死闘 『s2エリアボス』
親友と二人、湿地帯を突き進むこと小一時間ほど。
道中、4色のスライムが度々襲ってきたものの、大した障害にはならなかった。
ワイルドボアを狩りまくっていたら親玉が出てきてひきつぶされた……というようなことも起きず、ただただ順調。
私達しか見当たらない影響もあってか狩りの効率は非常によく、ついさっきレベルも10になったところだ。
「いやー順調。楽しいね」
「せやね。ユキと遊んでいるだけで最高に楽しいけども、やっぱ上手くいってると言うことないな」
『またこの娘は』
『天然にぶち込んでくる惚気』
『いいぞもっとやれ』
「あはは。カナはド直球でしょ。 そういうさっぱりした所が好きなんだ」
『お ま え も か』
『好き』
『ι(´Д`υ)アツィー』
『唐突な顔文字やめろw』
ふふふー。仲の良さには誰よりも自信があるから。
今、面白い顔文字が流れてきたね。そんなのもあるんだ。
「……ん? なんか見えてきたで」
カナの声に、意識を前方に集中させる。
見えてきたのは、丸いワープポータルらしきもの。
赤に縁取(ふちど)られたその先は異空間のようになっていて、見通すことは出来ないようだ。
「……もしかして、これが?」
「この先に、ウチらの求めるもんがあるってことやろうな」
エリアボス。このゲートを超えた先に、待ち構えているんだろう。
忘れずにステータス画面を開き、ポイントを振っておくことにする。
◆◆◆◆◆◆◆◆
名前:ユキ
職業:重戦士
レベル:10
HP:2558/2558
MP:0
右手 なし
左手 なし
頭 バンダナ
胴 革のよろい
脚 布のズボン
靴 革のくつ
物理攻撃:0
物理防御:8
魔法攻撃:3
魔法防御:3
VIT:145(+10)
STR:0
DEF:0
INT:0
DEX:0
AGI:0
MIN:0
所持技能:最大HP上昇 自動HP回復 GAMAN ジャストカウンター 致命の一撃 聖属性の心得
称号:創造神の興味
残りポイント 0(-10)
◆◆◆◆◆◆◆◆
HPは、とうとう2500を超えた。
夢の大台まではあと4倍。うーん、遠いね!
だが、これだけあれば問題は無いだろう。
それに、なにより。
隣を見る。 目が合った。
#親友__カナ__#カナがにっと笑い、私も頷く。
──さあ、行こうか!
◇◇◇◇◇◇◇◇
ゲートをくぐった先は、大きな沼地だった。
辺りに目立った木々は無く、せいぜいいくつか大岩がある程度。
地面は非常にぬかるんでいて、かなり闘いにくそうな感じがある。
……まぁ、私たちには関係ないけど。
「なるほど。ボスだけは完全に独立したエリアなんやな」
「みたいだねー。さて、何が出るかな?」
『蛙とか』
『大蛇的な何かかもしれない』
『エリアの特徴を踏襲するなら、ビッグなスライム?』
『ありそう』
視聴者さんたちも賑やかに予想をしている。
うん。確かにボススライム説はありそうだなぁ。
沼地であることを考えると、地中から出てくる可能性が高いだろう。
カナも同じ考えのようで、何が出てきても良いように油断なく見据えている。
「──っ!?」
唐突に上から向けられた敵意。
咄嗟にカナの手を引いて、その場から離れる。
離脱した瞬間だった。
先程まで居た場所に巨大な物質が落ちてきて、ズシンと地面が震える。
「なっ」
「上、から!?」
◆◆◆◆◆◆◆◆
名前:キングスライム
LV:15
状態:平常
S2 エリアボス
◆◆◆◆◆◆◆◆
見上げるほどの巨体。
いったいスライムを何匹重ねればここまでになるのだろう。
思わずぽかんと口を開きそうになった瞬間。刺すような敵意が、身を貫いた。
「やばっ、『GAMAN』!」
反射的にカナの前に立ち塞がり、敵を見据える。
その瞬間、スライムの身体から一本の太い触手が生えてきたかと思うと、強烈な勢いで叩きつけてきた。
「ぐうっ!?」
斜めに振るわれた触手の直撃を受けて、大きく吹き飛ばされる。
横目に確認したHPバーは10%強削られていた。
間髪入れずにカナの元から放たれた大炎が、緑の巨体を焼き焦がす。
一瞬だけ奴の動きが怯んだ隙に、なんとか立ち上がって。
「まだ、大丈夫!」
「りょーかい、やっ!」
カナとの間には、言葉は最小限でいい。
しっかりと意図を組んでくれた親友により、またキングスライムが炎に包まれた。
大丈夫だ。まだアイツの敵意は私に向いている。
改めて言及したことは無かったけれど、『GAMAN』を使うとやたら敵から嫌われるってのは間違いないみたい。
カナに昔教わったヘイトコントロール……だっけ? アレを意識しているわけだけども、思った以上に向こうさんからのヘイトが消えない。
意識して不敵な笑みを作り、キングスライムを見据える。
「……ほら、もっと来い、よ!」
魔物相手に、言葉での挑発が効くとは思えない。ただ、こっちの気分がノっただけ。
けれど、心なしか向けられる敵意が強まった気がした。
二本目の触手が生えてきた。
鋭く尖った先端が私の右肩を貫いたかと思うと、間髪入れずに迫っていた最初の触手が猛烈な勢いで薙ぎ払う。
「まだまだ……だよっ!」
直ぐに立ち上がって、にやりと笑ってみせた。
こちらのHPには、まだまだ余裕がある。
どうやら、『行動』をしようとする動きは禁じられるけど、ちょっと姿勢を立て直すだけくらいなら大丈夫らしい。
まあ、RPGとかでも、自分のターンが回ってくるまで身じろぎ一つしないなんてありえないもんね。
そんなどうでもいい考察もできちゃうくらいには、心にも余裕があった。
「ほれほれ、ユキばっかみててええんか?」
#三度__みたび__#放たれた魔法により、キングスライムの身体に火柱が立ち上る。
流石の威力…………だけど、ちょっっと不味いかも!
「カナ、下がって! 『解放』 お返しだぁっ!」
流石にダメージを与え過ぎたのか、私への敵意が一瞬薄まった。
もちろん、みすみす見逃すわけには行かない。
充分に溜まったダメージを全てエネルギーに変換し、渾身のビームを撃ち放つ。
それは狙い通り大きくキングスライムを揺るがせ、またヘイトをこちらに向けさせることに成功した。
怒りに震える巨体から振り降ろされた二本の触手が、私の身体を打ち付ける。
正直、かなり痛い…………けど!
期待通り。この戦闘4度目の火炎が、スライムを包み込む。
残り少なかったボスのHPバーが、見る間に減少していって。
これで終わってくれと思うと同時に、何処か、まだ緩みを許してくれない心があった。
そんな半ば直感に近いものを信じて、カナの元へ走り出す。
速度はない私だけど、先に動いておけば──!
果たしてそれは正解だった。
かろうじて踏みとどまったキングスライム。立ちのぼる煙の中、最後の力とばかりに高速で触手を伸ばしてきている。
狙いは、カナ。
私に攻撃手段が無いことを読まれているとは思えないけれど、本能的に、カナが唯一の脅威だと察しているのかもしれない。
実際、ここで彼女が落とされでもすれば、私たちは万に一つも勝てなくなる。
──落とされれば、ね。
間に合った。
まだ対応出来ていない親友の前に、立ち塞がる。
「ユキ!?」
「守るって、言ったからね!!」
刹那。強烈な衝撃が、身体を襲った。
薄くなる意識と共に、感じる浮遊感。
空高く打ち上げられたと気付いたのは、すぐだった。
辛うじて残ったHPは、なんとたったの3。
この高さだ。落下ダメージもちゃんとあるこの世界、私が2度目のデスを貰うのは確定だろう。
「……ま、もんだい、ない、よね」
5度目の大炎。
キングスライムが確実に燃え尽きたのを、この目の端に捉えた。
私たちの、勝ちだ。
……私だけ落ちちゃうのは、ちょっと悔しいけど。
けどまぁ、上出来でしょ。
満足感と、少しばかりの悔しさ。
目を瞑って、落下の衝撃に身構える。
──けれど、それは何時まで待っても来なかった。
「あのーはやく目ぇ開けてくれませんかね?」
「ふぇっ」
耳慣れた声が聴こえて、反射的に目を開ける。
そこにあったのは、まるで悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべている親友(カナ)の顔だった。
「え。ええっ!?」
「非力な魔法使いでも、受け止めるくらいはできるよねーーっと」
混乱する私の頭をそっと撫でると、カナはゆっくりと私を地面に降ろす。
そして、最高の笑顔を浮かべた。
「やったな。ボス勝利や!」
「──うんっ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます