ゴブリンの前線基地




 唐突に始まりました、ゴブリン砦との睨み合い。

 今のところ門はガッチリと閉ざされていて、城壁の上からはたくさんのゴブリンが弓を構えてこちらを狙ってきている。


 ……のだけれど。


「……撃ってこないよ?」


『遠いんじゃない?』

『ありそう』

『威嚇かも』


「あー。なるほど。つまり、これ以上近付いたら撃ってくるってこと」


 多分。とコメントを返してくれる視聴者さんたち。

 うん。頼もしい。


 今の内に、さっき来ていたインフォメーションを共有しておこうか。

 えっと、確か……EXクエストとか言ってたかな?



 ◆◆◆◆◆◆◆◆


 EXクエスト [ゴブリンの前線基地]

 EXクエスト [ゴブリンの動向] より派生


 最近、ゴブリンの傾向がおかしい。

 そんな噂が飛び交う中、とある部隊が不審な砦を発見した。

 人間用としては明らかに小さな砦を前に、発見者の迅速な判断が求められる。


 成功条件1→????

 成功条件2→交戦せずに神殿に報告をする

 失敗条件→????


 ※このクエストにはルート分岐があります


 ◆◆◆◆◆◆◆◆


「あっはっは! まーた前提クエストっぽいのすっ飛ばしちゃったぜ!」


『いやw』

『笑い事じゃねぇww』

『EXって』

『分岐あるって教えてくれてるの逆にやばいよな』

『思わせぶりな?が怖すぎる』


「うーん確かに。これ、このまま帰ったら許される感じ?」


『どうだろう』

『まだ警戒態勢扱いじゃないかな』

『わざわざ表記してるの、露骨に戻れって言ってるようにしか見えん』

『ありそう』


「あるねぇ。じゃあ、いま攻撃が来てないのにもそういう背景あったりして」


『あー』

『プレイヤーの選択待ち?』

『RPGみたいだなw』

『リアルな世界とはいえゲームはゲームってこと?』


「どうだろ。まあその辺りは考えてもわかんないから、とりあえず今どうするかってことなんだけども」


 視界を前方へ向ける。

 相変わらず、たくさんのゴブリンがこちらに弓を向けていた。


 ふーむ。 分岐、ねぇ。

 んーー……………………



「いいや。やっちゃえ。 [充填]」


『おいw』

『思考を放棄するなww』

『絶対めんどくさくなったゾ』

『何するつもり…………?』


 案ずるより産むが易しという言葉もある。

 虎穴に入らずんば虎児を得ず。思い切って突撃してみよう。


 すっかり手に馴染んできた、[聖魔砲]のチャージ。

 ただ、これまでは500を超える充填はしていない。

 えへへ。高火力のものとしては初お披露目になるね!


 自分のHPがみるみる減っていくのを眺めながら、チャージを続ける。

 懸念はゴブリンたちだけど……なにやら落ち着きがなくなり始めた?


「ゴブリン、動いてる?」


『ぽいね』

『そわそわしてる感じ』

『ユキがなんかしてるからだろw』

『ぶ、部隊長! あの女光りだしましたぜ!』

『キラキラしてやがる!!』

『だが動かないぜ!!?』

『どうしますか親分!!』

『ま、待ってろ聞いてくる!』

『お ま え ら』


「あはは。みんなノリノリだね」


 唐突にゴブリン達のアテレコ? を始めちゃった視聴者さんたち。

 本当にそんな声が聞こえてくるみたいだ。


 砦の上は、まだ騒然としている。いや、むしろ酷くなったかな。

 一応、混乱から暴発して攻撃でも飛んできたら即座にこっちも撃ち返す心づもりではあるんだけど。


 そうこうしているうちに、50秒が過ぎた。

 チャージ威力が二千を超えたあたりで、私の周りを聖なる力が渦巻き始める。

 バチバチと、まるで雷のように音を立て始めた。


 流石に尋常ならぬと思ったのか、ゴブリンたちからのざわめきが増す。

 しばらくすると、遠目に扉の門が開け放たれたのが確認できた。


 門の奥にはゴブリンがところ狭しと並んでいる。

 みんなしっかりと武装していて、中でも正面のものは鎧兜まで完備。


 え。あいつ、わたしより装備良いじゃん。ゴブリンに負けたんだけど。

 ちょっと許せない。


「…………来たね」


『あれはやばい!』

『なんとかしろ!』

『あの女止めるぞ!』

『オラァ!準備はいいか?』

『俺に続け!』

『ギギギーー!』


 ◆◆◆◆◆◆◆◆

 名前:ゴブリンウォーリア

 LV:30

 状態:威圧

 ◆◆◆◆◆◆◆◆


 わぁお強い。 けど……きっと大丈夫。

 チャージ時間を確認する。85%を超えた。


 威力は充分だろう。けど、どうせなら。


 長剣を掲げ、ゴブリンウォーリアが突撃を開始した。

 後ろに控えるゴブリンたちも、一斉に後に続く。


 むせ返るほどの熱気が巻き起こり、こちらに押し寄せ始めた。


「……戦場の空気ってやつ?  へへ。でもね。

 ──一足、遅かったかな」


 凄まじいまでの力が、私の周囲で暴れ始める。

 チャージ、94%!


 5、4、3、2、1。


 ぐんぐんと減り続けていたHPが──止まった。

 あは。ぶっつけ本番だったけど、流石に1は残ったね。


「[発射]…………行っっけぇ!!」


 ブゥゥンと、鈍い音が響く。

 刹那。全てを飲み込む光の奔流が、解き放たれた。


 私に向かってきていたゴブリン達を呑み込んだ光線は、そのまま砦にまで到達する。

 ドガーンと凄まじい爆音が鳴り響き、地面が揺れた。


「…………うわぁ」


 視界が晴れた先には、砦……だったものが建っている。

 すっかりと門周辺が抉り取られ、もはや防衛施設としての機能は残っていないだろう。


『ゴブリンの前線基地、損耗度が100%になりました』


「おー……っ」


 強い脱力感を覚え、思わずその場に膝をついた。

 まあ、当然か。HPを残り1になるまで削って撃ったんだから。


 次の瞬間、ぽっかりと開いた壁の奥から、沢山のゴブリンが姿を現す。

 ゴブリンウォーリア、ゴブリンメイジ…………わあお。ゴブリンウィザードとかいうのまでいるよ。


「生き残り、かぁ。 そりゃ残ってるよね」


 思わず、苦笑い。

 中級ポーションを使って、[GAMAN]


 怒り心頭といった様子のゴブリン達から、一斉に強烈な攻撃が飛んでくる。

 成すすべもなく、その同時攻撃をこの身に受けて。


 [解放]すら許されず、私は2度目の死に戻りを体験することとなった。



『復活地点、聖都ドゥーバに転送されます』

『EXクエスト[ゴブリンの前線基地]エクストラクリア条件を満たしました』

『只今の戦闘経験により、レベルが25に上がりました』





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