第4話



高校生になり、彼との接点はなくなってしまった。


彼は県内一の進学校、私はごく普通の進学校へ。


高校一年生の時、一度だけ彼の学校の文化祭へ行く機会があったが、偶然出くわした彼に手を振ってみたけど彼は私のことを忘れてしまったかのような態度だった。

小学校以来殆ど接点がなく、私が勝手にいつまでも憧れていただけだから、その態度に傷つく事もなかった。


それっきり。

それ以来彼の顔を見ることはなかった。


それでも年に数回は彼を思い出さずにはいられない。


勉強はいつも私の心の支えだった。

勉強が好きになったきっかけが彼だったから何度も思い出すのか。



高校での私の学力順位はごく平均で、いや、不自然なほどいつも真ん中だった。

ので、学力で目立つことはなかったが、得意科目と不得意科目でバランスをとっていたので得意科目のみで大幅目立ちすることはたまにあった。



受験期、私は得意科目の全国模試で一位を獲得。

自分でもこれは予想外。手応えがあっただけだがこれは嬉しいことだ。

これで実力を示すことだけが、その頃の自分には価値があった。

寧ろそれしかなかった。


そのときもやはり、思い出すのは彼だった。



彼が目指すような大学には行けなくても、その少し下のレベルなら目指せる。

入試ギリギリでそこまで持って行けた私にはこのあと悲劇が起こる。



高校三年の冬休み

期待と、緊張と、不安。逃げ出したくてたまらない時期。これまでの努力。

その全てを託すように出した願書。


青春のいちページを刻むように、そのときの光景は私の中にある。


センター試験前、本命校試験料振り込み期間最終日の朝、父親が私に言い放った。

「試験料は払えない。」


頭が真っ白になった。

私の青春の殆どを支え、これからの人生の大きな分岐点となるはずだった希望はこの一言で崩れ去った。


十代の三年間は決して小さな期間ではない。それが無駄になったのだ。


スルスルと今まで頭に詰め込んできたものたちが抜けていくようだった。

何も考えられない。

どこかでこうなる可能性を考えていなかったわけではない。そのためか、涙すら流れてこない。絶望すら感じられなかった。


おわった。


その一言。

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