聖女への道

 



◆◆◆◆◆◆◆◆

 特殊クエスト[聖女への道 終]

 聖女への長い道のりも、とうとう最後の一歩。

 浄化の術を収め、さまよえる数多の魂を天に導くことで、自らの資質を示した聖女見習い。

 神が下す最後の試練を乗り越えた時、彼女は晴れて聖女であると神に認められることだろう。

 成功条件[ジャイアントスケルトンの討伐]

 失敗条件[自身が戦闘不能になる]

 ※このクエストはソロ限定です

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『専用エリアへの転送が完了しました』

『特殊クエスト[聖女への道 終]を開始します』


 聞き慣れない情報に困惑しているうちに、ボスエリアに到着した。

 やけに暗いと思ったら、昼間のはずなのに太陽が出ていない。もちろん、月も。

 ところどころに台座が置かれていて、その上に設置されている松明によって明かりが確保されているみたい。

 半径30メートルほどの円状の広場。周囲は巨大な壁……いや、これ墓石か。それに覆われている。


 転移ポータルのようなものはない。つまり逃げ場はない、と。


『暗っ』

『これエリアボス戦だよな?』

『わざわざ夜間ってことはアンデッドかね』


「あーそれなんだけどね。なんか変なことが起こっちゃったみたいで」


 視聴者さんたちを置いてけぼりにするわけにも行かないので、とりあえずさっき出てきたウィンドウを可視化しておく。

 正直、私もわけわからーんって感じだけどね!!


『は??』

『なにこれw』

『せ い じ ょ』

『せいじょ……聖女?』

『どういうことなの』


「私も聞きたいんだって!!急に条件を満たしたとか言ってこうなったの!」


『わろた』

『いつフラグ立てたんだw』

『え、これクリアしたら聖女になるの?』


「文脈的には、そうっぽいよねぇ」


『いや草』

『聖女はHP極振り職だった……?』

『回復やサポートを全然せずガードもしないで敵の攻撃を正面からくらう聖女』

『なかなかいないですねぇ……』

『いちゃ駄目だろw』

『聖女 とは』

『そもそも、過程をすっとばして終であることに困惑を隠せない』


「好き勝手言い過ぎじゃないかなぁ君たち!!」


 割と最初からだった気もするけど、コメント欄の人たち遠慮がなさすぎじゃなかろうか。

 わかってるよ! 私のプレイスタイルと聖女がかけ離れていることくらいっ!!


「全く、失礼なんだか……わわっ!」


 腕を組んで憤慨してみせようとした瞬間。すぐ前の地面が、突如光り始めた。

 二歩ほど下がって見てみると、何やら紋様が浮かび上がってきている。


「なにこれ。星…………いや、六芒星ってやつか」


 目の前に描かれた魔法陣。

 ひときわ強烈な光を放ったかと思うと、次の瞬間には見上げる程の巨人を生み出していた。


 身長3mはあろうかという巨体。闇の瘴気とでも形容したくなるような禍々しいものを帯びたその身体は、全て骨で出来ている。

 ゆっくりと動き始めたそれが、顔をこちらに向けた。


「──ッ!?」


 身体中の毛が逆立つかのような、強烈な寒気。

 反射的に一歩下がった私の眼の前に、いきなり鋭く尖った氷柱が地面を突き破って現れた。


「あ、ぶなっ!」


 間一髪。一瞬でも遅れていたら、今頃私は百舌の速贄みたくなっていたのは想像に難くない。

 キッと骨の巨人を睨みつける。

 不意は突かれたけど……ぜったい、倒してやるから!



◆◆◆◆◆◆◆◆

 名前:ジャイアントスケルトン

 LV:???

 状態:不死の呪い(4444/4444)

◆◆◆◆◆◆◆◆


「ちょっとまったなんだそれっ!!」


 視点を合わせ呼び出したウィンドウに表示された、見慣れない状態。

 後ろに数字が書いてあるのは耐久値か残量か──わ、危ない!


 またしても氷柱が生えてきたのを、間一髪で避ける。

 んーー厄介だ。とりあえず、不死の呪いとやらが何なのか。


 奴の周囲に蠢(うごめ)いている闇の瘴気。これがそうであるとするならば、まず間違いなく攻撃か防御に使われるのだろう。


 正体を暴くことから始めないと。私の攻撃手段は限られているんだから。

 とはいえ、考えに没頭させてくれるほど巨人は甘くない。


 巨体の割には早い程度の速度で繰り出される、骨の拳や蹴り。そして、先程から何度も仕掛けられている氷柱。

 受けて一撃でやられるとまでは全く思わないけれど、そうそう喰らいたいものでもない。


 今のところは打撃と魔法は同時に放ってきていないから、直感に任せた回避でなんとかなっている。


 それにしても、ほんと何とかなるもんだね。

 攻撃の前には、必ず強い敵意が向けられる。

 身の危険を感じる直感に合わせて早めに身体を動かすことで、ギリギリ回避できているわけだけど。


 昔から、第六感というか、危険意識みたいなのが物凄く敏感なんだよね。

 普通に生きていく分にはあんまり役に立つことはない……というか役に立ってたら現代日本が危険極まりないことになるけども、まさかこういう場面で重宝するとはなぁ。


「んーー。減ってない」


 既に結構な時間、様子見を続けているけれど、不死の呪いは4444の数値から変わっていない。

 とりあえずこの時点で、時限系である線が消えた……かな。


「んっ。危な…………。 うーん。カナならこういう時……」


 困ったときの親友だ。彼女はこういうときどうする? どうしろって言っていた?

 まず状況を整理。突然転送された特殊エリア。ボス名はジャイアントスケルトン。聖女になるためのクエスト。ボスの周りには禍々しいオーラがあって、それには4444の数字……


『ふふっ。こーいう手詰まりっぽい時こそな。冷静になるんや。案外ヒントっちゅーもんは近くに転がってるもんや』


 カナのこんな言葉を聞いたのは何時だったか。

 私が観ていた#親友__かなで__#は、いつも自信満々に困難を乗り越えていた。

 わたしも、必ず。


 もう何度目かもわからない氷柱を避けながら、今度は自分の手札を思い返す。

 と言っても、GAMANと浄化くらいしか…………ん?


「っ! わかっ、た!!」


 大体、読めた。

 自分の考えを裏付けるために、私は行動に出る。


「いくよっ。 [浄化]」


 まずは様子見だ。HPを500消費して、[浄化]を発動。

 祈りを込めて、ジャイアントスケルトンに右手をかざす。


「…………よしっ!」


 先程まで、まるで機械のように打撃と魔法を繰り返すだけだった奴の動きが、今日初めて揺らぎを見せた。


◆◆◆◆◆◆◆◆

 名前:ジャイアントスケルトン

 LV:???

 状態:不死の呪い(3866/4444)

◆◆◆◆◆◆◆◆


 良かった!ちゃんと減っている。

 コレが普段の浄化同様に一撃で削りきらないといけないと言われたら、流石に不可能だった。



◆◆◆◆◆◆◆◆

 名前:ユキ

 職業:重戦士

 レベル:19

 HP:2634/3465

 MP:0

◆◆◆◆◆◆◆◆


 すぐにポーションを取り出して、服用。

 今更気づいたけど、HP回復するの忘れてこっちに来ちゃってる。

 いきなりGAMANを使う流れじゃなくて、寧ろ助かったのかもしれない。


 またも繰り出される拳を先読みで躱しながら、二発目の[浄化]を打ち込む。

 今度の消費HPは、1700。

 狙い通り、残りの更に半分以上を削ることが出来た。


 よし。このままいけば。

 そう思いかけた瞬間に、また強烈な寒気が身体を襲う。

 咄嗟に飛び退いた瞬間、鋭利な柱が地面から突き出てきた。


 安心する間もなく、もう1度。今度も、しっかりと回避。

 リキャストタイムが終わったポーションを使って、HPを回復した。


「これ、でっ!」


 三度目の、浄化。

 ジャイアントスケルトンの周囲を覆っていた闇の瘴気が、完全に消え失せた。


◆◆◆◆◆◆◆◆

 名前:ジャイアントスケルトン

 LV:???

 状態:憤怒

◆◆◆◆◆◆◆◆


 うわ、怒ってるし。

 カタカタと音を鳴らしながら踏み込んできた巨人が、骨の拳を振るってくる。

 大丈夫。特段速くなったわけでもない。


 狙いのわかりやすい、ストレートな打撃を回避。

 連撃してきた所で、結局スピードがなければ当たらない。

 敵意から相手の狙いをしっかりと読み取って、なんとか躱していく。


「ん? あと、一個か」


 ポーションを使う。これで残りは1個。自分のHPは、7割といったところ。

 こうした長めの戦いになってくると、最初にとった持続回復が生きるね。ポーション1本分くらいにはなってる気がするよ。


 二歩、三歩と下がって、ジャイアントスケルトンから距離をとる。出来れば最後のポーションを使ってから攻めに出たいからね。

 すぐに詰めてくるかと思いきや、やつはその場で右腕を掲げた。


 また氷柱かと、先んじて一歩下がる。

 だが、そうでは無かった。


 冷気が産み出され、空中に収束していく。


「やばっ!  [GAMAN]」


 これはマズイ。咄嗟に[GAMAN]を発動。

 その瞬間、猛烈な吹雪が吹き荒れ始めた。

 凍てつく冷気が身体に吹き付け、鋭く尖った氷の粒が私の身を削る。


 それだけでは無かった。吹雪が止んだ瞬間、真正面からとてつもない衝撃を喰らい、吹き飛ばされる。

 いつの間にか距離を詰めていたジャイアントスケルトンによる、渾身の打撃。

 クリーンヒットしたそれは、吹雪と合わせて私の残りHPを九割以上削り取った。


「ぐっ……耐えた、もんね……!  [解放]! 」


 よろめきながらも立ち上がり、右手をかざす。

 私の背丈程にまで膨らんだ光線が、ジャイアントスケルトンを呑み込んだ。

 最大火力の七割にも満たないとはいえ、それでも3000にかろうじて届かないほどの威力。

 それは奴のHPの大部分を削ると共に、大きく仰け反らせることに成功した。


「足りないっ……でも!」


 すぐさま最後のポーションを使用。HPが1400程度にまで回復する。

 全身を震わせ、何らかの攻撃に出ると思われる骨の巨人。HPがかなり減った今、どんな強烈な攻撃をしてくるか分からない。


 けれど。


「私の方が──早い」


 静かに呟いた私の手から、[浄化]の光が放たれる。

 それはジャイアントスケルトンを包み込み、その存在を確かに天へと導いた。



『ジャイアントスケルトンの討伐に成功しました』



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