脳筋 ユキ

 



「さーてじゃあ久々のエリアボス戦……の前に、ステータスでも確認しとこうか」


 ◆◆◆◆◆◆◆◆

 名前:ユキ

 職業:聖女

 レベル:30

 HP:6793

 MP:0

 ◆◆◆◆◆◆◆◆


『何度見てもえぐいw』

『世界がおかしい』

『これ余裕でボスより高いでしょ』


「そう、そうなんだよね! キングスライム戦での経験を踏まえると、私の方が二倍近くあるんじゃないかな。

 だからこその、小細工ナシ真っ向勝負よ」


『うーん』

『対策とは』

『予想以上に脳筋だった』


「まあまあ、見てなって!」


 よーするに、GAMANさえ使っちゃえば勝てる可能性も高いでしょ!

 拘束? 無視して解放すればオーケー!!





 ◇◇◇◇◇◇◇◇




 ボスエリアは、だだっ広い平原だった。

 なるほど、森じゃないのね?


 十メートルほど離れたところには、巨大な蜘蛛。

 うーん。確かにデフォルトされてマシになっているとはいえ、威圧感がひどいね。


 即座に[GAMAN]。

 これの解放さえしちゃえば、私が負けることは無い……はず。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆

 名前:ジャイアントスパイダー

 LV:15

 状態:平常

 ◆◆◆◆◆◆◆◆


 レベル15。やっぱり、位置関係的にもキングスライムと同等かちょっと上くらいかな。

 なら、予定通り。


 奴がジリジリと寄ってくる。

 瞬間、強い悪寒に襲われた。


 本能のままに横っ飛び。

 私が居た場所に、猛烈な勢いで糸が吹き掛けられていた。


 一瞬、回避できたかに見えた。

 しかしその糸は、私が避けるのを分かっていたかのように追尾。

 再度の回避行動をとる暇もなく、身体に糸がかかる。


 その瞬間だった。グンと身体が引っ張られ、私の体が宙を舞う。

 

「っ、きゃぁぁ!?」


 ジャイアントスパイダーの元に引き寄せられたと気付いた時には、私は全身を糸で囚われていた。

 繭のようなものに閉じ込められているようで、何も見えない。

 全身に巻きついた糸が、私を締めあげる。


「っ」


 もがこうにも、指ひとつ動かせない。

 意識を向けて確認したステータス画面には、麻痺毒の状態異常。

 そして締め付けの効果なのか、毎秒1%ほどHPが減っていた。



 こ、これはダメそう。

 駄目元で[解放]しようとするも、うんともすんとも言わない。

 そもそもスキル自体がキャンセルされているのか、単純に行動不能なのか。


 突然、身体になにかが突き立てられた。鋭い痛みとともに、状態異常の欄に猛毒が追加される。

 くっ。油断、したっ!


 抵抗も許されず、みるみるうちに減少していくHP。

 結局、私は何もさせてもらえないままジャイアントスパイダーに敗北を喫することとなった。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇




「駄目だった!!」


『いや草』

『そりゃそうだろww』

『寧ろどうしてGAMANで行けると思った』


「いやー……あはは。なんとなく、束縛くらいならごり押せないかなって」


『脳筋』

『皆の予感当たってたw』

『勝てるわけないんだよなぁ』

『それで、これはどこに向かってるんですかね??』


「え? それはもちろんエリアボスだよ」


『草』

『おいステータス半減だぞwww』

『デスペナを無視する女』

『ステ半減でボスに挑む女』

『もうこれ意味わかんねぇな』


「や、やだなぁ。流石に勝ちきれるとは思ってないよ。偵察偵察」


『普通は半分じゃ偵察にもならないんだよなぁ』

『しかし実際3500あれば充分という現実』

『殆どのタンク2000もないでしょ。知らんけど()』

『偵察ってなに探るつもりなんですかねぇ』


「ごり押せるかどうか!」


『草』

『もうダメだこの子』

『はいはい皆さん撤収のお時間ですよー』

『笑うんだよなぁ』

『だれか凄女サマを止めてください』




 ◇◇◇◇◇◇◇



「……という訳で、二敗した」


『www』

『という訳でじゃないんだよなぁ』

『一体何を得たのか』

『ちょっとは攻撃できてよかったね』


 勢いのままに二度目の挑戦をした私は、当然というべきかボコボコにされた。

 やったことと言えば、開幕充填からの糸が来る瞬間にビーム撃ったってだけだから、これで勝てちゃっても困るわけだけど。


 とりあえず反省会&作戦会議をしながら、またボスゲートへと向かう。


「ちゃんと得たものはあったよ。開幕で確定行動っぽい糸吐きまでは10秒ほど。吐かれちゃうともう囚われて詰んじゃう。

 相手のHPは3000行かないくらいかな」


『……』

『……』

『あ、うん。そうだね』

『ユキがちゃんと分析してるからってお前ら固まるなw』

『俺たちの凄女を返せ』

『ひどい言われようだなww』

『日頃の行い』

『そもそも大した分析でもない件』

『↑それなw』


「まーた好き放題言ってるし! えっとそれでね、40秒くらいチャージさえできればまず勝てそうなんだけど」


『糸が来る、と』

『来たら詰むもんなぁ』

『だからソロ向けじゃないと』

『モーション入った瞬間のスタンやノックバックで止められるって聞いたけど』


「スタン? あーそうなのか! 

 んーでも、ビームじゃ間に合わないんだよね。なんとなく来る予兆は分かるんだけどなぁ」


『さらっとバケモノ発言しないで』

『前々から思ってたけど先読み異常だよね』

『わかる』

『分かってるかのように避けるよな』


「んー。わかってるってよりは、来るのを感づくってのが正解?

 昔っから敵意みたいなのに敏感なんだよねぇ」


『はえー』

『やっぱり人類の革新じゃないか』

『↑懐かしいなそれw』

『↑配信初期のネタww』

『リアルチートやめてもろて』


「まー今はそんなことはどーでも良いのだよ。

 一応、糸吐きの一瞬前には動ける。けれど回避は追尾してくるからダメだったし、聖魔砲はモーションがあるから間に合わない」


『となると必要な要素は』

『ほぼノーモーションで発動』

『一定以上のダメージor妨害効果』

『直撃までもかなり早い』

『命中精度も欲しいね』


「いやそんな無茶な…………あ」


『ありますねぇ!!』

『www』

『あるじゃん切り札』

『新必殺技がありましたね』


「た、確かに条件は合致……え、あれ使うの? うええ……」


『嫌がってて草』

『あんだけ弄られればなぁ』

『諦めて』

『あんな便利なスキル使わんわけにも行かんでしょ』

『ほら覚悟決めて』


「わかった、わかったってばぁ!

 次の挑戦は咆哮使ってみる。これで無理なら諦めよう」


『頑張れ』

『大丈夫いける』

『これは行ける流れ』

『恥を捨てろ』

『もう着いたじゃん』


 コメントに言われて意識すると、確かにもうボスゲートは目の前になっていた。

 敵が弱いとはいえ、序盤のエリアの踏破はやっぱり楽だね。


「ん…………あ、今回はデスペナさすがにきついから、切れる頃にまたログインって感じで良い?」


『おけ』

『休んで』

『休憩大事』

『待ってる』

『ゆっくりしてきて』


「あはは。そういう優しいところはみんな好きだよ。

 それじゃあ、ちょうど一時間後にまた配信します。宜しくね!」


『おつ』

『おつおつ』

『がおつ』

『がおつ』

『いやここでも出るんかいw』

『がおーつー』


 切る瞬間に見えた沢山のコメントなんて私は知らない。知らないんだから。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る