咆哮



 さてさて。ドゥーバ東門を抜けた私たちは、どんどんと奥へ進む。

 手前のエリアに居るのは、群れているとはいえ弱めのゴブリンたち。 私たちなら一撃で容易に討伐することができる。


「どっちが行く?」


「んー。私がやるー」


 了解。と答えたカナが、二歩下がる。

 ふふ。後ろに控える姿もカッコイイ。


「それじゃー、張り切って行きますよぉ」


 充填をしながら、一歩前に出る。

 7秒ほどチャージをして……発射!


「ひゅー。 さすがの威力」


「凄いでしょ。しっかり攻撃もできるようになってきたんだよ」


「すごいって言うか、その火力で異次元の耐久力もあるって。

 もはやどうやれば勝てんのって感じや」


「ふむ。 でも? 本音は?」


「んー。カウンターの隙も無く燃やし尽くせる自信あるな」


「あはは。だよね。まだまだ足りないかー」


『は??』

『なんなのこの会話』

『世界が違いすぎる』

『ユキ攻略法[最大HPを越えるダメージを一気に与える]』

『それはそうだがw』

『いやでも可能って知れただけでも(』

『魔王様マジ魔王様』


 私も強くなっているつもりではあったけれど、カナはその上を行く。

 親友の隣に並び立つには、どれ位の成長速度が必要なんだろうか。


 そんなことを考えながらも、目に付くゴブリンの群れを片っ端から薙ぎ払っていく。

 レベルは上がらないものの、けっこう奥の方まで来たんじゃないだろうか。

 密度が増えてきたので、交互に敵を屠り始めた。


「……ほんと、聖女って、なんやろな」


『わかる』

『それな』

『最前線で壁になる』

『前でビーム撃つ』

『殴ると天罰が来る』

『魔法は使えない』

『うーんw』


 思わずと言った様子でカナが呟くと、にわかにコメント欄が活気づいた。

 聖女とはなにか。うーん。


「で、でもさ。傷付くことも#厭__いと__#わず、味方に被害が出るのを抑えに行ってるんだよ。聖女っぽくない?」


『傷付くことも厭わず(自傷)』

『被害を抑える(予め敵を潰す)』

『積極的防衛がすぎる』

『自分の命削ってやってる事が最前線でのビームなんだよな』

『うーんこれは凄女』


「まー、まさにコンセプト通りにLifeで殴ってるわな。受ける機会は激減してる気がするけど」


 腕を組んだ姿勢で、うんうんと頷くカナ。


 失敬な。相手が強い時は、ちゃんと受けてもいるもん!


「あ、ところで凄女サマ」


「どことなく聖女の言い方に含みがあったの私は聞き逃さなかったよ?

  絶対ちがう字で書くほうで呼んだでしょ今」


 じとーっとカナを睨む。

 親友は、からからと笑うだけだった。


「はっはっは。 それで、新しいスキルとやらは使ってみたん?」


「まだ! 回数制限あるから二の足踏んでた」


「あー。制限あると、妙に使いづらい気持ちはわかるかもなぁ」


「そうそう。つい温存し続けちゃうの」


 数の限られるアイテムを残し過ぎて結局使わないの、あるあるだと思うんだ。

 逆に、カナはそう言いつつもすっぱり割り切ってガンガン使っちゃうタイプだったかな。


「えーっとそれじゃあ、次の機会で使ってみるね?」


「お、りょーかいや」


 えーっと。どんなスキルだったかな。一度確認しておこうか。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆

 技能:王者の咆哮

 効果:自身の咆哮に、どちらかの特殊な効果を付与する。

  ①敵性存在に対し、高確率の威圧、恐慌と低確率の即死を与える。対象との距離が離れるほど効果は減少し、また対象が自身より低レベルであるほど効果は著しく上昇する。格上には効果が無い。

  ②不可視の衝撃波を放つ。威力は自身の最大HPの5%。防御貫通効果を持つが、与ダメージ上昇の効果を受けない


[使用回数5/5]※AM0時にリセット

 ◆◆◆◆◆◆◆◆



 [王者の咆哮] 。要するにアレだよね。ぶもーー!って鳴いてたやつ。

 やけに恐怖感を煽ってくると思ったら、そういうスキルだった訳だ。


 叫んだ瞬間に吹き飛ばされる時とそうでない時があったのも、この効果を見るとなるほどって感じがする。


『[速報]凄女サマ、遂にデバフまで覚える』

『硬い奴にデバフ持たせてはいけないとあれほど……!』

『歩く厄災度合いが進化してて草なんだよな』

『これダメージの方も結構えぐない?』

『貫通400ダメージ』

『後衛吹っ飛ぶんですがそれは』

『凄女サマに持たせたらアカンスキルだった』

『腐るスキルもあれば化けるスキルもあって面白いなぁw』

『わかるw』


 コメントにもあった通り、私はやたらと腐るスキルと化けるスキルの差が激しい。

 極振りの影響なのはわかるんだけどね……!


「あ、そこになかなか強そうなんおるで」


 カナが指を指す先には、ゴブリンの群れ。

 ゴブリンウォーリアを中心として、ゴブリンファイターとゴブリンたちが周囲を固めている。

 こちらに気付いた彼らは、ゆっくりと歩み始めた。


「ほんとだ。えーっと。デバフ? 威圧とか与える方を撃ってみるね」


「おっけー。焼き払うのは任せてや」


 にっと笑ってグッドサイン。

 えへへ。頼もしいね。


「えーっと……どうやって使うんだっけ」


 今更だけど、このゲームにおける技能の発動方法は簡単。

 『発動の意思を持って』『技能名を発しながら』『対応する動きをする』の三拍子。

 ただ、このスキルは特殊で、発動に技能名が要らない。その代わりにしっかりと咆哮しないといけないらしい…………咆哮?


 待った。 咆哮ってどんな感じだ。

 うおわーーー!って叫べば良いのか。


 思い出されるのは、実際に使っていたキングボアの姿。

 貫禄ある姿から放たれる咆哮は、正に野獣の王といっても過言ではなかった。


 流石にぶもーはアレだけど、イメージはそんな感じか。

 野生味を意識。呑み込んでやるくらいの気概を持って……!


「すぅー……。 [がおーー!!!]」


 大きく息を吸って、目を瞑るほどに全力で咆哮。

 思わず握り込んでいた拳を解きながら、瞼を開く。


 バッチリと効果は発動したらしい。

 完全に動きが止まったゴブリンたち。そこに一瞬遅れて、天まで昇るほどの火炎が上がった。


「やったね!大成功……!」


 喜びをあらわに、振り返る。

 どこか笑いをこらえている様子のカナに、あれ? と首を傾げた。


「……ふ、ふふっ。 ユキ、無自覚?」


「え、なにが?」


「い、いや、『がおー』って」


「……ッ!!」


 へ、変なことを意識しすぎたらしい。

 ついに決壊したらしいカナが、大笑いを始める。


 顔が一気に熱くなった。


 その後しばらくコメントでも弄られ続けたのは、もはや言うまでもないだろう…………





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