(第二節)聖魔決戦

新しい風


 第二の街、聖都ドゥーバ。

 アジーンでの一連の出来事から落ち着いた私は、転移装置を使ってようやくここに来ていた。


 えーっと、カナはどこかな…………


「ユーキッ!」


「わっ」


 いきなり後ろから飛びつかれて、思わず倒れ込みそうになった。

 犯人が誰かは、言うまでもないだろう。そっと引っぺがす。


「あーーん殺生な。 冷たいなぁ」


「いきなり来られる身にもなって。こちとらSTR0なんだよ」


「ウチも0やから問題ないな!」


「受ける側と奇襲する側は違うんですー!」


『相変わらず賑やかで草』

『ホントに仲良いよね』

『自然体な距離感好き』


「んーせやろ?  仲良いなんてもんちゃうからな。#刎頸__ふんけい__#の交わりってやつや」


 どうやら、カナの方のコメントも似た感じみたいだね。

 まるでこっちのコメントが見えているかのよう。


「まーたゲームかマンガで覚えた言葉を」


「なっ!? なんでバレたんや」


「現代で早々聞く言葉じゃないって。最近は中国の戦国時代がブームなんだね。漫画?」


「うぐ……正解や。めっちゃおもろい漫画があんねん」


 ふむ。今のブームは三国時代じゃなくて戦国なんだね。ちょっと興味深い。

 そういえば、図書館の話題書のところ。あそこにそういうのがあったような?


「へぇ。今度探してみる。

 で、それはそれとして……」


「あ、ユキ」


「ん?」


「リベンジ達成、おめでとさん」


 にっと笑うカナ。私も、思わず顔がほころんだ。


「……ん。ありがと」


『てえてえ』

『満面の笑みですわ』

『カメラさんいい仕事するw』

『カメラww』


「……さて、と。今日はどうするんや?」


「んー……特に決めてないんだよね。やりたいことある?」


「んー特にないなぁ……せや。ワールドクエスト関連もあるし、東のほう行ってみいひんか?」


 ワールドクエスト関連。ああ、ゴブリンを減らした数によって楽になるとかいうアレか。

 たしかに、やっておいて損は無いかも。


「おっけー。適当にゴブリン狩れば良いのかなぁ」


「わからんけど、行けるだけ突き進んだらええんちゃう?」


「そっか、それもそうだね。 行くかー」


 目標が決まったので、何となく東門へ向けて歩き出す。

 道すがらの話題は、勿論あのこと。


「あ、カナ。一つ聞きたいことがあるんだけど」


「ん、なんや?」


「装備…………って、いつの間にかすっごい変わってる!?」


 ふとカナを観ると、今更ながら装備がまるっきり違うものになっていることに気がついた。

 漆黒の長杖を携え、全身を包むのは黒と赤を基調としたローブ。


「ふふーん。気付くのが遅いっ」


 誇らしげな顔で、くるりと回ってみせるカナ。

 杖を握り締めてるのを見る感じ、かなりお気に入りなんだろうなぁ。


「凄いね。カッコイイ」


「せやろー?」


『カッコイイな』

『デザインがいい』

『より魔王様になってて草なんだが』

『わかるww』

『装備までそっちの路線かww』


 あーうん。

 わたしも、正直同じことを思った。


 ま、まぁ、カナもイメージは分かった上で着込んでるだろうし、別に口を出すことでもないだろう。

 むしろ、これは魔王呼びを公認したってことでは?


「それで? ユキが気になってんのはこれの手に入れ方……というより、装備の整え方やんな」


 こくこくと頷いた私に、推測も一部混ざっていると前置きながらも、カナは色々と教えてくれた。

 まず、装備の入手方法は大きく分けて四つ。


 一つ目が、現地人のお店から買う方法。

 この世界では、現地人も当然のように生活し、人によっては生産を行っている。

 そう言った人から装備を買い求めるのも、一つの手だ。



 二つ目、売店。

 最低限のポーションや武器防具、消耗品の類など。求めるプレイヤーが一斉に集まって混んでしまう事態を防ぐため、冒険者ギルドの前には無人の販売機が置かれているらしい。

 そこはウィンドウ操作のみで購入を出来るので、現状店に行くのが怖い人にも良いのだとか。


 まあ、カナに言わせれば『こんなもん人が売るほうが圧倒的にええもんになるに決まってるんやから、今から売店に逃げるくらいなら頑張って馴染みの店開拓した方がええ。人付き合いってもんは大事や』だそうだが。



 三つ目。プレイヤーメイド。

 このゲームの遊び方は、人それぞれ。中には装備やアイテムを作るスペシャリスト……いわゆる、生産職と呼ばれる人が存在する。

 流石に、今はまだ初期も初期なのでそこまで秀でた人はいない。けれど、最終的には現地人の職人か生産職プレイヤーに依頼をし装備を作ってもらう流れが当然となる…………らしい。


「そして最後が……それや」


 びしっと、指を指すカナ。

 え、私?


「今身につけとるやろ? ユニークアイテム。

 これは割と推測も含むというか、公式アナウンスだけで裏付けがない情報も込みなんやけど」


 ダンジョンの初踏破報酬や、一部ボスの初討伐報酬など、いわゆる『達成者』への御褒美的な感覚でユニークアイテムが用意されている。

 これらは、その段階にしては一際強力な性能を誇る代わりに一点限りの譲渡不可であるため、まさに一番最初に成し遂げた者への報酬……というもの。

 なお、ユニークアイテムが出た後は、低確率でこそあるものの劣化品が落ちるようになる。こちらは一段性能が落ちる代わりに誰でも入手でき、譲渡も可能になるらしい。



「ふーーん。なるほどねぇ。そう言えば、初討伐報酬って言ってたね」


 なんだかんだ装備している指輪を見る。

 金のリングに付けられた赤い宝石がキラリと光った。


「ん? その指輪って確か……」


「うぐっ。そうだよ! 効果ないよ! でも折角だし着けておきたいじゃん」


『www』

『かわいいかよww』

『折角のユニークアクセだもんなw』

『なお、効果量』

『0に何掛けても0です』

『ダメだツボったwwwww』

『健気だw』


 効果は無いとはいえ、せっかく初めて貰った装備だもん。

 枠を圧迫するまでは着けておいたっていいでしょ!


「気持ちはわからんでもないが……かわええなぁユキは」


 にまにまと笑うカナ。ふいっと顔を背けてやった。

 カメラドローンがふよふよと周りを飛んでいる。


「あ。そーいえば」


 東門を越えて、フィールドへ。

 不意に、カナが呟いた。


「ん?」


「今日こっち来る途中な、なかなかおもろい子と出会ったで」


「へぇ」


「s2の道中で出会ってな。真っ直ぐで好感持てる子やったわ。

 これからエリアボスにリベンジするところやー言うてな」


「カナがそう言うって珍しいね。 その言い方からすると、ソロってこと?」


「そうそう。

 しかもおもろいんが、私たちより小柄な体で、こーーんなでっかいハンマー携えてな。

 ぶんぶん振り回して、敵を倒していくんや。なかなか爽快やったで」


 両手を広げて見せるカナ。

 え、いや、そのサイズのハンマーって、それ持てるかどうかすら怪しくない? しかも、私より小柄で?


「ふふっ。気になるって顔やな。 大丈夫や。ウチの見立てが確かなら、あの子は直ぐに駆け上がってくるで。

 案外、明日にでも再会したりしてな」


「へぇー。カナが言うなら、間違いなさそう。 楽しみだね」


 大きく頷く。


 ふーん。巨大ハンマーを振り回す女の子……。

 ふふっ。なんか絵面想像したら笑えてきちゃった。


 今更だけど。私はまだ、この世界でカナ以外のプレイヤーと全く交流をしていない。


 なんだろう。根拠はないけど、きっと良い出会いが近いうちに起こる。 そんな気がした。





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