上級職への道

 



 外からの陽射しで、目が覚めた。

 時刻は午前6時半といったところ。


 ベッドから降りて、ぐいーーっと体を伸ばした。

 何となく窓を開けて、直に陽射しを浴びる。

 ……うん。今日もいい朝だ!


 日課の軽いストレッチをしてから、朝食をとる。

 昨日買い物に行ったときに用意しておいた蒸しパンがあるので、今日は特に作らない。


 ささっと朝ごはんを食べたら、今日は課題をもって外に出る。

 散歩がてら図書館にでも行こうかなってね。

 最寄りのところ、ものすっごい大きくてなんでも本があるんじゃないかってレベルな上に、朝かなり早くからやってくれるんだ。


 このご時世、電子書籍が主体にはなっているけれど。やはり紙媒体を求める人はかなりの数存在する。

 一時、紙の本は廃れるかもーとか言われていたみたいだけど、全然そんなことは無かった。

  私も、本を読むなら紙の方が好きだな。


 図書館についた。流石に早朝というのもあってか、かなり人が少ない。


 適当な席に座って、課題を広げる。

 黙々と進めてある程度終わったら、お待ちかねの読書の時間。

 最近出た本が集められた書棚から何冊か見繕って、のんびりと読む。


 ふと時計を観ると、時刻は午後1時を指していた。

 そろそろ帰ろう。インクリもしないといけないからね!


 行き付けの喫茶店に入り、サンドイッチとウーロン茶を頼む。

 今日はここでお昼ご飯。 レタスとタマゴのオーソドックスなものなんだけど、すごく美味しいんだよね。


 昼食を取り終えて、帰りぎわにお買い物。

 豚肉などが安かったので色々と買っておいた。この分なら明日の買い出しは不要かな。


 それにしても、今日も暑いね。

 ちょっと外に出るだけでかなり汗をかいてしまう。



「ただいま~」


 鍵を開けて、家に入る。答える人はいないけども、私はいつも帰った時には声を掛けるんだ。

 何故って言われると、ちょっと答えづらいけどね。 帰ってきたーという気持ちが強いからかな。


 荷物を置いた後は真っ先に脱衣場へ。ささっとシャワーを浴びる。

 んー。やっぱり汗をかくのは大変だけど、帰ったあとのこれが夏場はとても気持ち良いね。


 さて。最後に夕ご飯の下ごしらえを済ませ、これで万全。

 心置き無くゲームできるねっ!




◇◇◇◇◇◇◇◇




 という訳で、またまたやって参りましたS3エリア。

 昨日は夜間ってのもあってか、まさかの骨軍団の出没だったわけだけども。


 とりあえず昼間はどうなんだろうっていうのと、あわよくばエリアボスまで行っちゃおうかなーと。


 ひとまずウィンドウを操作して、カメラドローンを呼び出す。


「ん。じゃ、今日もよろしく!」


 なんとなくドローンを撫でる。なんか可愛いんだよね。これ。

 撫でていると、配信が開始されたという通知が右上に表示された。

 カメラからちょっとだけ離れて、手を振ってみる。


「はーいこんにちは。今日も配信やっていくよー」


『わこ』

『わこ』

『!?』

『今、撫でて……!?』


「あっ、そこから入っちゃったのか。えへへーごめんね。

 このカメラドローン、かわいいなーって思って撫でちゃってた」


『ええんやで』

『むしろ御褒美なんだよなぁ』

『とりあえずカメラが優秀なことはわかった』

『もっかい撫でて』


「え、やだよ! 流石に恥ずかしいもん」


『カメラを撫でるだけ』

『一回、一回だけだから』

『ワイらに癒しを』


「恥ずかしいって!! ってなんでドローンちゃんもそんなにぴょこぴょこしてるの!?」


 私の目の前でぴょこぴょこと動いてみせるカメラドローン。

 え、まさか撫でろって言ってる?  さすがにないよね……?


『画面がちょっと揺れてるの草』

『なんだそれかわいいなw』

『ユキ視点観たいわw』

『ほら、視聴者とカメラの要望が一致したぞ』


「んーーー……! 一回だけだからね」


 じっとこちらを見つめてくるドローンに向かって、そーっと手を伸ばす。

 少しだけ撫でてあげて、すぐに引っ込めた。


『ありがとうございます』

『あっっ』

『天使か?』

『顔真っ赤かわいい』


「うぅ~~!! な、なんで私こんなことしてるの……」


 顔が熱い。ほんと、どうしてこんなことになってるんだ。

 振り払うように頭を振る。


「もう行くよ!! 探索するんだからっ」


 今いた地点は、例によってS2エリアボスゲートの周辺。

 昨日同様に、新天地を求めて南下をしていく。


 出てきた敵は、S2と同じカラースライム4種。そして、その上位個体っぽいビックスライム。

 多少レベルが上がってこそいたけれど、流石にHPが三千を超えた私の敵ではない。

 多様な属性魔法や、ピックスライムによる体当たり。

 いくら数で攻めてこようとも、溜まったGAMANで蹴散らして終わりだった。


 減ったHPを都度おばあちゃん特製ポーションで回復して、どんどんと突き進む。

 レベルも19になり、そろそろ回復薬の残量が危うくなってきたという頃。

 ようやく、前方に新しいゲートが見えてきた。


「おーー!! ついたぞ! s3エリア境界!」


『おめ』

『8888』

『やるぅ』

『最前線ソロ旅するバケモノ』

『こんなに愉快な最前線ある?』

『ライフで殴る天才』


 盛り上がるコメントを眺めながら、ワープポータルと思しきものの近くへ。

 メニューを開いて、ちゃんとログアウトが可能なことになっていることを確認。ほっと一息ついた。


「いやー一物量で押し切られることもあるかと思ったけど、流石にここまで体力あると余裕だったね」


『おかしい』

『悠々自適のソロ旅行』

『目まぐるしく増減するライフポイントが面白すぎた』

『強いなぁ』

『いまHPどのくらいになったん?』



「ん。えーと……いいや。表示させちゃうね」


◆◆◆◆◆◆◆◆

 名前:ユキ

 職業:重戦士

 レベル:19

 HP:2724/3465

 MP:0

◆◆◆◆◆◆◆◆


『うわぁ』

『3500乗りそうで草』

『別世界がすぎる』

『そりゃモブに負けるわけないよな』

『もうすぐ20か』

『カンストじゃん』


「え、そうなの?」


 興味深いコメントがあった。思わず気の抜けた声が出てしまう。


『ドレンが情報出してた』

『ドレン?』

『最前線をソロで行くガチ戦士。ユキとの違いは、とりあえずちゃんと戦うところ』

『ちゃんと戦ってない扱いで草w』

『実際そう』

『ライフで受けてライフで殴るそれのどこがまともなんですか』

『間違いないww』

『彼によると20でカンスト。転職したらレベルキャップが解放されるらしい』

『へぇ』

『なるへそ』


「へーそうなんだ!! 転職といえば、浄化連打でもらえた称号は役に立つのかな??」


 [魂の救済者]とかいう、いかにも凄そうな称号を貰ったのは、つい昨日のことだ。

 上位の聖職者への条件とも書いてあったし、これは期待して良いんじゃないだろうか。

 そもそも、なんらかの聖職者になっておかないと駄目かもしれないけどさ! 



「とりあえずレベル20にしてみてばわかるかな。じゃー張り切ってこいつ倒しちゃおう!!」


 ボスポータルを指して、勢いよく宣言。

 大丈夫。行ける行ける!!


『猪突猛進で草』

『イノシシユキちゃん』

『相手のHPが自分より低いことを祈るお時間』

『実際足りなかったらどうすんの』


「その時は……諦め?」

 

『正真正銘の猪』

『潔すぎるw』

『実際それしかないもんなぁ』


「ま、考えたってわかんないさ。行くよー!」


 右手を突き上げて、ボスポータルを潜る。

 目指すは上級職。レベル20だ!!



『システムアラート』

『[一定以上の戦闘勝利経験]を確認』

『[一次職業のままである]を確認』

『[魂の救済者の所持]を確認』

『[カルマ値0以下]を確認』

『全ての条件を満たしました。特殊クエスト[聖女への道 終]が実行可能です。 実行しますか?』


「え、あ、『はい』」


『特殊クエスト[聖女への道 終]を開始します』

『専用マップに転送されます』


◆◆◆◆◆◆◆◆

 特殊クエスト[聖女への道 終]

 聖女への長い道のりも、とうとう最後の一歩。

 浄化の術を収め、さまよえる数多の魂を天に導くことで、自らの資質を示した聖女見習い。

 神が下す最後の試練を乗り越えた時、彼女は晴れて聖女であると神に認められることだろう。

 成功条件[ジャイアントスケルトンの討伐]

 失敗条件[自身が戦闘不能になる]

 ※このクエストはソロ限定です

◆◆◆◆◆◆◆◆



 ──いやちょっと待って。どういうこと!?





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る