度負けたけど最後はワンパンってのが面白いよね』
『わかる』
『がおー』
「えっへっへ。まぁ、レベルとしてもHPとしても格下だったからね」
『(ユキの)インフレがやばい』
『HP半分でもボスとやり合える訳だもんな。そりゃマックスならハメられなければ勝てるよなぁ』
『がおー』
『なおハメ技さえごり押す模様』
『常識壊れる』
『元々存在しないだろいい加減にしろ』
『毒消さなくて良いん?』
『がおー』
「え?……あ」
言われて確認すると、残り僅かとなったHPが今もなおジリジリと減り続けていた。
慌ててインベントリから解毒薬を使い、回復をする。
「危な。ありがと」
『ええんやで』
『結構危ないw』
『がおー』
「ねえさっきから連呼してるの誰!?」
『ノ』
『ノ』
『ノ』
『ノ』
『ノ』
「多いし! みんな違う人だったの……!?」
『おや』
『もしや』
『お気づきでない?』
『がおー』
『可愛かったです』
『ご馳走様でした』
お気づき……? 何が………………がおー……?
「──ッ! ああああ!!」
『無自覚w』
『え』
『サービスじゃないのw』
『視聴者サービスだとww』
『これは草』
「ち、違っ。みんなが、がおーばっかり言うから……!」
最悪だ。二度と言うまいと思っていたのに、つられてしまった。
もっとこう、勇ましい感じの『咆哮』でよかったのに……!
『はいはい』
『ほんと笑う』
『ソウデスネ』
『がおーもう公式で良くない?』
「良くない!良くないからね!?」
──ポーン
ん。このタイミングで、インフォ?
なんだろう。無性に嫌な予感がする。見たくないんだけど。
『[猛(たけ)き聖女]を修得しました』
「…………は?」
『お?』
『ん』
『どしたん』
「や、あの……えっと…………見せる、ね」
◆◆◆◆◆◆◆◆
称号:猛き聖女
効果:自身の咆哮/大喝スキルを、『聖女の咆哮』に書き換える。
説明:当代の聖女は勇ましく、そして可愛らしい。
◆◆◆◆◆◆◆◆
◆◆◆◆◆◆◆◆
技能:聖女の咆哮
効果:『がおー』の叫びに呼応して発動。対象に超高確率のスタン、高確率の魅了。低確率の即死を付与する。
効果範囲、成功確率は声の張り上げ具合に比例し、対象とのレベル差に大きく影響を受ける。
◆◆◆◆◆◆◆◆
『wwwww』
『草ァ!!』
『うっそだろwww』
『[速報]がおー、運営公認』
『絶対視聴者に運営おるやろwwww』
『これはタイミング狙われてましたね』
え、いや、嘘。
そんなことってある!?
「この、バカうんえええぇぇぇぇ!!!!」
虚しい叫びが、大空に響き渡った。
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